魔法使いの弟子
皇子様たちはまったくもってわかってない。
大体、あの皇子様ときたら、言いたいこと言えなくてそれでストレス溜めてるツンデレのくせして、こっちに来てテンパってた私が、プッツンして逆ギレしたらやたら楽しそうに笑って。
打ち解けられる人が欲しかったんでしょう?偶然とはいえ、エリウス王子と外交抜きで話ができるようになったことで、嬉しそうにしちゃって。顔に出さなくてもわかるんだから。
私たちの世界には魔法も魔術もない。
私たちがいくら会いたいと願っても、世界を渡る術を私たちは持っていない。
だから、会いたいと思ってくれなきゃ、私たちには会う術がないんだよ。
私たちを帰して、二度と喚ぶつもりがないのは、異世界の人間に積極的に干渉するのは良くないって考えているらしい。
召喚術が高度な技能と知識を必要とするとはいえ、軽率に人材を異世界から喚ぶようになったりしたら国力のバランスとか、そこから外交上の摩擦とか色々問題が生じるだろうって事みたい。政治のことはよくわかんないけど。
まー、どうせちょっとは会いたいと思ってくれたとしても、そういう責任やらなんやらに加えて、異世界に暮らす私たちを自分の都合で喚び出したりすることはできない、とかそんな気遣いを優先させちゃうんだろう。
エリウス王子のことはあまり知らないけど、アレックスに関しては絶対そうだし、のぞみから聞く限りではエリウス王子もそういうタイプのようだった。
身分と立場の負う責任を全うし、誠実であろうとする。尊敬すべき善き施政者だけど、乙女心はわかってないというか。
バカ真面目すぎて、そこまで自制しなくても、もっと目の前の自分の欲をちょっとくらい掴もうとしたっていいのに。
――帰せるってわかったんだから、会いたければ、喚んでくれればいいのに。
会えなくなったって構わない程度の存在でしかないのかって、ひねくれたくもなる。だけどそれ以上に、私が、会いたいって思ってるから。みんなの望みを叶えたいって、自分がそう望んでいるんだから。
だから、自力でどうにかするしかない。
ねえアレックス。私はあなたの望みを知ってるつもり。
それにのぞみと王子様が、どうしたいのかも。
「だからさ。私、オズワルド師匠の弟子になるから」
笑ってかなえが告げたその台詞を、オズワルド以外のその場の皆がとっさに理解できなかった。
「何を…どういうつもりだ?」
アレックスが眉をひそめて問い、魔術師へ困惑の視線を向ける。
「オズワルド、どういうことだ」
「かなえが術式の計測実験に協力するから弟子にしろ、と持ちかけてきましてな」
素知らぬ顔で老魔術師は答えるが、面白がっているのが多いに透けて見え、隠す気もないらしかった。
クソジジイ、と声にはせず漏れた皇子の呟きは、全員に拾われた。
「弟子になるって言ってもこっちに来るのは短期滞在だから。オズワルド師匠と個人的に師弟関係結んだだけで、他のお弟子さんたちみたいに宮廷に籍置いたりしないしこの国、ってかこっちの世界の政治とか行政にも関わる気ゼロだから。そういうことでよろしく」
かなえはキッパリと言い放つ。その瞳は決意を宿してきらりと煌めいていた。
「もちろん、個人的にアレックスと友達でもあるけど」
呆気にとられるアレックスに、ふふんと満足げに笑ってかなえはのぞみに振り返る。
「のぞみ。師匠いわく、術式を完成させるには同じ対象で術式のデータを取るのが早いんだって。よかったらこっちに来るとき、付き合ってくれない?」
ついていけずに呆然とかなえを見つめながら、のぞみはなんとか言葉を紡ぐ。
「そ、れってつまり、帰って、また、ここに、来る?」
「そういうこと」
にっこりとかなえは笑う。そして、エリウスへ顔を向けると
「私たちは、またここに来る。私とアレックスは友達だけど、王子様、あなたとアレックスも、友達でしょう?」
会いたいと思うなら、自力でなんとかするしかない。そうでしょう?
難しいことなんて、何もないはず。
同意を求めるように、かなえは優しく笑いかけた。