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救出

流す。

 無害なナナフシだったのが幸いしたのか、リイアちゃんはセットをすんなりと受け入れてくれた。


「セット、女の子の家はどっちだ?」

流石に修羅場には連れていけないので、女の子を家に帰すのが先決だ。女の子の名前はリイア・スピリート五歳、父親はおらず母親と二人暮らしとの事。

 なんでも昨晩から母親が帰って来ていないそうだ。そこで母親の知り合いだというシャリルという冒険者に相談。なにかを掴んだシャリルも、リイアに手紙を託したまま戻ってこないと。

シャリルが町を出てから、一時間か二時間位しか経っていないと思う。でも、リイアちゃんは昨日から母親の帰りを待っていた訳で……それを考えただけで、おじさんは泣きそうになってしまう。


「リイアのおうち、ここだよ……」

リイアちゃんの家は町はずれにあった。小さくて家と言うより、小屋と言った方がしっくりくる感じである。

 でも、家の中には暖かさがつまっており、母親が少女を愛している事が伝わってきた。報酬なしの仕事を受けない主義なんだけども、この娘に俺と同じ寂しい想いをさせたくない。


「リイアちゃん、そのお手紙おじさんに見せてもらえるかな?」

 実年齢で言えばお兄ちゃんと言っても大丈夫なんだろうけど、俺の精神年齢なかみがそれを許さない。三十過ぎのおっさんが幼女にお兄ちゃんって呼んでは事案物だ。


「これ……なに書いているかわからないけど」

 当たり前だけど、リイアちゃんの表情は曇ったままだ。この子を笑顔にしなくては、日本男児の名がすたる。


「ちょっと見せてもらうね……へえ、中々の腐れ外道じゃないか」

 手紙の内容を要約すると、インスパークの町で若い女性が行方不明になる事件が起きているそうだ。それを調査しに来たのがシャリル。そして事件の黒幕はフェザー教だったらしい。

やり口はこうだ。スノウに相談しに来た女性の中から高く売れそうな奴をピックアップ。個人相談後にスノウの名前を使って呼び出す。スノウにアリバイがある時間を選んでいたらしい。

そして奴隷商が来るのは、今日の夜との事。


「おじちゃん、ママを助けてくれるの?」

 リイアちゃんがすがる様な目で俺を見てくる。奴隷商が夜に来るって事は、まだリイアちゃんのお母さんを助けるチャンスがあるって事だ。


「もちろんさ。おじちゃんに任せておけ。そうだ!おいしいお菓子をあげるね」

 異空間からチョコを一欠け取り出して、リイアちゃんに手渡す。


「おいしい……ママにも食べさせたいな」

 リイアちゃんは一瞬微笑んだが、母親を思い出したらしく顔を曇らせてしまった。


「おじちゃんに任せろ。直ぐにママを助けてきてあげるよ。そうしたら、ママと一緒にチョコを食べれば良い」

この手の汚れ仕事は冒険者より、俺みたいな忍びの方が合っている。問題は例の小屋がどこにあるかだ。町で聞き込みする前にナビアプリを立ち上げみる。

……このアプリって、どうやって作ったんだ?ナビアプリを立ち上げてみると、謎の小屋が表示されていた。

 ご都合主義かって位、便利である。同時にある疑念が湧く。あのロッキという男は俺を戦わせようとしてるんじゃないか?

 神官は教会のアサシンが来ていると言った。この世界の暗殺者のレベルを知るまたとない機会だ。会えば絶対に殺し合いになるだろう。


 小屋があるのは、町から数キロ程、離れた森の中だ。人目につかない上に、森を抜ければ街道に出られる。

(おいおい、折角森の中にある小屋なんだから、もう少し目立たない場所で見張れよな)

 ナビ従って到着した先にあったのは、丸太小屋だった。その丸太小屋をいかにもって、感じの三人が見張りをしている。

 問題は、その三人が小屋を囲む様にして見張っているのだ。あれじゃ、この小屋は怪しいですよって言ってる様なもんだ。一人位森の中に潜んでおけっての。

(紋様ランクはC。戦闘向けスキルは兵士級だけか)

 勝てなくはないが、バレたらリイアちゃんの母親の命が危なくなる。


「セット、ドアの隙間から中へ入って様子を探って来い。鍵が掛かっていたら開けといてくれ」

 見張りの視線は正面にのみ向けられている。つまり森に潜めばばれる危険性が少なくなるって事だ。

 セットが丸太小屋の中に入ったのを確認して、行動開始。一端、森へ入り準備を整える。

 異空間からハンカチ大の布切れと水筒を取り出す。布切れを水で濡らせば準備完了。

 木の陰に潜み、男が来るのを待つ。


「しかし、ロウコ様も心配性だよな。こんな所に人なんて滅多に来ねえってのに」

 ロウコ、それが神官の言っていたアサシンの名前だろうか?

 軽口を叩いてた男の口を布で覆い、森の中へ引きずり込む。暴れる前に喉笛を掻き切る。この男を選んだ理由は、ただ一つ。俺と背格好が似ていたからだ。


「その滅多にがあったから、ロウコ様が派遣されて来たんだろ。あの美男子はロウコ様の尋問にどれ位耐えられるんだろうね?……おい、どうした?」

 手早く男の服を脱がせて、それを着込む。


「いや、なんか物音がしたからちょっと見てくるわ」

 これでも忍びだ。声真似位は出来る……おっさん限定だけど。


「おい。あいつに仲間がいたってのか?……っ嘘だろ?おい、ロ……」

 ロウコ様と言おうとした、男の口も布で覆い、首を掻き切る。

 遺体を放り投げ、木を登っていく。


「おい、なにがあったんだ?ロウコ様は怒らせたらやばいんだぞ」

 男はそう言ったまま、無言で倒れた。まあ、俺が飛び降りながら首を斬ったのが原因なんだけど。

 足音を消してドアに近付く。ドアに手を掛けると、僅かに動いた。どうやらセットが上手くやってくれた様だ。

 小屋の中にいたのは三人。男が二人に、女性が一人。男はローブを被った薄気味悪いおっさんと、椅子に縛られた青年。女性も縛られて、床に転がされている。

(女がリイアちゃんの母親で、縛られているのがシャリルさんだろうな)

 ローブの男は俺に背を向けているし、リイアちゃんの母親は目隠しと猿ぐつわをされている。


「そろそろ貴方が何者で、どこで秘密を知ったか言ったらどうです?マリリンも知りたいですよね?」

 ローブを被った男がシャリルさんに詰め寄る。マリリン?他に人の姿は見えないんだど。

 返事の代わりに聞こえてきたのはシャァツという蛇の威嚇音……まさか?

ローブがもぞもぞと動いたと思ったら、デカい蛇が現れた。


鑑定結果

名前:ロウコ・クースネ 種族:猿人 年齢:四十六歳 職業:フェザー教アサシン 装備:蛇操の杖・じめじめローブ 紋章:ランクC四枚羽根 スキル:モンスターテイム(爬虫類限定)・暗殺術初級・毒の知識初級

蛇を使った暗殺術か。多分、あの杖で蛇を操っているんだろうう。つまり、杖を壊せばなんとかなる。


「……貴方に言う必要はありません」

 涼やかでいて、威厳のある声だった。梁を移動して、シャリルさんの顔を確認。

気品のある顔立ちをしており、貴公子という言葉がしっくりくる。


「ただの冒険者が生意気なっ!私は貴方の様な恵まれた人間を殺すのが大好きなんですよ。マリリン、殺りなさい。貴女の毒で殺すんです」

 踏み込むのが一瞬遅れてしまい、シャリルさんはマリリンに噛まれてしまった。


「この世界のアサシンと、殺りあってみたかったんだけども時間がないな。おっさん、この二人はもらっていくぜ」

 異空間から棒手裏剣二本を取り出す。棒手裏剣をポケットにしまい、剣を構える、


「突然現れて訳の分からない事を……みんな、あいつも殺しちゃいなさい」

 みんな?……うん、紋様をなめていました。すいません。


「全部で三匹か。しかも全部化け物みたいなデカさだな」

 天井からジャイアントボアクラスの蛇が垂れ下がってきた。そりゃ、毒蛇一匹アサシンなんて名乗れないよね。

 ここで操蛇の杖を壊したら、収拾がつかなくなる。大蛇は床に落ちると、俺の方に向かって来た。蛇、まっしぐらは勘弁して欲しい。

(早くシャリルさんの治療をしないとまずいな)

 ダッシュで駆け寄り、一匹の大蛇を袈裟斬りで倒す。大蛇の皮は分厚く、剣が刃こぼれしそうになる。

 

「メイメイ、スミレの仇を取りなさい」

 いつの間にか近付いて来た大蛇スミレさんが鎌首をもたげていた。

(連携はしないのか?……もしかして、きちんと命令出来るのは一回に一匹なのか)

 スミレに剣を突き刺すと、剣は根元からポッキリ折れてしまった。


「主、一旦逃げましょうよ」

 セットが逃走を提案してきたが、シャリルさんとリイアちゃんのお母さんを連れて逃げるのは、無理だ。なによりシャリルさんは。早く治療しないとまずい状態だ。


「セット、リイアちゃんのお母さんの縄を解いて先に逃げろ……危ねっ!」

 危うく這いよって来た蛇に足を噛まれそうになる。それからもメイメイは執拗に俺を狙って来た。蛇にモテても嬉しくないんだけど。

(ここで棒手裏剣を使えば、ロウコは遠距離攻撃を警戒しちまう。剣が折れてなきゃなんとかなったのに)

 周囲を見ても武器になりそうな物はない。椅子……人ならともかく蛇を叩き潰すのは難しい。

 テーブルにあるのは、木製のスプーンとフォーク。金属性ならなんとかなったのに。

こうなりゃ素手で捕まえて、頭を潰すしかないか。


「蛇から離れて下さい……アイスニードル」

そこにいたのは、スプーンを持ったアイさん。どうやらセットが上手くやってくれた様だ。

 そしてアイさんがスプーンを振りかざすと、氷柱が飛んでいった。

うん、今のは蛇より危なかったぞ。だって、氷柱が顔面すれすれの所を通っていったんだぜ。


「さすがは元冒険者ですね。ランクBの紋様持ちの魔法使いアイ・スピリート、高値がつくのも頷けます」

 いや、ロウコさんやりますねってレベルじゃないでしょ。あんたの蛇ボロ雑巾みたくなってますよ。

 あの余裕はマリリンに対する信頼か……なら、その信頼がどれほどの物か試せてもらおう。

 生活魔法の着火を発動して、棒手裏剣を熱くする。ギリギリ持てる熱さまで熱して、投擲する。狙うはロウコの持つ操蛇の杖。

 同時に掃除魔法を発動させ、俺達に向かって涼風を吹かせる。


「私の操蛇の杖がっ!代わりに、この不思議な武器をもらうとしましょう……マリリン、やめなさい。私が誰か分からないんですか?敵はあいつ等ですよ」

 ロウコが俺達に向かってマリリンを放り投げるも、マリリンはロウコに最接近。


「ピット器官って言っても知らねえよな。蛇ってのは、熱で獲物を見つけるんだ。それに加えてお前はマリリンを放り投げた。今や、マリリンにとって、お前は敵でしかないんだよ……俺は小さい子から母親を奪うような外道を許す程、優しくないんでね」

 俺の投げた棒手裏剣がロウコの額を貫く。すかさずアイさんが、魔法を放ちマリリンを倒してくれた。

 棒手裏剣を熱くしたのはマリリンの意識をロウコに向けさせる為、掃除魔法を使ったのはこっちの熱を遮断する為だ。

 今回の事で身に染みた。修行をして強くなるか、頼れる仲間を見つけよう。アイさんがいなかったら、確実に死んでいた。

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