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第11話 反撃

間があいてしまいすみません。



 中に入ると薄暗かったが、灯りが必要な程でもないのが幸いだった。3人は慎重に歩を進めた。

 

 「うーん、腹が……腹が…」

 

 アルトリアは相変わらず腹を押えてうんうん唸っていた。

 

 「もう!静かにして下さい!見つかるじゃないですか」

 

 ライネスが小声で注意するも、アルトリアは聞いてないようで未だ唸っている。ライネスはため息をついたが、諦めて前へ進んだ。

 

 拠点の内部構造は先日無我夢中で走ったためよく覚えていない。そのため一部屋ずつ慎重に探していく。

 

 「ここにもいない、か」

 

 三部屋目を覗くが、誰もいない。ガランとして何も置いていない、殺風景な部屋だ。

 

 (もしかしたら集会とかでどこかに集まっているのかも)

 

 ライネスがそう思ったとき、ふとアルトリアの唸り声が聞こえないことに気付いた。

 

 「あれ、アルトさんいますか?」

 

 後ろを振り返って尋ねるが、透明化しているので誰も見えない。数秒待ったがアルトリアの返事はなかった。

 

 「いないみたいだね〜」

 

 ネロの声だ。どうやらネロはちゃんとついてきていたが、アルトリアはいつの間にかはぐれたらしい。

 

 「ええー。どうしよう」

 

 透明化しているので探すのは難しい。まあどこかで合流できるだろうと楽観的に考え、とりあえず2人は探索を進めた。

 

 

 「……いた」

 

 慎重にドアを開け中を見ると、男が2人いて何やら話をしている。丁度こちらに背を向けているので襲撃しやすい。

 

 「じゃあ僕は右をやるから、ネロは左お願い」

 

 「分かった〜」

 

 小声で指示を出し、足音を忍ばせて男に近付いていく。メイスの射程圏内に入ると、ライネスは思い切り腕を振りかぶった。

 

 ゴン、と鈍い音がして、男が倒れる。左の男が突然のことに驚愕の表情を浮かべるが間髪入れずにまた鈍い音がして、左の男が倒れた。

 

 「やった〜」

 

 「よし、次に行こう!」

 

 幸先のいいスタートにライネスは口角を上げ、部屋を出た。

 

 

 

 「……何か声がしないか?」

 

 大広間の扉の前に立つ男が2人。そのうちの1人が声を発した。

 

 「そうか?気のせいじゃないか?」

 

 「いや、何か獣の唸り声のような音が近付いてくるような……」

 

 その男の言葉に、じっと耳を澄ませてみると、微かに聞こえて来た。

 

 「……確かに聞こえてくるな。何なんだこれは?」

 

 「分からん。魔物が入り込んだのかもな」

 

 「はは、まさか」

 

 そう言いつつも男は一応剣の柄に手を掛けて警戒態勢をとった。

 

 「ううううううう。うあああああ」

 

 そのとき、地獄の底から響いてくるような声が聞こえた。

 

 「な、なんだこれは!」

 

 男は剣を抜刀し、正面に構えた。声の主はまだ現れないが、かなり近い。男の額から汗が流れた。

 

 「うあああああ」

 

 男が警戒していると、大広間の扉がひとりでに開いた。

 

 「なっ!?」

 

 無論、中から誰かが開けた訳ではない。慌てて扉を確認すると、うめき声が大広間の中から聞こえて来た。謎の存在は既に中に入ってしまったらしい。

 

 「行くぞ!」

 

 男2人が中へ入ると、集会中だった大広間は混乱に陥っていた。謎の呻き声、次々と倒れる教徒…。しまいには壁に掛かっていた松明が倒れ、火が燃え広がった。

 

 「あああああああ」

 

 なおも聞こえてくる不気味な呻き声に邪教徒達は恐怖した。

 

 「あ、悪魔だ…」

 

 「ひい、助けて!」

 

 「許してくれー!」

 

 謎の呻き声の正体が悪魔だと思った邪教徒達は悲鳴を上げながら逃げ惑った。とても邪神を召喚しようとしていたとは思えない。

 

 

 一方ネロとライネスは部屋を回って邪教徒を倒し、ついでに金目のものを回収していた。

 

 「いや〜、こいつら意外と溜め込んでたね」

 

 「そうだね〜。教徒から寄付金をもらってたのかもね〜」

 

 ライネスはたんまり回収できたのでほくほくだった。これで無一文から脱出できる。

 と、ライネスは異変に気付いた。

 

 「あれ、ネロ腕が見えてる!」

 

 「え〜!あ、そういうライネスも足が見えちゃってるよー!」

 

 2人はお互いに指を差して指摘した。どうやら効果が切れてきたらしい。

 

 「急ごう!」

 

 「うん」

 

 2人は廊下を走った。しばらくすると、突き当りに大きい扉が見えてきた。

 

 「なんだか騒がしいね〜」

 

 「何かあったのかも」

 

 扉を開け中に入ると、そこは阿鼻叫喚の様だった。泣き叫び、逃げ惑う邪教徒。それに燃え広がる火。

 

 「うわ、何だこれ…。あ!あのローブ、アルトさんかも!」

 

 ライネスが指差す先には黒いローブだけが浮かんでいた。

 

 「アルトさん?大丈夫ですか?」

 

 ライネスが黒いローブに近付いて話しかけるも、返ってきたのは呻き声だ。

 

 「ううううう、うあああああ、腹がああああ」

 

 「アルトさん!しっかりして下さい!」

 

 ライネスがゆさゆさと肩を揺するとアルトリアは気付いたようで「あ、ああ……ライネスか」と息も絶え絶えな様子で返事をした。

 

 「だ、大丈夫ですか?ていうかこの状況どうなってるんですか?」

 

 「う、うう。痛すぎて分からん」

 

 「そうですか。とにかく、もう十分です。撤退しましょう!」

 

 そのとき、邪教徒の1人がライネス達の方を指差して叫んだ。

 

 「うあああ!腕と足が浮いてるぞ!」

 

 「まずい!気付かれた!」

 

 ライネスとネロは呻くアルトリアを急かして出口へと向かう。幸い混乱しているため追ってくる者はいなかった。大広間を出ると、急いで最初に入ってきた出口へと向かう。

 あと少しで出口だというところで邪教徒の男が剣を正面に構えて立ち塞がった。

 

 「この、あ、悪魔め!ここで倒してやる!」

 

 男はうおおおおと叫びながら走ってくる。

 

 「うわ!こっちにくる!」

 

 ライネスとネロはアルトリアを引きずって端によって避け、すれ違い様にメイスを叩き込んだ。

 

 「ぐふっ」

 

 男は目を剥いて倒れた。今のうちにとライネスとネロはアルトリアを引きずりながらダッシュし、扉からなんとか脱出した。

 

 「ふー、出られた」

 

 ライネスは汗を拭った。アルトリアは未だに痛がっている。

 

 「うう、腹が、腹が…」

 

 「もう、まだ痛いんですか?とりあえずここを早く離れて、医者にかかりましょうか」

 

 そうして一行は街にある治療院に向かった。

 

 

 ◆

 

 

 「いや〜、それにしてもよかったですね!治って!」

 

 「よかったね〜」

 

 「ふはははは!奴は強敵だったが、我輩の力には遠く及ばなかったようだな!」

 

 アルトリアは仁王立ちして高笑いした。

 

 

 時は一時間前に遡る。

 

 治療院で医者に診てもらったアルトリアだったが、薬を飲んでも治らなかった。

 

 「これは不治の病ですね…。もう長くはないでしょう」

 

 「そ、そんな…!何とかならないんですか!」

 

 「残念ながら……」

 

 ライネスはくっと呻いて壁を叩いた。


 「あのとき僕が止めていれば…!」

 

 ネロはそんなライネスの背を撫でて慰めた。

 

 「あれ、アルトは?」

 

 気が付くとアルトリアの姿が忽然と消えていた。

 

 「ふ〜。スッキリしたぞ」

 

 トイレから出てきたアルトリアは腹を擦り晴れ晴れとした表情をしていた。

 

 「あ、アルトさん!大丈夫なんですか!?」

 

 「うむ。これしきのことで我輩が死ぬと思ったか!ふはははは!」

 

 「よかったよかった〜」

 

 医者は愕然とした様子でアルトリアを見た。

 

 「き、奇跡だ…!」

 

 そんな感じでアルトリアの腹痛はあっさりと治ったのだった。

  

 

 「まあ治療代はかかりましたけど、治ってよかったです」

 

 「ボクは怪我しか治せないからね〜」

 

 治癒術師は外科的な処置はできるが、腹痛など内科的なものは治せないのだ。そういう病気は専門の知識を持った医者が対処する。

 

 「ふん。あれぐらい屁でもないわ!」

 

 アルトリアは胸を張って威張ったように言う。

 

 「というか、あの医者絶対ヤブだよね〜」

 

 ネロは不治の病宣言をした医者を思い出しながら言った。実際は毒キノコがあたっただけだった。

 

 「あの程度で医者など世も末だな」

 

 医者でもないくせにアルトリアは偉そうに言う。

 

 「はあ〜。治療代でお金が半分無くなっちゃった。家も焼けたし、これからどうしよう」

 

 治療代というのは高い。一回の診察で庶民の平均的な月収ほどもする。邪教徒から金をたんまり拝借した一行だったが、それも治療代で半分消えてしまった。

 

 「ふはははは!そんなもの、我輩の力を持ってすればどうとでもなる!」

 

 「いいですよね〜、アルトさんは。その楽天的な思考を分けてほしいです」

 

 ライネスがため息をつくのと同時に、一行は街の広場に着いた。治療院から特に目的もなく歩いていたらここに辿り着いたのだ。

 

 「おーい」

 

 声をかけられ、振り返るとローグが向こうから歩いてくるところだった。

 

 「お前ら、無事だったんだな。よかったよかった」

 

 「ローグさん」

 

 「ふっ。この第43代悪魔公爵である我輩に、あの程度の敵など造作もないわ!」

 

 「アルトは別の意味でピンチだったよね〜」

 

 4人は広場の隅にあるベンチに座った。

 

 「そういやお前ら、行く宛はあるのか?」

 

 ローグは心配そうな表情で訊いた。

 

 「いやー、まだ全然。これから探します」

 

 持ち家を買う金などないので、暫くは宿や賃貸の物件で暮らすつもりだ。その間にギルドでクエストを処理して生活費を稼ぐ算段だった。

 

 「アークウェルに来ないか?」

 

 「アークウェル?」

 

 初めて聞く名称だった。

 

 「ああ。ここからは離れているんだが、この国では王都の次に大きい都市だ。ここよりも仕事は多いと思うぞ」

 

 確かに、この街では散々やらかしたし、いつ邪教徒に報復されるか分からない。どこか遠くに逃げた方がいいのかもしれない。

 

 「アルトさんはどう思いますか?」

 

 「ふっ。我輩もそろそろこんなちんけな田舎から出たいと思っていたところだ」

 

 アルトリアも異論はないようだ。

 

 「じゃあ、ネロとはここでお別れだね。色々巻き込んでごめん。付き合ってくれてありがとう」

 

 ネロは元々この街の住人だし、生活もある。てっきりネロは残るものだとライネスは思ったのだが……。

 

 「ボクも行くよ〜」

 

 ネロは二人に付いて行くようだった。

 

 「え、ええ!だって、パーティとか組んでたんじゃないの?」

 

 たしか初めて会ったときに言っていたはずだ。最近はアルトリアとライネスに付き合ってくれていたようだが……。

 

 「実は、あの森から帰ったあと、除名されちゃってたんだよね〜」

 

 ネロはあっけらかんと言った。

 

 「え、そうだったんだ…」

 

 通りでネロがパーティメンバーと一緒にいるところを見ないはずである。

 

 「だから、ボクも付いて行きたいなー。2人といると退屈しなさそうだし。だめかな〜?」

 

 ネロはコテン、と首を傾げてライネスを見た。

 

 「そういうことなら、大歓迎だよ!一緒に行こう!」

 

 「うむ。貴様も我が眷属に加えてやろう!」

 

 「やった〜!」

 

 こうして3人はアークウェルへ向かうことになった。

 

こいつらただの強盗じゃ……。

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