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過去との邂逅

忍びの(さが)なのだろうか。権力者のごたごたを聞くと血がたぎってくる。


「インスパークの町で女性が行方不明になる事件は以前からあったんだ。それにフェザー教が関わっているとなると放っておけないんだろ」

 フェザー教のトロンの国教だ。その神官が人身売買に関わっていたなんて、国の威信を揺るがしかねない問題なのである。


「フェザー教は国政にも影響力を持っている。いかにシャリル様と言え罪が明らかになっておらねば、罰する事は出来ないのだ」

 ジョウさんが苦々しい顔で答える。でも、自分の領地で人身売買なんてされたら、放っておけないよな。


「誰か調査を任せられる人はいなかったんですか?」

 公爵家なら、情報機関みたいな所を持っていてもおかしくないと思うんだけど。


「そんなスキルを持っている奴なんて滅多にいないぞ。いても信頼出来なきなければ意味がない」

 ネーアさんが呆れ顔で答えてくれた……やっぱり、スキル重視なのか。元本職から言わせてもらえれば、必要なのは才能より知識と経験だ。

 現場で手に入れた情報を上にどう報告するか。中にはフェイクもある。それを見極めるには、知識が必要だ

その場その場で適切に判断出来るか。それには経験が必須である。


「だからジンが必要なんだ。ジンの名はジン・フォーレ、今年で十五歳。生まれはアコニ領で、父親は木こりをしていたそうだ。そして一つ下の妹はAランクの紋様を持っている。ここまで言えば何が言いたいか分かるな」

 シャリル様はしたり顏でそう言ったけど、当の本人は全く分かりません。でも、ジョウさんとネーアさんは鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をしている。


「まさかマルグリット家の……しかし、証拠はあるのですか?」

 ジョウさんの目は真剣そのものだ。その前に、マルグリット家ってなに?スマホで検索したいが、流石に今は無理だ。


「ない。しかし、先日検問所のトーマからロキシー・マルグリットの息子と思われる人物が、アコニ領からやって来ましたとの知らせが来た。トーマのスキルは嘘判定だ。」

 またもや知らないワードが出て来た。それとトーマさん、やっぱり情報を送っていたのね。


「つまりマリーのお兄さんという事ですか……それなら身元に問題はありませんが」

 ネーアさんが心配しているのは、俺の実力だろう。何しろ探査向きのスキルを何も持っていないんだから。

(マリー……どこかで聞いた事が、ある名前なんだよな)

 懐かしい響きなのは間違いない。

“この子の名前はマリー。ジン貴方の妹よ”

“ジン、お前はマリーのお兄ちゃんだ。マリーの事を守るんだぞ”

“おにいたま、いっちょにあそぼ”

 思い出した。マリーは俺の妹の名前だ……いや、忘れていたんじゃない。多分、心が壊れるのを防ぐ為に、記憶の奥底に封印していたんだ。

 俺の覚えているマリーは、泣き虫で甘えん坊な女の子。日向ぼっことお花が大好きで、運動が苦手な大人しい子だった。

 情報を整理すると、俺にはアブフェルの騎士の血が流れているらしい。


「さて、ジンはこれからどうすれば良いと思う?」

 シャリル様が、俺に問い掛けてきた。これはある意味テストだと思う。ここでジョウさんとネーアを納得させる答えを出さなくてはいけない。


「アイさんを連れて、城に戻るべきだと思います。このままアイさん達がインスパークにいたら危険です。次はリイアちゃんが狙われる可能性がありますので」

 アイさんに言う事を聞かせるのは、リイアちゃんを使うのが一番だ。今回の犯人はそれ位平気でやるドクズだ。


「人身売買を放置しろと言うんですか?」

 ネーアさんは信じられないという目で俺を見ている。同じ女性として許し難い事件なんだろう。


「事件を解決するにも情報が少なすぎます。このまま動いたら、トカゲの尻尾切りで終わってしまいますよ。言い逃れが出来ないだけの証拠を集めて、頭ごと潰さなきゃ解決になりません」

 下手に手を出せばしっぺ返しを食らう位やばい奴の可能性もある。

 ネーアさんが黙り込んでいると、家のドアが開いた。そこにいたのはアイさん。


「シャリル様、それに皆様、今回は本当にありがとうございました。何もない家ですが、少し休んでいって下さい」

 アイさんはそう言うと、深々と頭を下げて来た。

(元冒険者だけあって、肝が据わっているな)

 今日誘拐されたばかりだって言うのに、微塵も怯えを見せていない。それとも母は強しってやつだろうか?

 家の中に入ると、アイさんがお茶を出してくれた。ハーブティーなのか、爽やかな臭いがしている。

 擬態で姿を消しているセットが飲みたそうにしています。


「礼ならジンに言ってくれ……アイ、お前に頼みがある。冒険者学校で魔法を教えてもらえないか?」

 冒険者学校なんてあるんだ。でも、それなら安心だ。講師に強い人も多いだろうし、元元冒険者のアイさんが働いても不自然ではない。


「冒険者学校の講師ですか?確かセシリア様も通っておられますよね……私でよろしいのでしょうか?」

 学校があるって事は、冒険者って儲かるんだろうな。それにしてもセシリア様って誰?


「お転婆な妹で困っているよ。セシリアのパーティーにも魔法使いがいるし、是非ともお願いしたいんだ」

 シャリル様の妹は、公爵家の娘なのに冒険者を目指しているのか?お嬢様扱いしたら、嫌われるかもな。


「……ママ、ジンのお兄ちゃんいるの?ママを助けてくれてありがとうございました。これはほーしゅーです……パパが冒険者さんに依頼をしたら、ほーしゅーをするのが礼儀だって言ってたの」

 リイアちゃんが差し出してきたのは、拳大の真っ赤な石。


「それは亡き夫がルビーゴーレムを倒した時に、リイアにあげた物です」

 ルビーゴーレムなんているのか?ルビーってダイヤモンドに次ぐ硬さなんだぞ。良く倒せたな。

 石を見る限り、含有量はそんなに高くないと思う。


「ありがとう。でも、そんなに大事な物もらえないよ」

 亡くなったお父さんの形見なんて流石にもらえない。君の笑顔が一番の報酬だよって言って、お茶を濁しておこう……本当の報酬はシャリル様かアイさんに期待なのだ。

 異世界で未亡人からの報酬、テンプレ過ぎる。


「もらってあげて下さい。それより純度の高い原石がまだありますので……それはリイアのおもちゃみたいな物です」

 そう言ってアイさんは部屋の隅に置いてある箱の蓋を開けた。そこにあったのは、物凄い量の原石。


「それじゃ、ありがたくもらうよ。それと、これは約束のチョコレート。ママと一緒に食べてね。信じてもらえるか分かりませんが、これは異世界のお菓子ですよ」

 異空間からチョコレートを取り出して、みんなに手渡す。残り二枚か……大事にしよう。


「異世界のお菓子?この黒い欠片がです……これはっ!甘くてお口の中でとろけりゅー。もう、お口の中が天国ですー」

 信じられないといった感じでチョコレートを食べたネーアさんだったが、一瞬にして満面の笑みになった。

 一方のジョウさんはもったいないのか、少しずつ舐めている。強面の顔が緩んでおり、かなりチョコレートを気にいったのが分かる。


「ジン、このチョコレートという菓子を再現する事は可能なのか?」

 シャリル様は良く味わった後、少し考えてからそう言った。恐らく贈り物や特産品にしたいんだと思う。


「難しいかと思います。まず原料のカカオ豆がないと話になりません。カカオ豆は、温暖な地域でしか栽培が出来ないので、海外からの輸入に頼るのが妥当です。もし、手に入っても製造が難しく、多量の砂糖が必要となります。掛かる労力やコストに対して得られる物は少ないと思います」

 チョコレートをカカオ豆から作るのって凄い手間が掛かるんだよね。

 ガチャで手に入る可能性もあるけど、絶対に手に入れるとなると大量の魔石が必要になるだろう。ガチャって、欲しい時に限って当たらないんだよな。


「ねえねえ、ジンのお兄ちゃん。今日はセット君いないの?」

 リイアちゃんが俺の袖を摘まみながら尋ねてきた。可愛いし、癒される。

 セットを紹介するタイミングが見つからなかったので、大助かりです。


「セットって言うのは俺の契約精霊です。俺と同じFランクでナナフシの精霊なんですよ。セット、擬態を解いて良いぞ」

 ここにいる人達は、セットを見てどんな反応をするだろうか?見た目はただのでかいナナフシだからビビるって事はないと思う。

 それにしても良く縄を解けたよな。短期間でパワーアップし過ぎじゃないか。

 あれか経験がない分、成長度合いが大きいとか。


「は、初めましゅて……セットでしゅ。ナナフシの精霊で、紋様ランクFでつ」

 緊張したのか噛みまくりです。


「ところでさっきから言っているシノビとは、どんな職種なんだ?」

 ジョウさんの疑問は当然だ。この国には忍びはいないんだし。


「潜入工作や暗殺、破壊活動をする裏家業の何でも屋ですよ。汚れ仕事なら何でもしますよ。忍びは道具、お好きな様に使って下さい」


「うん、まさしく私が欲しい人材だ。情けない話だけど、ここ数年我が領では色んな問題が起きているんだ。ジン・フォーレに命ず。我が手足となり、アブフェルの民の害を取り除け」


 事の発端は九年前、シャリル様が十五歳の時。先代の領主つまりシャリル様の父親がお亡くなりになられたそうだ。

 後継者はシャリル様に決まったが、それに反対したのが叔父にあたるヴェレーノ。

 その後、激しい跡目争いが勃発。民や大在の家臣に指示されたシャリル様が勝ち、無事領主となられた。

 面白くないのはヴェレーノ。権力を笠に着て、好き放題し始めたそうだ。

 面白いじゃないか。前世で持て余していた忍びの腕を再び振るうチャンスだ。

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