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恋の予感

 城までは馬車で行く事になった。リイアちゃんの事を考えると妥当だと思う。


「ず、随分早い馬ですね」

 アプリを立ち上げてみたら、時速八十キロを超えていた……俺の魔操法が霞んでしまう。

(なんでこんな速さで走れるんだ?馬車も揺れないし)

 気のせいか、馬の身体が宙に浮いている感じがするんだけど……誰も騒がない所を見ると、アブフェル領では常識なんだろうか?おじさん、カルチャーショックが凄くて脳内処理が追い付きません。


「ジンはシルフィードホースを見るのは初めてか?この馬は風の精霊様から祝福を受けた馬なんだ。その上馬車はドワーフの名工が手掛けた物なんだぞ」

 ジョウさんが自慢気に教えてくれた。なんでもアルブル大陸は、魔法文化が発展しているそうだ……こんな馬がいたら、現代知識でマウント取るのが不可能じゃん。

(シルフィード……風の精霊シルフか。きっと清楚な美人なんだろうな)

 セットのお姉さんや幼馴染み達を見る限り、かなり期待出来る。

 薄着な美少女シルフとイチャイチャ修行……絶対に頑張れる。


「セットは風の精霊に知り合いはいたりするのか?」

 四大精霊であるシルフの知遇は是非得たい。決して下心なんてないぞ。


「主も既に会ってますよ。長老が風の精霊です」

 あの爺さんがシルフ?確かに、とんでもない迫力があったけど……俺の夢がまたしても一瞬で瓦解しました。


「ジンは向こうに着いたら、したい事ある?」

 穏やかな笑みを浮かべながら、シャリル様が尋ねてきた……多分、家族に会ってみてはと言っているのだろう。


「それでしたら、ダンドリオン家に仕えているアイリーン・ラックという女性に会いたいです……渡さなきゃいけない物がありますので、お口添えをお願い出来ますか?それが終わったら、誘拐事件の調査を始めます」

 領主であるシャリル様の紹介なら、怪しまれないと思う。結果オーライだけど、蛇に感謝だ……運命のワードは毒蛇です。まさかあの占い師の言葉が当たったというのか?


「確か、ダンドリオン家の長女エレナ様もセシリア様のパーティーの一員ですよね。ジンはダンドリオン家にどんな用があるんだ?」

 ネーアさんの話しによると、ダンドリオン家は代々アブフェル家で神官をしている由緒ある名家らしい。お宗旨は当然フェザー教。フェザー教の教えは博愛、清貧、平等……俺としてはきちんと教えを守っている名家より、誘拐に手を貸していた神官の方がくみしやすいんだけどね。


「アイリーンさんの弟トムに頼まれたんですよ。ヒマワリの髪飾りを渡してくれってね……遺品ですから、ちゃんとお渡ししたいんですよ」

 俺はアコニ領であったオーガ騒動の事を伝えた。当然、馬車の中は静まり返る訳で。


「分かった。ダンドリオン家には私から伝えておく」

 これで肩の荷が一つ下せる。


 ◇

 流石は公爵様です。そして、俺は絶対に場違いだ。アブフェルに着く頃には夕暮れになっていた。


「ようこそアブフェル城へ。今、執事に言って部屋を用意させる」

 目の前に現れたのは、巨大なお城。旅行番組とかで見たどんな城より、確実にでかい。

 城壁の色は白、正に白亜の宮殿ってやつだ。それが夕陽を反射して、真っ赤に染まっている。


「勘弁して下さい。俺は町で下宿屋を探しますよ」

 城なんかに住んだら、ストレスで胃に穴が開いてしまう。突然領主が連れて来た怪しい男……絶対に歓迎されないだろ。

 日本のマナーは詳しいけど、異世界のしかもお城のマナーなんて知らないぞ。


「まあ、今日の所は城に泊まっていけ。色々意見を聞きたいし……これは命令だ。君は命の恩人だ。ここで帰したら貴族の沽券に関わるんだよ」

 うまいな。そう言われたら、俺は断り様がない。そして人望がある。シャリル様の馬車を見た住人は皆深々と頭を下げていたし、無事帰って来た事を知った騎士は安堵の溜め息をもらしていた。

(何人か残念がってた奴がいたな。鑑定しておいて、後から調べてみるか)

 例の叔父とやらと繋がっている可能性が高い。場合によっては始末する必要がある。



 ◇

 落ち着かない。あてがわれたのは客室。フカフカの絨毯にキングサイズのベッド。調度品も豪華で、小市民は緊張してしまいリラックス出来ません。


「あ、主僕はどこで寝れば良いんでしょうか?棚の上や出窓に高そうな壺とか置いてあって、安心して眠れません」

 セット、お前もか。主従揃って小心者とは。


「お前はベッドで寝ろ。俺は寝袋を使う」

 異空間から寝袋を取り出す。うん、どう見ても俺の私物だ。


「虫篭を出して下さい。こんな重い布団で寝たら潰れちゃいますよ」

 うん、確かにペチャンコだよね。異空間から虫篭を取り出し、テーブルの上にセッティング。ついでにさっきの兵士の名前をスマホに打ち込んでおく。


 ◇

 流石にシャリル様は忙しいらしく、城にある情報を兵士が届けてくれた。異世界に転生した野郎が城に泊まると、専属メイドがつくというのは都市伝説なんでしょうか?

 今年に入ってインスパークで行方不明になっている女性は八人。年齢や職業はバラバラ。そのうちフェザー教の関わりが確認されたのが四人。

 なんでも行方不明者が多発している事に気付いたインスパークの町長が送った物らしい。その後シャリル様が自ら調査したそうだ。


「なんで被害者が、こんなに増えるまで気付かなかったんですかね?」

 資料を覗き込んでいたセットが呟く。


「学生が多いから家出だと思われたんじゃないか?もう少しうがって考えれば、いなくなれば家出したって思われる女性を選んでいたんだと思うぜ。中にはゴブリンにさらわれたって娘もいるな」

 ゴブリンが人をさらう?女性でも普通に勝てる魔物だぞ。


「アイさんにも家出する理由があったんですかね?リイアちゃんを連れて行かないと怪しまれると思うんですが」

 セットの言いたい事は分かる。アイさんはリイアちゃんを心の底から愛している。


「アイさんはスノウに生活苦の事を相談したら、例の神官が仕事を紹介するって言われたそうだ。それで面接場所に言ったら、魔法で眠らされたらしい。この場合は後から、遠い所で働いていますって偽の手紙を送るんだよ」

 ルビーの原石を売れば良い気もするんだけども、何か事情でもあるんだろうか?


「主、犯罪に詳しいんですね」

 そりゃ、そうだ。裏街道の人間と付き合いが多かったし、非合法な組織に潜入した事もある。


「蛇の道は蛇ってな。今日はもう寝るぞ」

 流石にセットに言えないが、アイさんが狙われた理由は分かる。彼女は美人で高ランク紋様の持ち主だ。

(有名冒険者って話だから、値段も上がるんだろうな)

 中ランク紋様の貴族なら第二婦人とかにしたがると思う。奴隷なら逆らえない。つまり、高ランクの女性を屈服させて、悦に入らせるのだ。

 紋様がこれだけ重要視されている世界だ。歪んだコンプレックスを抱えている奴は大勢いるだろう。


 ◇

 次の日、早朝から俺はセットを連れてダンドリオン家へと向かっていた。脳内シュミュレーションはもう済んでいる。

 やばい、胃が痛くなってきた。ダンドリオン家が近付くに連れて、胃がシクシクと痛みだす。

 シャリル様が事前にダンドリオン家に連絡を入れてくれている。怪しまれる事はないが、逆に言えばアイリーンさんにトムの死が伝わってるって事だ。

(年の所為かな。湿っぽい話は苦手だ……絶対泣くよな)


「これはまた大きなお屋敷ですね。門の前に女性が二人立っていますよ」

 セットが感嘆の声をあげる。一人はメイド服を着たショートカットの女性。あれがアイリーンさんだと思う。遠目でも美人だと分かる。

 もう一人は銀色の髪をした少女。雪の様に白い肌、穢れを知らぬ澄んだ瞳。服の上からでも分かる巨乳。どストライクなんですけど。


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