倒れた乗客
帰りの電車の中。
飛び石連休の間の平日だったせいか、真っ直ぐ帰宅組が一段した後の電車に乗ると、立っている人もまばらな車内。
「いつもこんなに空いていればいいんだけどな。」
なんて思っていると、いきなり前でドスンという大きな音が。
見ると20歳代位の若い女性が仰向けで倒れています。
「わっ、どうしよう!」
私はパニックになり、周りを見わたしますが、周りの乗客も驚いて、ただ見ているだけです。
私は意を決して倒れている女性に向かって、「大丈夫ですか?」と大声で何度も尋ねます。
状況的に、貧血を起こしたのでしょうか、倒れて後頭部を床に打っているようです。
電車の床は、コンクリートではなく硬質ゴムのような素材で、倒れて大きな音しても、倒れ方次第ですが、そんなに大事には至らないようです。
しかし、その時はそこまで頭が回りません。
「頭打っているよな、どうしよう、動かさない方が良いかな」
いろいろな思いが頭の中がぐるぐると渦を巻きます。
ひたすら女性の声をかけていると、女性は目を開け、意識がしっかりしてきたようです。
「大丈夫?」
と尋ねると「はい」としっかりした返事が。
すると少し先の座席の方から若い男性が、「座ってください」と席を立って女性に声をかけます。
女性はよろよろと男性の声の方に歩いて行きます。
「よかった」
でも、心の中では後悔でいっぱいです。
なぜマンガに出て来るスーパードクターのように、さっと脈をとったり、瞳孔を見たり、「バイタルは正常」と言ったり…は出来なくても、抱きかかえたりできなかったのだろうと。
人は非日常な事象に直面するとパニックを起こし、何もできなくなります。
「一度経験したんだ、次は絶対に、医者じゃないけど、もっといい対応ができるように心掛けよう。」
「お願いしますね。」
離れた席に座った女性が言ったような。
明日は誰も倒れませんように。




