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逃げ場なし?

ここは鍛冶場だ。それをなら確認したい事がある。


「お金は払いますので、武器や道具を作ってもらう事は可能ですか?」

 忍びにとって重要なのは高性能な武器を一つ持つより、色々な武器や道具を持つ事だ。


「ミスリルみたいに扱いが難しい素材や、属性付与エンチャントしろとかじゃなければ大丈夫だぞ。まあ、俺じゃなく弟子が作るけどな」

 カーパさんは国内有数の腕を持っているだけあり、多くの弟子がいるそうだ。ミスリルなんて高い物は買えないし、エンチャント効果まで考えて戦うのは骨が折れる。


「これなんですけど、素材は鉄でお願いできますますか?」

 異空間から棒手裏剣を取り出して、カーパさんに手渡す。今の手持ちは五本。今後の事を考えると、もう少し持っておきたい。


「飛び道具か………シャリル様から話は聞いている。ここで作ってやるから、他所に持って行くんじゃねえぞ」

 棒手裏剣は、ここでは異世界の道具だ。世間に漏れたら、どんな影響をもたらすか分からない。


「カーパ殿は大袈裟だな。ただの鉄の棒だろ?」

 ネーアさんが棒手裏剣をつまみながら、呆れ顔で笑う。それ、使い勝手良いんですよ。


「騙されたと思って、そいつをそこにある鉄の鎧に向かって投げてみな」


「私は投擲スキルを持っていないんだぞ」

 いや、俺も持っていませんよ。棒手裏剣は他の手裏剣より殺傷能力こそ劣るが、使い勝手という点では群を抜いている。

 ネーアさんの投げた棒手裏剣は鈍い音を立てて、鉄の鎧をへこませた。


「そいつは投げやすさに特化した武器なんだよ。重さがあるから、当たっただけでダメージを与えられる。人に当たったら骨折だな」

 流石は鍛冶師。棒手裏剣の特性を直ぐに理解したらしい。棒手裏剣は殺傷能力こそ低いが、当たれば確実にダメージを与える事が出来るのだ。


「それじゃ、十本ほどお願いします……ネーアさん、シャリル様に相談したい事があるんですが、手続きを教えてください」

 連絡方法に棲み処、処遇。確認したい事が山の様にある。


「ワイルドシープを倒せば話す機会を得られると思うぞ」

 これは試されているんだろうか?まあ、やばい魔物だったら、アブフェル領から逃げれば良いだけだ。


 鍛冶場の扉を開けると、マリーが待ち構えていた……お兄たまは、今はまだ逃げないよ。


「兄貴、ワイルドシープを倒すって本当?駄目だよ!あいつには手練れの騎士でも、負けているんだよ」

 マリーは俺の顔を見るなり、飛びついてきた……ドアの外から気配を感じなかったんだけど。


「マリー、どこでその話を聞いたんだ?」

 お城の中で騎士が盗聴するのはまずいだろ。


「分かるよ。ワイルドシープが出ているの、うちの領地だもん。依頼が受諾されたって、メイドのジーニから聞いたんだもん。請け負った人の名前が兄貴だからビックリしてさ」

 うちの実家メイドなんているのか……でも、俺はまだ手続きを済ませていないんだけど……そう言う事か。犯人ネーアさんは口笛を吹きながら明後日の方向を向いている。

 ちなみにワイルドシープが出るのは、山裾にある農村との事。幾人か騎士を派遣したが、返り討ちにあっているそうだ。


「そうか、俺はワイルドシープの事を調べに行ってくる」

 もう少し生態とか、詳しく調べておきたい。今回も正面から戦う気はゼロだ。


「それなら一緒に学校に行こう。ワイルドシープの剥製があるし、図書館には魔物辞典もあるよ」

 マリーは俺の手を摘まむとズンズン歩き出した。目でネーア先生に助けを求めてみるも、スルーされた。


「入校許可は私が出しておく。お礼はチョコで良いからな」

 それが目当てなんですね。


 まじっすか。それがワイルドシープの剥製を見た感想だ。簡単に言えば槍の様に鋭い角を持ったヘラジカ。

 そして調べてさらにびっくり。あの角は鉄の鎧くらい簡単に突き破るらしい。

 分かった事。主な棲息域は山岳地帯。今回の様に平地に出没する事は稀らしい。

 弱点は火炎魔法。数人の魔法使いが遠距離から攻撃するのが、通常の討伐の仕方らしい。ただ、火炎魔法を使うと、毛皮の品質が劣化してしまうらしい。

 知能が高く、ゴブリン等の弱い魔物を配下に置いているそうだ。また、警戒心も強く、強い魔力を感じると即座に逃げてしまうとの事。

 執念深い性格で、間違って弓矢を撃って来た猟師を三日三晩追い続けた記録も残っていた。


「兄貴、今ならまだ依頼を撤回出来るよ……代わりに僕が討伐しても良いし」

 普通に考えればFランクの俺よりAランクのマリーの方が、ワイルドシープを倒せる可能性が高い。でも、マリーでは無理だ。魔力を警戒して、ワイルドシープが近付いてこないと思う。姿を現すとしたら、けしかけられたゴブリンによってマリーの魔力が尽きた時だ。

 事実、マルグリット家が魔法使いを派遣すると、ワイルドシープはぴたりと姿を現さなくなったそうだ。そして魔法使いが戻ると、再び現れて畑を荒らすの繰り返しらしい。


「大丈夫だよ。まずは現地調査をして、準備をしなきゃな」

 どう倒せば良いか、おぼろげなら見えてきた。後は細かいすり合わせだ。


「……無理はしないでね、そうだ!現地調査が必要なら、今日は一緒に帰ろ。絶対にママも喜ぶよ」

 それは、まだ早い。母さんとマリー以外の人にとって、俺は招かれざる客だ。家に行くとしたら、もっと実績を積み重ねてからだ。

適当な事を言って誤魔化したい所だけど、俺の腕はマリーにがっちりとホールドされている。


「いきなり行っても迷惑だろ?俺はワイルドシープが出る村の宿屋にでも泊まるよ」

 その方が詳しい事が分かるし……何より俺には隠し事が多すぎる。セットの事や前世の事、下手に露見すれば信頼を失ってしまう。


「それじゃ、僕が案内してあげる。ねー、兄貴。良いでしょ?あーにーきー」

 幼児帰りこそしていないが、マリーのかまってちゃん攻撃が凄い。


「分かったから……あいつ、知り合いか?」

 さっきから細面のイケメン君が俺を睨んでいるんですけど。ど派手なローブには細かい刺繍が施されており、一目で高価な物だと分かる。


「そこの不細工貧民!僕のマリー君から離れたまえ」

 あれはマリーの彼氏なんだろうか?確かにイケメンだけど、趣味が悪過ぎるぞ。


「ナイヤ・ナルシス。ベラドンナ城に仕えている魔術師の息子だよ。一度、パーティーを組んでから、しつこいの」

 マリーの顔にはありありと嫌悪感が浮かんでおり、お兄たま一安心です。

(ベラドンナ領と言えば、例のコルチカムって奴隷商がいるところだよな)


「マリー君、君が困っているのは聞いている。だが安心したまえ。Bランク魔術師ナイヤ・ナルシスが、ワイルドシープを倒してあげよう。何しろ僕は君の未来の夫なんだからね」

 それじゃ、俺の未来の義弟になるのか……選ぶのはマリーだから否定はしない。でも、今からそんな事ばかり言っていると、自分の首をしめる羽目になっちまうぞ。


「安心して下さい。ワイルドシープは、ここにいるお兄た……ジン・フォーレさんが倒してくれますので……そうですよね?」

 マリー、良い子だからお兄たまの腕をつねるのは止めて下さい。


「冗談だろ?その男からは魔力のまの字も感じないよ……そこの不細工エロ貧民、紋様ランクはいくつだ?」

 やばい。不細工もエロも貧民も否定出来ない。


「Fランクですが、何か?」

 Fと言った瞬間、ナイヤの失笑が聞こえてきた。この世界のランク差別はかなり深刻なようだ。


「エ、F?そんなじゃ、ゴブリンにも勝てないだろ?まあ、良い。もし、ワイルドシープを倒せなかったら、今後二度とマリー君に近付くなよ」

 いや、オークにも勝ってますけど……でも、毛皮とか売ってしまったから証明する手立てはないけどね。

 それとマリー、さっきから腕に爪が食い込んで痛いんですけど。

 ……若いから勘違いする事もある。可愛い妹の為、そしてナイヤ君を更正させる為、ワイルドシープを倒してみせましょう。


感想、ブクマ、評価をもらたら調子にのって更新が早まります。そんな単純な作者です

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