ビターチョコレート
それは、いつからだっただろう?
思えば私は、このほろ苦甘い感覚に、いつの間にか魅せられていたんだ。
━ビターチョコレート━
それを口にしたその瞬間に、
「チョコレートは甘い食物だ!」
などという、偏見まがいな私の見解は見事に崩れ去った。
それ、とはまさにビターチョコレートだ。
チョコレート特有の甘さ、それは他のものとさほど何ら変わりはない。
けれど、1つだけ異なる点がある。
それが、この甘さに包まれたほろ苦さ。
甘い食べ物でありながら、まるで正反対のほろ苦さを感じるのだ。
(美味しい…)
私はその瞬間から、このビターチョコレートの虜になった。
そして……。
「もうそろそろ帰らないと……」
隣で煙草の火をくゆらせていた彼が、スッと立ち上がった。
私の部屋に来る彼は、決まってこの時間に、この行動を繰り返している。
「そう……なら、仕方ないわね」
私がそう言うと、彼は去りぎわに軽く1つキスをくれた。
そして、
「また来るよ」と言葉を残しながら去っていく。
必要とされているのは確かなのに。
大事に思う気持ちは同じなのに。
何かが違う。
それはまるで、それまでの見解を一気に覆されたデジャヴ。
私はそっと触れた唇を指でなぞる。
何故かそこには、それに似た甘いほろ苦さが残っている。
……そんな感じがした。
End.