渡り鳥
朝のラッシュ時の電車の中。
今日も乗り換え駅で混んでいる電車に乗り込み、ドア付近に立っています。
次の駅に停まり、発車ベルが鳴り終りかけた時、ホームの右手の方から一人の会社員風の男性が走ってきて、私にいるドアに入り込みます。
そして、入り込んで間もなくドアが閉まり、電車は動き出します。
走り込んできた男性は、肩で息をして、一生懸命呼吸を整えているようです。
でも、ちょっと待って。
出発間際に飛び込んできた割には、その駅、改札口が逆方向で、ドアの左手の方にあります。
「どうして?」
そう言えば…。
昔、今と違う仕事場で働いていた時、やはり電車通勤でした。
乗るときに一番近い乗り口は電車の進行方向の一番後ろ、降りる駅で改札口に近いのは電車の進行方向の一番前で、降りる駅の改札口は大変混みます。
後ろの方に乗ると、電車を降りてから改札口を出るまで長蛇の列で、時間がかかりました。
私はそれが嫌で、後ろの車両に乗った場合、途中の停車駅で車両を移動します。
車内は混んでいるので、当然ホームに降りて、発車ベルが鳴り終わる直前まで、前の方のドアにまるで渡り鳥のように渡って行きます。
降りる駅までは、何駅もあったので、停まるたびに移動を繰り返し、最終的に降りる駅の直前で改札口に早くたどり着ける一番前の車両に渡り着くことが出来ました。
今、息を整えている男性もおそらくそうなんでしょう。
次の駅に着くと「じゃあ」と私に言ったか言わないか、ともかく、ホームに降りて左手の方に小走で行きました。
「ちゃんと、電車にのれただろうか。
ひょっとしたら、閉まりかけた電車のおでこをぶつけてひっくり返っているのでは」
なんてよからぬことを考えながら動き出した電車の中からホームを見ていましたが、ホームにはその男性の姿はありません。
無事に渡れたようです(よかった、よかった)。
次の駅でもがんばって、なんて応援したりして。
明日も同じ電車に乗ろう。




