次の旅
ようやくエンジンが掛かって来ました
気を取り直して、他の物を検証していく。まずはSRから仕込み杖・焙烙玉・お菓子詰め合わせの三つだ。
仕込み杖は、一見するとただの杖である。いや、どう見てもただの杖だ。切れ込みも見当たらないし、回せる所もない。
とりあえず鑑定してみるか。
鑑定結果『仕込み杖:アルブラ大陸で一般的に使われている杖を模してみました。杖の素材は世界樹ですよ。刀身はカーボンとアルミを使用しています。そしてミスリルとヒヒイロカネもミックス。“マジカルジン君、ロッキさんマジリスペクト”と大声で叫べは抜けます』
……素材で感動した自分をぶん殴りたい。自分でジンの名前を叫んだら、忍べないのに……使う時は相手を確実に殺せる時だけだ。
次は焙烙玉。一見すると戦国時代に使われていた焙烙玉である。紙張りだし、導火線は縄。でも不安だから鑑定しておく。
鑑定結果『焙烙玉:日本の博物館に飾ってあった焙烙玉を、私なりに改造した物です。威力はダイナマイト位なので使う時は注意して下さいね』
……導火線凄い短いんですが。巻き添え確実だぞ……異空間に厳重保管しておこう。
お菓子詰め合わせは、違う意味で凄かった。チョコにスナック菓子、それに和菓子も入っている。俺の地元のお菓子まで取り揃えてあるなんて……日本茶ガチャ来ないかな。
Rのカップ麺詰め合わせは、醤油・塩・うどん・そばの四種類。とりあえず箸を自作しておこう。
Nの稲藁・竹竿・かんしゃく玉は、そのまんまだった。ちなみに稲藁は納豆菌付きらしい。大豆も探さなきゃ。
◇
これで兄貴の面目が保てる。雷神槍を持って出掛けようとした時、大事な事に気付いた。
「セット、冒険者学校って部外者入れるのか?」
今の時間は多分授業中だと思う。シャリル様の名前を出せば、すんなり入れるだろう。
でも、冒険者学校は国営だという。
そんな中公爵であるシャリル様の名前を出せば、記録に残るし記憶にも残ってしまう。それだけは忍びとして避けたい。
「冒険者学校の生徒には貴族の子供が多いので、セキュリティがしっかりしているって聞きますよ」
手っ取り早いのは、無断侵入だ。でも、どんなセキュリティが敷かれているか分からないで侵入するのは愚策でしかない。魔法で張られた結界とか避け方知らないし。
「素直に授業が終わるまで待つか」
先生をしているアイさんを頼るって手もあるけど、授業中に訊ねて行っては迷惑でしかない。
「主、僕の新しい能力って役に立つんでしょうか?棘が小さすぎて、使い道が分からないんです」
セットの新しい能力は任意の場所に棘を生やせるという物。強度は紋様レベルに準じる。今の強度は銅だ。
「銅の硬度を持つ棘なんて、とんでもない武器だぞ。今までのお前は攻撃手段を持っていなかったから、隠れるか逃げるって選択肢しか選べなかった。でも今はきちんとした攻撃手段を手に入れたんだぜ」
これで俺の戦略も増える。まあ、親御さんから頼まれている手前、あまりえげつない方法は選べないけど。
「でも、どうやって敵を倒すんですか?」
まあ、文字通り虫一匹殺した事がないセットにしてみれば、実感が湧かないんだろう。
「擬態で隠れたまま近付いて頸動脈を掻き切る。首を伸ばした瞬間を狙えば斬りやすいぞ」
俺の袖にくっついていればチャンスが増える。鍔迫り合いに持ち込み、相手の気を俺に引き付ける。その隙にセットがズバッといくのだ。
セットと話していると、誰かがの足音が聞こえてきた。がたいの良い筋肉質の男性だと思う。
「ジン、シャリル様がお呼びだ。お前に頼みたい事があるそうだ」
やって来たのはジョウさんだった。忍びとしての勘が少しずつ戻って来ているようだ。
◇
やって来たのは、シャリル様の執務室。我が主は今日もイケメンです。
「ジン、戻って来たばかりですまない。セシリア達と一緒に王都に行ってもらえないか?」
セシリアさんはシャリル様の妹で、俺の妹マリーとパーティーを組んでいる。
「分かりました……達という事はマリーも一緒ですか?」
お菓子も手に入った事だし、お兄たま甘やかしまくってしまうかも知れない。
「ああ、王妃がワイルドシープの毛を譲って欲しいと仰ってな。後宮に男は入れないので、セシリア達に頼む事にしたんだ」
マリーのパーティーは身分がしっかりした娘ばかりだ。後宮に入っても問題ないらしい。
「しかし、この間の事件があったばかりであろう。騎士を付けても良いのだが、みな美人ばかりで良からぬ事をしでかすかも知れぬ。その点お前なら色んな意味で安心だ」
ジョウさん、信頼してくれるのは嬉しいですが俺も男なんですよ……可愛いマリーをがっかりさせたくないから馬鹿な事はしないけどね。
「ついでに王都で情報を集めろって事ですね。例の組織の名前だけでもを掴んで参ります」
王都なら色んな情報がある筈。何らかの情報が手に入ると思う。
「ジン、あの冒険者は証拠になる物は何も持っていなかったのではないか?」
シャリル様はそう言うと、にやりと笑った。下手な男がやると下卑た感じになるが、シャリル様だと絵になってしまう。
「ええ、ですが鑑定阻害の紋章を刻めて、ナルシス家に潜り込む事が出来る。何より実行犯に死を選ばせる組織なんて、限られております」
俺はこっちの裏組織の事を知れないが、やばい店にいけば情報が手に入る筈。
「蛇の道は蛇か……それなら私は何をすれば良い?」
やはり、この人は仕え甲斐がある。
「ベラドンナ領に人を派遣して下さい。出来ればベラドンナ家かナルシス家と親しい者をお願いします」
ベラドンナ領には何の証拠もないと思う。でも、自領で騎士の娘が襲われても、なにもしないのは不自然だ。
あいつ等は自分達に都合の良い適当な情報を寄こす筈。偽の情報を掴んで喜んでいると思わせておこう。
その間に怖い忍びが近付いていきますよ。
◇
丁度良い時間になったので冒険者学校に移動。当たり前だけど、学生さんがいっぱいいます。
「なんか懐かしいな。青春時代を思い出すよ……当たり前だけど、みんな若いな」
鍛錬漬けだったけど、俺にも青春時代があった訳で異世界なのにノスタルジックな気分になってしまう。
「いや、皆さん主と似た様な歳なんですけどね」
セット君、俺の中身はくたびれたおじさんなんだよ。
「しかし、皆さん輝いてるねー。眩しくて、おじさん目が眩みそう」
不思議なもんでおじさんになると、若い子が眩しく見えてしまう。
「主、おじさんくさいですよ……あれ、マリーさんじゃないですか?」
セットの視線の先にいたのは、俺の可愛い妹マリー。
「兄貴、どうしたの?もしかして僕に会いに来てくれたの?」
マリーは俺の顔を見るなり駆け寄ってきた。うちの妹が可愛すぎて辛いです。
「約束の槍が手に入ったから、持って来たんだよ」
異空間から雷神槍を取り出し、マリーに手渡す。
「……なに、この槍は!?どう見ても僕なんかが、持って良い物じゃないよ」
まあ、雷神なんて名前が付いているし、普通じゃないってのは俺にも分かる。
「それはマリーの為に手に入れた物だ。お前が使ってくれたら、俺も嬉しいんだ」
属性攻撃とか絶対に使いこなせない。俺が持っていても宝の持ち腐れだ。
「……本当にもらって良いの?ありがとう、おに……兄貴」
お兄たまと言い掛け慌て言い直すマリー。
「相変わらず兄妹仲がよろしいですわね……ジンさん、明日からの護衛お願いしますね」
マリーといちゃいちゃしていたら、セシリアさんが話し掛けてきた。どうやらシャリル様が話を通しておいてくれたようだ。
「マリーちゃん、凄い喜んでいたんですよ、“兄貴と一緒に旅が出来る”って……道中よろしくお願いしますね」
次に話し掛けてきたのはエレナさんでした。
セシリアさんのパーティーは騎士のセシリアさん・槍戦士のマリー・魔法使いのユリアさん・神官のエレナさんの四人パーティー。大事な事なのでもう一回言います。今回の旅にはエレナさんも同行するのだ……正確には俺が同行するんだけどね。
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