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シュプレヒコール

  待ち合わせ場所に現れたのは豪華な馬車。車体は白で、フェザー教のマークがついていた。

 御者をしているのは、アイリーンさん。大分泣いたらしく、目が少しはれぼったい。


「シャリル様からお伺いしました。インスパークまで、ジンさんが護衛をしてくれるそうですね。アイリーンと二人で正直不安だったんです。ありがとうございます」

 エレナさんはそう言うと、俺に向かって頭を下げてきた。

 インスパークまでの道中で危険な所はなかったと思うんだけども……エレナさんもアイリーンさんも人目を惹く美人だ。どこに危険があるか分からない。


「頭を上げて下さい。私もインスパークにやぼ用があったので、むしろ助かります」

 下手したら、また魔操法で地獄のマラソンをしなきゃいけなくなるんだぞ。

 エレナさんはインスパークの町に説法に行くらしい。スノウさんとは逆に男がわんさか集まりそうだ。


「いつもはスノウさんって言う私の知人が説法をしているんですが、その日外せない用事が入ったそうで、代役で説法をする事になったんです」

 外せない用事……スノウさんと行く巡礼の旅でもするんだろうか?


「エレナさんはスノウさんと知り合いだったんですか?私も一度だけ説法を聞きましたが、凄い人気でしたよ」

 世間って狭いね。エレナさんとスノウさんは神官学校の同級生だったそうだ。

 スノウさんは、神官と言うより人気アイドルって感じだった……この手の話題って、人によっては地雷の可能性が高いんだよな。


「ええ、私とスノウさんはインスパークの神官学校で同級生でした……スノウさんは誰の援助も受けずに、説法を任せられている凄い人なんです」

 過去系である。しかもエレナさんの顔はどこか暗い……スノウさんに対して何がしかからのコンプレックスを持っているのだろうか?


「そうなんですか凄いですね……そうだ!インスパークで近付かない方が良い場所とかありますか?」

 こういう時は地雷を踏まない様に話題を切り替えるの吉である。

 俺とエレナさんは会ったばかりだ。この時期にコンプレックスを慰めて、好感度アップはイケメンにしか出来ない芸当だと思う。


「学校では東側には近付かない様に教えられました」

 貧民街か歓楽街でもあるんだろうか?どっちにしろ、フェザー教の町インスパークに相応しくない場所だ……絶対に行ってみよう。


 ◇

 それは途中休憩で立ち寄った町での事だった。エレナさんとアイリーンさんは用事を足しにいったので、俺が馬車の番をしている。

 ボーっと待っているだけってのも芸がないので、周囲の会話の聞き耳を立てる。

 商人風の男の話によれば領都アブフェルの近くに山賊が出没するそうだ。

 騎士風の男の話によればナーシサス伯爵が病気に掛かったらしい。

 職人の男の話によれば王都に怪盗が出るとの事。

 あくまで噂話だ。でも、噂話ってやつは存外馬鹿に出来ない。話が広まるなんらかの原因があるのだから。


「主、考え事ですか?……分かっています。エレナさんを好きになったんですね」

 エレナさん達がいなくなったのを見計らって、セットが話し掛けてきた……ずっと黙っているのは苦痛なんじゃないかと思ったら、人見知りなのでむしろ安心しているそうだ。


「好きになりかけたけど、秒で諦めたよ。どう考えても釣り合いがとれないだろ」

 奇跡的にうまくいっても、住む世界が違い過ぎてギクシャクして終わるのが目に見えている。


「諦めが早過ぎませんか?本当に好きなら、簡単に諦めない筈ですよ……諦められないんですよね」

 セット君、見事なブーメランです。ブーメランが深く突き刺さったらしく、セットは押し黙ってしまった。こいつも、どこかでシャロンさんへの恋が上手くいかないと思っているんだろう。


「精霊は経験を積めば羽根の数が増えるんだろ?上手くいけば、見直してもらえるかも知れないぜ」

 セットは俺の言葉で気合いが入ったらしく、やる気オーラを全開にしている。


 ◇

 当たり前と言えば当たり前だが、道中危険な目に合う事はなかった。そりゃ、フェザー教のシンボルをつけた馬車なんて襲ったら、裏社会からも爪弾きにされてしまう。

 そして調査を始めて面白い事が分かった。ゴブリンにさらわれたって娘の事件を辿ると、必ずある男達が関わっているのだ。

 自分のスキルにあった仕事がこの街にはないと、定職につかず遊び惚けているらしい。

 問題は、その金がどこから来ているか。

(アイさんの誘拐が失敗に終わったから、近いうちに動きがある筈……その為にも、武器を買っておくか)

 印字うちや棒手裏剣を多用して噂が広まるのだけは避けたい。

 そこで俺が購入したのは、鉄の短剣と木の弓。どの町でも買える品だから、足がつく事はない。


「あ、主、本当にここに泊まるのですか?ここは……男同士で泊まってはいけない宿屋なのでは……」

 固まるセットを放置して宿泊手続きを済ませる。俺が宿屋に選んだのは、街の東側にある歓楽街。正確には歓楽街にある怪しい連れ込み宿。

 本来は娼婦とお泊りする為の宿屋だ。


「例の遊び人グループの縄張りが、この辺なんだよ。一休みしたら、教会に行くぞ」

 そう言えば、あの神官はどうなったんだろうか?女子トイレに放り投げたフェザータリスマンは無事に回収出来たかな。


 ◇

 教会に近付くと、女性信者がプラカードを持って大声でなにかを叫んでいた。

 その熱気は凄まじく、とてもじゃないが男は近づけない。先に言い訳をしておく……おじさんは悪くない筈。


「男性神官の規律の徹底を!スノウ様を風紀神官へ!女性に自由を!……主、もしかして、これは」

 セット君、みなまで言うのは止めましょう。まずは状況確認が大切だ。


「すみません、何があったんですか?」

 遠巻きに女性信者を見ている商人風の男に声を掛ける。


「風紀神官のフェザータリスマンが女性トイレから見つかったんだよ。前からスノウさんにきつくあたっていた奴だから、女性信者の怒りが一気に爆発しちまったんだ……今は教会に近付かない方が良いぞ。何しろスノウさんは男嫌いで有名だからな」

 スノウさんは修業時代に男性神官から、セクハラをされまくったらしい。


「ご忠告、ありがとうございます。ちなみに、その男性神官はどうなったんですか?」

 俺の事を誰かに言う前に始末しておきたい。


「モスキー様によって更迭されたよ。モスキー様がいなかったら、もっと大変な事になっていたぜ」

 モスキー・コクー。この教会の神官長で、ローチ・コクーの弟だそうだ。

 性格は清廉潔白で、誰にでも優しい。男嫌いのスノウさんが、唯一心を許す男性との事。

 俺は商人にお礼を言って教会から離れる。おぼろげながら、からくりは見えてきた。後は証拠を掴まなくては。

 本音を言えば、今直ぐ教会に忍び込んで情報を集めたい。でも、商人風の男が教会の壁を乗り越えていたら、絶対に目立ってしまう……こっちの世界で忍び服なんて手に入らないよな。

 人気がない場所に移動して、ナビアプリを起動……案の定、誘拐発生地点のアイコンが点滅している。そしてその隣にはオーク出没中の文字が……鉄の短剣でオークが倒せるんだろうか?

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