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一難去ってまた一難?

 二人組が追い掛けてこれる速度で走る。


「このままじゃ、追いつかれちゃいますよ」

 セットが怯えるのも、仕方がない。俺に反撃されたのが気に食わないらしく、二人組はかなり濃い殺気を放っている。殺気の濃さからすると、一人か二人は殺していると思う。 


「セット、俺が合図したら擬態を使え」

 少しだけ速度を上げて角を曲がる。追跡しやすい様に、わざと足音をたてる。


「馬鹿め!その先は行き止まりだぜ」

 兄貴分の男が、嬉しそうに叫んだ。うん、知っている。この先は袋小路だ。だから、この道を選んだ。


「あれ?兄貴、餓鬼がいやせんぜ」

 遅れて袋小路に飛び込んできた弟分の男が、キョロキョロと周囲を見回している。いや、きちんといるよ。君達の頭の上にね。

 壁にしがみついて、擬態で壁と同化しているだけだ。


「あいつ、幻覚のスキル持ちか?それとも、この間売った餓鬼のゴーストだったのか?」

 俺の姿を見失った二人組は唖然としていた。てか、男もさらっていたのか……調査対象と範囲を広げてみるか。


「兄貴、帰りやしょうぜ。明日の取り引きが失敗すると、俺等がゴーストになっちまいやすよ」

 怯えた弟分の男が、兄貴分の男に提案する。これはラッキーだ。動かぬ証拠を掴んでやる。

(ゴーストってっ事は、幽霊だよな……まじかよ。そんな物までいるのか?)

 背中に冷汗が滴り落ちる。人に恨まれる職業柄、俺は幽霊の類が苦手だ……信じてはいないけど、怖い。

 まあ、オークやオーガがいたら、ゴーストがいてもおかしくはないんだけど。


「ああ、コルチカムの旦那はおっかないからな」

 兄貴分の男の額には、冷汗が浮かんでいる。

 教えてロッキさんで、コルチカムを検索してみる。


 コルチカム

 ベラドンナ領に本店を置く奴隷商です。猿人だけじゃなく、エルフや獣人まで手広く扱っているそうです。

 違法な手段も使っていますが、権力者や裏社会との繋がりが強く逮捕には至っていません。

 どうやら、大分やばい奴と取引きしているらしい。

 二人組はいそいそと裏路地を後にした。今度は俺が追跡をする番だ。


 ◇

 やはりと言うか、普通の服だと闇夜に紛れにくい。忍者服とは言わないけど、柿渋色の動きやすい服が欲しいです……こっちの言葉で柿渋って、なんて言うんだろ。


「主、あそこの建物に入るみたいですよ……あそこは倉庫ですか?」

 二人組が入っていたのは、歓楽街にある倉庫。中には大量のワイン樽が置かれていた。身を隠す所に困らないので、ありがたいです。


「木を隠すなら、森の中。ここならどんな樽があっても、目立たないだろ。人を閉じ込めた樽とかな……地下にでも、持って行けば叫んでも聞こえないし」

 歓楽街にあるから人もひっきりなしに出入りするだろう。見た事がない馬車が来ても誰も不思議に思わないと。


「アイさんは樽に入れられて運ばれたんですね」

 俺もセットと同じ考えだ。でも、そうなると店主も共犯となる。一介の男性神官に、そんな力があるんだろうか?

(あのおっさん神官は、更迭されたんだよな。それにかかわらずまだ奴隷商と取引きをしていると)


 ジッと身を潜めていると、身なりの良い男性が入って来た。誠実そうな男性で、犯罪臭がプンプンしているこの倉庫には似つかわしくない。


「モスキー様、お待ちしておりました」

 モスキー?まさか……バレる危険性もあるが、確認の為鑑定してみる。


 鑑定結果:モスキー・コク― 年齢:三十二 種族:猿人 紋章ランク:B五枚羽根 職業:フェザー教神官長 スキル:治癒魔法中級神官級 ネクロマンス中級神官級 二枚下詐欺師級 備考:ナルシストで、美少年好き。治癒魔法以外のスキルは隠している。

 なんか闇の深い鑑定結果なんですが。


「私を呼ぶ時は、モニカって教えたでしょ!モスキーなんて蚊みたいな名前嫌だわ……それより、明日はうまくおやり」

 ……そう来たか。そりゃ、スノウさんをいやらしい目で見ない訳だ。


「お任せ下さい。新しいゴブリンの巣はきちんと準備しております。それで、今度の商品は、どんな女ですか?」

 やっぱり、ゴブリンの巣はこいつ等が作った物だったのか……問題はどうやって立証するかだ。


「鍛冶屋の娘よ。彼氏との交際を親に反対されているの。スノウは色恋より勉学に集中しろって言ってたけど、甘ちゃんのエレナなら恋を応援するわ。そこで私が彼氏から伝言を預かっているって人気のない場所におびき出すの」

 町民から信頼されているモスキーの言葉なら信じてしまうだろう。


「今はスノウがいないから良いアリバイ作りになりますね」

 なんでもスノウさんはアコニ領へ行っているらしい……しかし、モスキー・コク―か。俺の判断だけで倒すには、ちょっと大物過ぎる。


「ええ、スノウにはまだまだ稼いでもらわないと。シャリル様はいい男なんだけど、お兄様の為にも少し力を削いでおかないとね」

 それじゃ、俺はシャリル様の為に、この誘拐ルートを潰すとしますか。本丸を落とすには、まず堀を埋めておかないと。


 ◇

 セットの家から葉っぱを持って来ておいて良かった。


「主はご飯を食べないんですか?」

 腹が減っている時に他人が飯を食べていたら食いたくなるけど、セットの場合葉っぱだから気にならない。


「一食位抜いても平気だよ。それに飯を食ったら、便所に行きたくなるからな。ターゲットを監視する時は、最低限にとどめておくんだ」

 昔の忍びは飢渇丸とかを使っていたそうだが、俺はゼリー系飲料を愛用していた……こっちの世界じゃ飢渇丸の再現も難しい。ゼリー系飲料ガチャとか、来ないか。

 それと携帯用トイレガチャかオムツガチャ。


「しかし、モスキーさんはなんで誘拐なんかに手を貸したんですかね?フェザー教の神官長と言えばみんなから尊敬さられる尊い職ですよ」

 答えは簡単。金が欲しかったんだ。


「金が必要なんだろ。教会を運営するにも、立派な装飾品を買うにも、必要なのは金だ。神官は色恋禁止だし、食事にも制限がある。生理的欲求を我慢すると、社会的欲求が強くなるのさ」

 まあ、俺も色恋に制限があったらから、食い物に走った訳で。モスキーの事はとやかく言えないのだ。


 ◇

 次の日、二人組は朝早く馬車に乗り込みどこかに出掛けていった。魔操方を使って着いていくって、手もあったが見つかったら折角の計画がおじゃんだ。

 俺はシャリル様から預かった紹介状を持って、インスパークの役所に移動した。

 ……シャリル様効果って凄いな。この間まで住所不定無職だった俺が下にも置かない扱いをされるんだから。


「……今の話は本当ですか?確かに、辻褄は合いますが。それで、これからどうすれば良いんでしょうか?」

 町長が俺に丸投げしたのは、フェザー教と険悪な仲にならない為だと思う。この街はある意味フェザー教で持っている。

 もし失敗しても、俺一人に責任をなすつければ済むのだ。


「例の二人組がゴブリンの誘拐を見たと言ってくる筈です。その時俺を同道させてもらえば、上手くやりますので」

 俺の予想では少女をさらった後、アリバイ作りの為に騎士の駐屯所に行く筈だ。

 前回の件があってか、インスパークに続く道は厳重な警備が敷かれている。

 事件を進言した後“不安なので誰かついて来て下さい”と頼めば、無下に断われる事はないだろう。騎士が同道していれば、ノーチェックで通れるのだ。


「確かに前回の時も、彼等は騎士の駐屯所に来ました」

 あそこの森にはゴブリン以外にも魔物が出る。街の安全を守る騎士が無腰の人間に魔物を倒せなんて言う訳がない。

 それを見越しての策だけど、あいつ等は策に慣れ過ぎた。慣れると自分の策は見抜かれないと、たかをくくり始める。


「それでしたら、騎士が使っている鎧と兜を貸して下さい。出来れば顔を隠せるやつを」


 ◇

 騎士の駐屯所は殺気だっていた。

 自分が警備する町で立て続けに、誘拐事件が起きていた。しかも、それに気づいたのは町長。面子丸潰れである。


「大変です!鍛冶屋の娘がゴブリンに攫われました。助けようとしたんですが、何しろ数が多くて」

 駐屯所にやって来たのは、弟分の方。


「場所を教えろ。どこだ!ゴブリンの数は?」

 駐屯所にいた騎士が一斉に立ち上がった。


「町はずれにある草原です。遠目でしたので、正確な数は分かりません。ただゴブリンが少女を取り囲んでいたので、かなりの数がいるかと」

 騎士が大勢くれば、付き添ってくれる人もでてくるだろう。でも、今のは失言だぞ。


 ◇

 二人組が案内したのは、街から十分ほど移動した草原。周囲を木で囲まれており、近くの道路からは見えない。しかも、ゴブリンの巣は林の中にあるという。

 ……嘘に嘘を重ねると、どうしようもない矛盾が出来てしまう。ましてや今回は証拠を捏造したのだ。


「確かにこれはゴブリンの巣だ。周囲を探せ。まだ遠くにはいっていないはずだ」

 確かにそれは森で良く見かけるゴブリンの巣にそっくりだった。細かい事に、餌の食べ残しもある。

 鳥の骨に山ブドウの皮。魚の骨やアボカドの種まである。

(証拠を発見。金がもったいないから、自分達が食った物を残したんだろうな)


「嘘ならもっと上手くつくんだな……アボカドを食うのは人間と数種類の虫だけなんだぜ」

 アボカドの種を手にもって、二人組に見せつける。他の動物にとって、アボカドは毒なのだ。絶対にゴブリンにとって毒だとは言い切れないが、責めるには十分だ。


「そんな事知らねえよ!俺達はゴブリンが少女を攫うのを見ただけなんだし」

 兄貴分の男が逆ギレした。


「遠目でしかもゴブリンに囲まれていたのに、なんで鍛冶屋の娘だって分かったんだ?……よお、昨晩振り。背中は大丈夫か?……あいつ等の馬車を抑えて下さい。ワイン樽の中に少女がいる筈ですよ」


「お前は昨日の餓鬼……逃げるぞ!」

 俺は逃げ出そうとした兄貴分の男に向かってアボカドの種を投げつけた。


 ◇

 どうしてこうなった……意気揚々とシャリル様に報告したまでは良かった。


「お兄様、私は納得出来ません。私達パーティーの方が、この男より活躍できます」

 金髪の少女が俺を睨んでくる。その後ろにいるのはエレナさんと灰色の髪をした魔法使いの少女。そして中性的な顔立ちをした短髪で浅黒い肌の少年。

 ……森野仁、異世界でリア充グループに絡まれる。

これでようやく出せる

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