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肘鉄魔

朝のラッシュ時の満員電車。


私は、いつも、お弁当と水筒の入った重たい鞄を持って通勤します。

電車の中で立っている時は、その鞄を身体の前に両手で持ちます。

私は車内が混んでいるので乗換駅で電車に乗り込む時は大抵ドア付近になります。


その私の後ろから、気の強そうな女性が発車間際に私に背中を向けて乗り込みます。

私は、乗れるように協力?して内側に身体を押し込み、スペースを空けて協力します。

そんな些細な協力を女性は気づかずに乗り込むとドアが閉まり電車は出発します。


電車が走り出し、揺れるたび、女性は私にぶつかって来ます。

その度に振り向くようにして私を睨みつけます。

(え?

 もしかして痴漢扱いされている?)

私は、焦って近くのつり革を探します。

つり革を持てば片手は鞄でふさがるので、痴漢扱いはされないはず。

しかし、無情にもつり革は全部ふさがっています。

絶体絶命。


痴漢扱いをされて駅長室に連れていかれたら終わりだとインターネットで読んだことを思い出します。

また、警察と鑑識を呼んで物的証拠、例えば女性の洋服の繊維が手の指についているかを調べてもらい無実を証明したという記事も思い出しました。


その窮地の中で、私はふと昔のことを思い出します。

その時のやはり満員電車の中。

今よりもぎゅうぎゅう詰めで、私の腕時計が当たっていたかったのか、ポケットの中の様々な小物が当たって痛かったのか、私の傍に立っている女性が険しい顔をしていました。

そして、ターミナル駅に着き、その女性は降りる間際に私の鳩尾(みぞおち)あたりに思いっきり肘鉄を…。

怒りより痛みで苦しい思いをしたのを思い出しました。

(私のせいではないのに…)


もしかして、前に立っている女性も鞄が当たって痛い?

でも、結構、隙間は空いているはず。

そんなことを悶々と考えながら電車はターミナル駅に到着します。

反対側のドアが開き、女性が降りる素振りを見せたので、後ろの人には迷惑だったかもしれませんが、後ろに強く押して、その女性が通れるスペースを空けます。

女性は、モーゼの十戒のように空いたスペースを、険しい顔ではなく、和らいだ顔で反対側のドアに向かって歩き始めます。

そして私のすぐ傍を抜けていく時に、

「ビビリ君♪」

そう言われた気がします。


でも、和らいだ女性の顔、素敵でした。


明日も同じ電車に乗ろう。

挿絵(By みてみん)

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