マタニティカード
朝のラッシュ時の満員電車。
朝の通勤電車で運よく座っていると、反対側で立っている女の人の鞄にマタニティカード(おなかに赤ちゃんがいますのキーホルダー)が目に飛び込んできました。
手を伸ばして、その女の人の鞄を引っ張ると怪訝な顔で振り向きます。
「座って。」
と言って私が腰を浮かせて立ち上がると、女性の顔は怪訝な顔から驚きの顔、そして涙ぐむような嬉しそうな顔に変わっていき、「ありがとうございます」と私の座っていた座席にちょこんと腰を下ろします。
そう言えば、以前も朝のラッシュ時間で混んでいる電車がターミナル駅に着いた時、目の前の座席が空き、「ラッキー♪」と腰を下ろしているまさにその最中に目線の先にマタニティカードをカバンに付けた女性が乗り込みドアから私の方に真っ直ぐ向かってくるのが見えました。
私は、腰を下ろした勢いを殺さずに座席のクッションを利用して、バウンドしたようにそのまま立ち上がり席を譲ります。
その時の女性の驚きと嬉しそうな顔。
「ありがとうございます」と言って女性は座り、私は何か気恥ずかしくなり、少し離れたところで立っていました。
私が降りる駅より先にその女性は降りたのですが、降りる際に私を探し、もう一度「ありがとうございました」と声をかけ、にこやかな顔で降りて行きます。
その後ろ姿に、「元気な赤ちゃんを産んでくださいね」と心の中で言ったことを思い出したりして。
今、目の前の女性は座った後、うつむいて肩を震わしているように見えます。
(もしかして、お腹の子供の父親は、何かの理由でいなくなり、親ともうまく行っていない。
だから、他人の優しさが嬉しくて、泣いているのかしら?)
なんて勝手に物語を作ったりして。
よく見ると、女性はこっくりこっくりと転寝をしているだけ。
「このお母さんとお腹の赤ちゃんに、神様から祝福がありますように。」
キリスト教徒でもないのに、なぜかそう心の中で言って電車を降りました。
明日も同じ電車に乗ろう。