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相棒は泣き虫なナナフシ

セット君に感謝しなくては。もう一人の契約者候補がいたと言う神殿は、未だに黒山の人だか……精霊だかりだ。

 皮肉な事に契約相手に選ばれたのは。セット君幼馴染みのホリン君。やんちゃそうな顏をした金髪の少年だ。顔も整っており、少年漫画の主人公になってもおかしくない。

契約者は一足先に元の世界に戻ったそうだ。とりあえず、一安心である。

 そしてホリン君は大勢の仲間に囲まれていた。

(そういや、鑑定がパワーアップしたんだよな)

 今までは自分が知っている物しか鑑定出来なかった。レコルト基礎知識とリンクしているなら、ホリン君の友人を鑑定出来る筈。


「ホリン、外界に行ったら風邪に気を付けなさい」

 まずは緑色の髪が特徴の癒し系少女。


鑑定結果:システィーナ・ベール 年齢:十六 種族:精霊(グリーンドラゴン) 紋章ランク:A六枚羽根 職業:学生  人間関係:セット(弟) ホリン(幼馴染・弟みたいに思っていたけど……) 父親グリーンドラゴンの精霊 母親女王蟷螂クイーンマンティスの精霊 備考:人化可能。治癒魔法が得意。

 細かい情報が手に入る様になっていた。しかし、セット君の家族やばくないか?


「シス姉、心配してくれてありがとう。嬉しいよ」

 ホリン君の言葉を聞いて頬をあからめるシスティーナさん。そいつ、あんたの弟を虫篭に入れたんですが。

 セット君、気まずいのか擬態スキルで俺の服と同化してます。


「ホー君、あまり無茶しちゃだめだよ。みんなと一緒に帰りを待っているから」

 次に髪の活発な印象を受ける銀髪の少女。


鑑定結果:シャロン・ジャンベル 年齢:十五 種族:精霊(シルバードラゴン) 職業:学生 紋章ランク:A六枚羽根   人間関係:ホリン(大事な幼馴染み) システィーナ(幼馴染み・お姉ちゃん) セット(幼馴染み) 備考:人化可能。セットはシャロンを好き


「大丈夫だよ。シャロン、だって僕の契約者様強いんだぜ。帰って来たらシス姉やユリカと遊ぼうよ」

 さらっとセット君をはぶりやがった。流石にセット君もへこんでいている。


「お前がいなくなっても寂しくなんてないんだからな。ホリン、お前は俺のライバルだ。俺以外の奴に負けるんじゃねえぞ」

 寂しさを誤魔化す様に話し掛けている。ボーイッシュな黒髪の少女。

   

鑑定結果:ユリカ・ドラ―ガ  年齢:十五 種族:精霊(ブラックフェンリル)

職業:学生 紋章ランク:A六枚羽根  人間関係:ホリン(幼馴染み・ちょっと気になる) システィーナ(幼馴染み・憧れ) シャロン(幼馴染み・親友) セット(虫)  備考:人化可能。最近はセット君と距離を置いている。理由は高位種族と虫は別世界の生き物なので

 ……セット君以外は人間形態になれる高位種族なのか……切なすぎる。


「ユリカも負けるんじゃないぞ……それじゃ、行ってくるよ。みんな、今までありがとう」

 ホリン君はそう言って爽やかに笑うと、旅立って行った……おい、セット君の事忘れてないか。俺等が見つけたから良かったけど、下手すりゃ虫篭の中で飢え死だぞ。

 残された精霊達は寂しそうな笑顔を浮かべ、ホリン君との思い出話をし始めた。

 やがて話題はホリン君が向かった外界へと移行。私は召喚された時にこんな珍しい物を食べた、俺の先祖が契約者とこんな珍しい場所に行った等プチ自慢合戦になっている。

(刺激が少ない分下界の話題が娯楽になっているのか、……待てよ、この空気で契約はハードルが高すぎるぞ)

 出来たら精霊の下界フィーバーが治まってからして欲しい。

 

「皆の者、静粛に……今日もう一人契約者様が来訪された。よって、このまま選出の儀式を行う」

 長老、このタイミングでぶち込みますか!?長老の発言の観衆が色めき立つ。そして、俺に注がれる視線。


「あんたが契約者様か?なあ、俺を連れて行ってくれよ。はっきり言って俺は強いぞ。俺はホリンに負けたくないんだ」

 ユリカさんが必死にアピールをしてくるけど、おじさんは他人を見下す人も、初対面なのに敬語を使わない人も嫌いです。


「契約者様、私も連れて行ってもらえませんか?回復魔法には自信があります……ホリンは危なっかしい所があるから、側にいてあげたいんです」

 システィーナさんは俺と契約したいんじゃなく、ホリン君と離れたくないだけだと思う。それと、俺はホリン君の契約者を知らないんですが。


「私も外界に行ってみたいな。槍なら誰にも負けない自信があります」

 ごめん、シャロンさん。おじさん、君達みたいな目立つタイプは苦手なんだ。

 全員私使えますよアピールが半端ない。きっと自分を否定された経験がないんだと思う。


「お前達が全員いなくなったら、セットのやつがさびしがるじゃろうな」

 長老笑いながら、少女達に話し掛ける。多分、セット君を必要としている人がいる事を伝えたかったのだろう。

 でも、長老は大事な事を忘れている。彼女達はまだ若い。しかも、目の前には得難いチャンスがぶら下がっている。なにより肝心のセット君の姿は彼女達には見えていない。


「セット?なんで虫の話が出てくんのさ?」

 まあ、ユリカさんはセット君と微妙な関係になっているからしょうがない。


「長老様、私は(セット)の面倒をみなきゃいけないんです。セットに出来る仕事なんてないですし……」

 確かに親御さんが無くなったら、セット君の面倒はシスティーナさんがみなきゃいけなくなる。でも、火の弾ストレート過ぎます。


「セット君は関係ありません。外界に行くのは私の夢なんです」

 シャロンさん、言いたい事は分かるけど、ここにセット君がいるんですよ。

 ……今の俺は夢への片道切符みたいなもんだ。幼馴染みを押しのけ、故郷を捨てても手に入れたい存在なんだと思う。

角を立てずに断わる方法を考えていたら、セット君が俺の肩から降りて逃げ出そうとしていた。

 トボトボと、人を避けながら去って行く。その背中は寂しげ気で、泣いてるのが分かった。


「良いですが、俺の紋様ランクは一枚羽のFですよ。まあ、俺が契約したい相手はもう決まっていますけどね……誰と契約するかは、長老様に伝えておきますので」

 長老に耳打ちすると一瞬だけ驚いたが、そいつがいる場所を教えてくれた。


 そいつがいたのは、庭先に植えてあるコナラの木。そこの枝に掴まってジッとしていた。


「セット君……いや、セット俺と契約してくれ」

 同情が全くないと言えば嘘になる。戦士や魔法使いならドラゴンと契約していれば箔がつくだろう。でも、嫌でも目立ってしまう。

その点、ナナフシのセットなら一緒にいても目立つ事はない。


「ぼ、僕は擬態しか使えない外れ精霊ですよ。このコナラの木で生涯を過ごすのが、お似合いなんです」

 セットは泣いていた。まあ、姉や幼馴染みから否定されまくったので仕方ないと思う。


「……外の世界には行きたくないのか?」

 スピリートに住む者は外の界に憧れるそうだ。外界に行けば、精霊として成長でき全てを手に入れる事が出来る。


「行きたいです。外界に行けば僕も成長出来るって思ってました。いじめられなくなりますよね。それに家族に心配を掛けなくて済むし、ホリン君やユリカちゃんと友達に戻れます……何よりシャロンに振り向いてもらえるかも知れません。でも、分不相応な夢だったんです。僕が外界に行っても、迷惑を掛けるだけなんです」

 おじさんは、ホリン君みたく全てに恵まれた人間より、セットの様な奴を応援したくなるんです。応援して、恵まれた奴より強くしたくなるのだ。


「俺の紋様ランクは一枚羽のF。戦闘向きのスキルは無し。それでも四匹のオーガを倒す事が出来た……まっ、ちょっとした秘密はあるけどな」

 それから俺は今までの経緯をセットに伝えた。こことは違う世界で忍びという裏家業に従事していた事や、殺されてこの世界に転生してきた事。

そして低ランクに生まれた所為で家族に捨てられ、危うくオーガに殺されそうになった事等色々話した。


「そ、そのなんて言えば良いのか僕には分からないです……ただ僕はまだ幸せだったって事は分かりました。僕と年が変わらないのに、ジン様は強いんですね」

 セット君は俺の話を聞いて涙を流していた。まあ、中身はともかく今の俺は十五歳。ヘビーな人生だと思う。


「中身がおっさんなんだから当たり前だろ。記憶が戻る前はいじけ虫だったんだし……このまま、この街にいたら木の上で一生を過ごす事になるぞ。嫌なら俺に付いて来い。低ランク同士で手を組んで、いけ好かない高ランク連中に一泡吹かせてやろうぜ」

 セットは涙を拭くと、笑顔で頷いてくれた。


 セットは俺と同じ十五歳との事。そうなると親御さんの許可が必要だと思う……だから家がデカかったんだ。


「低ランクの息子と契約ですか……嬉しいお話ですが、なぜセットなんですか?」

 どでかいドラゴンが、俺を見おろしてくる。威圧感が凄いです。

 セットのお父さんも人間形態をとれるらしいが、ドラゴン形態の方が楽との事。

 ドラゴンの様な巨大生物に合わせていたら、他の生き物が棲みづらい街になってしまう。だから、道路は普通サイズだけど家の大きさはバラバラらしい。

 息子がナナフシでも、ドラゴンパパは心配するんですね……いや、これが普通の親子なんだろう。


「あら、ありがたいお話じゃないですか。このままでスピリートにいたら、セットは庭の木から離れられなくなるんですよ」

 すかさずフォローをいれるカマキリママ。父親ドラゴンの迫力も凄いけど、母親クイーンマンティスの迫力も半端じゃない。刃物並みに鋭いカマがきらめいています。


「セット君のスキルが必要だからです。俺はこの世界に転生して来たんですが、前世はアサシンに近い仕事をしていましたから、潜伏に適したスキルは喉から手が出る程欲しいんですよ」

 セットを選んだ理由はこれだ。でかい布を一枚買ってセットに貼り付いてもらえば、万能隠れ身の術が出来る。スキルも技もシンプルな方が、応用が効くと思う。


「……分かりました。息子をよろしくお願いいたします。セットの成長を確認出来ましたら、私達夫婦も召喚契約に応じさてもらいます」

 普通の契約は常に行動を共にするけど、召喚契約は必要な時だけ力を借りれるシステムらしい。

 セットと契約をした瞬間、俺は再び光に包まれた。

今日はお昼にも更新します。面白いと思ったらブクマ、評価を

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