表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/27

決意

 物凄い早い失恋です。俺が惚れかけた少女の名はエレナ・ダンドリオン……そう、ダンドリオン家のお嬢様です。御年十四歳で、紋様ランクはA。

 身分もスペックも天と地の差がある。どう足掻いても接点を作れないし、速攻で諦めました。


「トムはお姉さんと暮らせるのを、とても楽しみにしていました。でも、あの日オーガに襲われて……トムがこれをお姉さんに渡してくれって。少ない給金で必死に貯めて買ったんだと思います。受け取ってあげて下さい」

 ヒマワリの髪飾りをアイリーンさんに手渡す。お世辞にも出来が良いとは言えない三文品だ。でも、大好きなお姉さんを喜ばせたい一心で必死に金を貯めて買ったんだと思う……結論、ジルト殺す。


「やっと、やっと二人で暮らせると思ったのに……トム……」

 アイリーンさんは、ヒマワリの髪飾りを握りしめたまま泣き出した。改めて、ジルト殺す。こっちで力を蓄えて、いつか目に物みせてやる。


「騎士様は……アコニ領の騎士様は何をしていたんですか?」

 エレナさん、声も可愛いんかい!俺じゃ、絶対に釣り合い取れないぞ。

 とりあえず、騎士が何をしていたかって?俺等を囮に使ってました。


「ここの騎士はどうなのか知りませんが、アコニ領の騎士はアコニ家の為にしか動きませんよ」

 しかも、あの時集められたのは庶民の子供で低ランクの者ばかり。酷い言い方をすれば、死んでもアコニ家にとって痛くない人材ばかりなのだ。


「やっぱり私は世間知らずなんですね……わざわざ届けて頂きありがとうございました。あのお名前はなんと言うのですか?」

 渋めの顔で“つまらない奴なので、お気になさらず”……似合わないか。


「ジン・フォーレと言います。しばらく、アブフェルの町にいますので、よろしくお願いします」

 名前を覚えもらっても、何の意味もない。何しろ俺はこれからフェザー教にケンカを売るのだから。


 ◇

 これで肩の荷が下りた。次はにとんぼ帰りして現地調査だ……勇んで帰って来たは良い物の、俺を城に入れてくれるんだろうか?


「主、中に入らないのですか?僕もうお腹がペコペコです」

 うん、俺も腹ペコだよ。どこか早朝から開いている食堂はないだろうか?


「今見たら、門番の兵士が変わっているんだよ……忍び込むのはアウトだよな」

 忍び失格である。どうやって遺品をアイリーンさんに渡すかにとらわれ、身分証明書の類をもらうのを忘れていた。


「駄目に決まっているじゃないですか。それで騒ぎになったら、警備している兵士さんが怒られるんですよ。主は忍びの技に頼り過ぎです」

 セット君、正論過ぎて反論出来ません。侵入は簡単だけど、これからもお世話になるんだし、その後も考えないと駄目だよね。


「うん?ジンとセットではないか?門の前で何をしている?」

 声を掛けて来てくれたのは、ジョウさん。俺が事情を話すと豪快に笑って中へ入れてくれた。

 話を聞いてみたらジョウさんは騎士団の団長だそうだ。言葉遣いに気を付けなくては。


「ジョウ団長ありがとうございました。朝飯食べたら、インスパークの町に行こうと思います」

 ジョウさんが良くても周囲の騎士が不快に思うだろうから、適度な距離を取る。田舎の生まれの少年だけど中身は、人間関係に気を使う日本人なのです。


「朝練帰りに偶然会えて良かったな……ジン、お前は家族と会う気はないのか?」

 ジョウさんは騎士団の団長だ。つまり、俺の実家とも繋がりがあるのだろう。


「前に言いましたけど、証拠がありませんから……実質見捨てられた様なものですし」

 金も置いていかなっかたって事は、俺が死のうが気にしないって事だ。会いに行けば脅しと取られかねない。


「金を置いていかないだと!?マルグリット家の当主……お前の爺さんは木こりの親方に多額の養育費を預けていったと言ってたぞ」

 ジョウさんの驚き方を見ると、それは真実なんだと思う。


「それはご当主さんが甘いですね。飼い犬ならともかく、他人の家の犬に餌を差し出して待てと言っても聞く訳ないですよ」

 ましてや当人がいなくなれば餌を独り占めするのは、当たり前だ。


「言い訳に聞こえるかも知れぬが、お前の妹達が戻ってきて、直ぐに先代のご領主様がお亡くなりになれた。それでお前を迎えに行く事が出来なかったんだ。許してやってもらえないか?」

 ジョウさんは、そう言うと大きな体を折り曲げて深々と頭を下げて来た。立派な行動だし、感動を受ける。でも、何かが引っ掛かる。


「もしかして、俺の父親は死んだ……もしくは、殺されたんですか?」

 昨晩、母親と妹の名は出て来たが父親の名前は話題にすらあがらなかった。


「……なんでそう思ったのだ?」


「騎士の家に入るって事は、男は何らかの役職につかなくてはなりません。しかし、父はただの木こり。どう考えても役立たずにしかなりません。俺の生まれた国では小糠三合持ったら婿に行くなって、言葉があります。女房と娘のお陰で役職についたのに役立たず。やっかみは酷かったでしょうね」

 サラリーマン未経験のおっさんが、一流会社の重役になるようなもんだ。ましてや父親は、結婚も許されない低ランク紋様だったという。戦いのプロである騎士に敵う訳がない。


「病気で死んだ可能性もあるじゃないか?なんで殺されたと思ったんだい?」

 ジョウさんの顔色が変わった。どうやら、ビンゴらしい。


「母は美人だったと聞いています。しかも娘は高ランク紋様の持ち主。結婚すれば騎士の家柄と、二人がついてくる。紋様ランクは高いのに出世に恵まれない奴なら、殺してでも奪いたくなるんじゃないですかね?」

 駆け落ちする位愛した相手を殺されてなびく奴はいない。シャリル様の叔父ヴェレーが唆したんだと思う。


「まるで見て来た様に話すな……お前の父親は頑張った。馴れぬ仕事にも必死にくらいついた。しかし、ヴェレーノの屋敷に書類を届けに行った際、言い掛かりに近い難癖を付けられ決闘を申し込まれて、殺されたんだ」

 その頃ヴェレーノは要職についており、書類を持ってこさせる人間を指名する位簡単に出来たらしい。

 ジン、お前は男だ。母さんとマリーを守れる位強い男になれ。お前は俺の息子だ。大丈夫だ……分厚い手の温もりが頭に蘇ってくる……殺さなきゃいけない奴が一人……いや、二人も増えてしまった。


「ローチ・コクー。今はヴェレーノの元で騎士をしている……暗い話は終わりだ。飯を食いに行くぞ」


 ◇

 さすがは公爵領。朝飯も豪華だ。

 焼きたてのパンに新鮮なサラダ、ゆで卵まである。


「朝練を終えた騎士や夜勤明けの職員は、ここで朝飯を食べるんだ。ちょっと待ってろ。ハーブを何枚かもらってきてやる」

 ジョウさんは鼻歌まじりで席を立つと、食堂に向かって行った。もう、セット君ウキウキです。


「ジンお兄ちゃんおはよう。セットおはよー」

 声をした方を見るとリイアちゃんがパタパタと走って来た。後ろにはアイさんもいる。朝から眼福づくめでありがたいです。


「ジン君、セット君おはよう。ちょうど良かった。これ昨日の魔石」

 アイさんはそう言うと、三つの魔石をテーブルに置いた。オーガの魔石より小さいが色は澄んでいる。


「俺が倒したのは一匹だけなので、一つもらいますね。アイさんは、これから入り用だと思いますし」

 親しい中でも金が原因で仲違いする事がある。ほぼ初対面のアイさんとなら、きっちりした方が良い。


「大人の記憶があるって、本当みたいね。私は定職につけるから遠慮しないで……ただ少し気になった事があったの。あの時操れていた蛇は全てこの国にいない魔物だったのよ」

 アイさんは元冒険者だ。魔物については詳しい筈。そのアイさんが見た事がない魔物だったので、調べてもらったらしい。


「普通に考えれば、解毒剤を特定させない為ですね。問題はどうやって手に入れたかです」

 飯の味はかなり美味かった。なんでも高ランクの調理スキルを持った料理人を雇っているらしい。

 部屋に入って魔石を取り込む。そしてガチャを回そうとしたら、メンテナス中と表示された。しかも返金ならぬ返魔石は不可能との事……地道に働こう。


 ◇

 シャリル様に出立の報告をしたら、同行者がいるので少し待つ様に言われた。

 時間になったので、待ち合わせ場所に行ってみると、そこにいたのはエレナさんだった。


「ジンさんですよね?インスパークまでよろしくお願いします」

 やだ、おじさん運命感じちゃう……まあ、エレナさんはフェザー教の神官だから、インスパークに行くのは不思議じゃないんだけどね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ