浴衣の君
朝ではなく、帰りの電車の中。
盆踊り?花火大会?
浴衣姿の若い女性が2人、途中駅から電車に乗り込んできます。
帰りの時間で丁度、真っ直ぐ帰る組と一杯飲んで帰る組の間の時間のせいか、車内は座れるほどではないのですが結構空いています。
私は運よく乗車駅で直ぐに座れ、途中駅で反対側のドアから乗って来た浴衣姿の女性、その女性たちは反対側の席のあるつり革に摑まっていたので、私からは後ろ姿を見ることに。
そう言えば、昔、年上の従兄がフォークギターで「浴衣の君ぃは~」って歌っていたっけ。
曲の題名も歌手の名前も忘れてしまいましたが当時大流行した歌、でも、私は幼く、歌詞の内容はわかりませんでした。
しかし、よく聴かされていたので、いつの間にか覚えています。
浴衣に尾花の簪、もう一杯いかがなんて、色っぽいね。
そう、今ならば、その情景を思い描くことが出来ます。
十五夜の月(なぜ十五夜かは、突っ込まないでください)の明りの下で、縁側に座りながら絣の浴衣が良く似合い、髪をアップにして簪で留めているおしとやかな女性とお酒を飲んで…なんて。
妙な空想をしていると、前の方からコンコンコンと何やら音が聞えます。
見ると浴衣の女性の内一人が下駄のつま先部分で電車の床をコンコンと叩いています。
もう一人の女性は、何やら夢中でスマートフォンで何かを入力中のようです。
その内、床を叩いていた女性は、つり革にぶら下がる様にブランブランしはじめます。
そして、スマートフォンを操作している女性を見上げるようにぶらんぶらん。
スマートフォンを操作している女性がその女性に気が付くと、“がははは”と言わんばかりの声で笑います。
浴衣の女性、おしとやかで…なんて空想を妄想に変える瞬間でした。
「なに勝手に妄想してるの。
本番でおしとやかにすればいいじゃん。」
と聞こえたような。
「でも、やはり浴衣の女性は、常におしとやかの方が品格があっていいですよ。」
などと言いたくなります。
今晩は一人で月見酒を楽しみます。




