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鉄錆戦機セコハンウォーカー  作者: どくとるフランキ
1. アウトバック・スターツ・ヒア
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1-3 ブロークンヒル

 ブロークンヒル。

 大荒原アウトバックに佇む、かつて鉱山町として栄えた小さな町である。21世紀半ばに付近の鉱物資源が底をつき、一度は存亡の危機が迫っていたというこの町は、大荒原アウトバックに繰り出す傭兵達の補給地点として生まれ変わり、かつてと違う賑わいを見せている。中古ウォーカー本体に武器、弾薬、ジャンクパーツに至るまで、正規軍の資材集積所と見紛う規模の兵器マーケットは今日も盛況だ。他の地域からやって来たウォーカー乗りのための安宿や、大型トレーラーを何台も停められる駐車スペース、傭兵組織のリクルーターとの出会いの場も兼ねた酒場まで、この町に来ればウォーカー乗りに必要なものは何でも揃う。荒れ地の真ん中に位置し、何の産業もないこの町の経済は、ここを訪れるウォーカー乗りを中心に回っているのだ。

 交代で休憩しながらトレーラーを運転し続け、アレクシス達がブロークンヒルに着く頃にはすっかり夕方になっていた。数年ぶりにこの町に降り立った二人が最初に行ったことは、荷台に積んできたS-334スヴェトリャークを町の中古屋に売り払うことだった。総出撃回数、1回。倒した敵機、0機。まだ機体固有のペットネームも決めていなかったのに。せっかくの第3世代機も転倒の衝撃でフレームが歪んでいたり、背中がガリガリに削れていたりでおよそマトモな下取り価格は付かなかった。スクラップ屋に出して処分代を取られるよりはマシ、といったところだ。

(高い授業料になったもんだな……)

 目を閉じれば、中古屋のクレーンに吊られて運ばれていったS-334スヴェトリャークの背中が瞼の裏に蘇る。でも、第3世代機用の補修パーツなんてものはここブロークンヒルでも早々手に入るものではないし、何より二人は今すぐカネが必要なのだ。こうする以外に選択肢はなかった。因みにウィルの乗機スーパージャグに搭載されていた、一人乗り用の操縦補助システムも取り外して一緒に売り払ったが、こちらは中古パーツにしては結構いい値段が付いた。かくして二人に残されたのはボコボコ装甲のスーパージャグと、S-334スヴェトリャークが装備していた携行火器だけになった。次にやるべき事は、スーパージャグを再び戦える姿に修理すること。それから、誰でもいいから二人に依頼を持ちかけてくれる人間を探すことだ。

「またスーパージャグに二人で乗るんですか? せっかく僕専用の機体ができたと思ったのに……」

 ウォーカー部品の露天商や、中古ウォーカーや武装を所狭しと並べたガレージが立ち並ぶマーケットを物色しながら歩く二人。スーパージャグが自分専用でなくなると決まったその時から、アレクシスの隣を歩くウィルの表情は晴れなかった。

「あーその、なんだ……何かごめんな」

 アレクシスは覚えている。一人乗り用の改造を施したスーパージャグをウィル専用機として与えた時、彼は柄にもなくはしゃいでいて、小さな体躯と相まってまるで本物の子供のようだった。一度はウィルのものになったあの機体をまた取り上げる形になってしまい、アレクシスはバツの悪い表情を浮かべていた。

「いや、いいんですよ。ほら、先輩が第3世代機に乗り換えるまではずっと二人乗りだったじゃないですか。元に戻るだけです」

「お前がそれでいいなら、いいんだがな……」

 通りを挟んで左右に立ち並ぶウォーカー商のガレージ。これ見よがしに陳列された無数の中古ウォーカー達を眺めつつ、アレクシスは心に誓っていた。いつかまた第3世代ウォーカーを買い直して、こいつにもう一度専用機を与えてやる。そして二人で2機のタッグチームとして戦場に繰り出してやるぞ、と。

「ところで、スーパージャグの補修部品ってあと何が要るんだっけ?」

「内装部品はコクピットブロックごと全交換。被弾でやられた関節モーターとか、亀裂の入った装甲パネルとかの交換も必要ですね……」

「ゲッ、そんなにアレコレ必要なのかよ……そんなにカネ持ってねえぞ」

 S-334スヴェトリャークを手放す前、手持ちの武器や後付けしたパーツを一通り剥がしておいたのは正解だった。あの機体に装備させていた57mmライフルがあるので、新しく武器を買う必要はない。それでも、スーパージャグの修理代見積もりは既にS-334スヴェトリャーク本体を売って手にした総額を遥かに超え、二人のポケットマネーを全部はたいてようやく払えるかどうかといった領域に差し掛かっていた。それに加えて、部品を買った後は修理屋に持ち込んで機体に組み込んでもらうなり、ウォーカー整備用の貸しガレージを借りて自力で作業するなりしなければならず、そうなるとますます財布からカネが飛んでいくことになる。このままでは、戦う準備をしているだけで破産しかねない。

「……なぁ、確か町の外れの方にジャンクヤードがあっただろ。あそこ行ってみないか?」

 一文無しの恐怖を前にしてアレクシスは切り出した。あのジャンク置き場の管理人には、駆け出しの頃に二人とも世話になった。どうせ誰かが捨てたものだからと、まだ使えるウォーカー部品を気前よく譲ってくれたものだ。

「あそこですか? あそこは……僕は、ちょっと」

 ジャンク置き場に良い思い出のないウィルは露骨に嫌そうな顔をしているが、今は他に取れる選択肢も思い浮かばない。

「いいから行こう、何か掘り出し物があるかもしれないぜ」

「わっ、ちょ、先輩っ」

 アレクシスは強引にウィルの手を取り、大股で歩を進めだした。この時アレクシスが言った「掘り出し物」はせいぜい、そのままスーパージャグの修理に使える互換パーツとか、ポン付けするだけで戦闘力を底上げできる外装式ロケットポッドとかを想定していたのだが──まさか、あんな「掘り出し物」に出会うことになるとは、その時の二人は予想だにしていなかった。

ウォーカー名鑑番外編 #1

北カフカス機械製造 SKOZ-6518型ウォーカー運搬車


 歩行という特殊な移動方法ゆえに非常に燃費が悪いウォーカーは通常、貨物列車や専用の大型トレーラーによって作戦地域まで輸送される。中量級ウォーカーを最大2機まで運搬可能な18輪トレーラーであるSKOZ-6518はウォーカー運搬車としては最多の生産数を誇り、世界中のあらゆる戦場で姿を見ることができる。

 ウォーカー運搬車は通常、ウォーカーを積載するためのセミトレーラーとそれを牽引するトラクターから構成されるが、このSKOZ-6518はそれに加えて大型クレーンを標準装備しており、故障などで動けなくなったウォーカーの回収にも対応している。巨大で目立つウォーカー運搬車は戦闘となれば真っ先に空爆の目標となるため自衛用の武装を持っている場合が多いが、戦闘区域を通過する場合は他の戦闘車両やウォーカーによる護衛が欠かせない。

 因みにウォーカー運搬車の任務はウォーカーの運搬だけでなく、単に巨大なトレーラーとして大量の物資を運搬する際にも使われる。大型で余裕のあるキャビン内には仮眠室、キッチン、簡易トイレまで備えており、長距離の輸送任務でも普段と変わらない生活が送れるのが人気の秘密らしい。常に戦車や装甲車が手に入るとは限らない非正規戦の世界では、余りあるエンジンパワーと積載量を活かして、荷台に大量の高射機関砲や対ウォーカー砲を積み、コンクリート等で防御を固めたウォーカー運搬車を即席の移動トーチカとして運用することもあるようだ。


全長: 26.2m

全備重量: 約150トン

発動機: コチェリギンVK300M 水冷V型8気筒ガソリンエンジンx2

最高速度: 40km/h

装甲: 均質圧延装甲、最大30mm

固定武装: ZS-23-2 23mm連装対空機関砲x1

      ザイツェフZK 12.7mm重機関銃x2

乗員: 最大10名(荷台に兵員輸送ユニットを搭載した場合最大120名の輸送に対応)

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