49日
目を開け、あたりを見渡すといつもの部屋。私の部屋。…今何時だ?時計を確認しようと体を起こすと。
「起きたか、神崎」
ベッドの脇に佐山が仁王立ちしていた。はいまだ夢だったみたいでーす。おやす
「いったああああ!!」
もう一度仰向けに寝ようとすると、死んだはずの佐山に頭を叩かれた。死んだはずの!佐山に………ん?
「…あれ、お父さんの姿じゃない…」
「お前の父さんは昼休憩を終えて会社に戻ったよ。」
「どういうことだ。もうわけわからん、とか思ってんだろ」
佐山に図星をつかれるほど悔しいことはない。まじで。そう思っていると佐山は私を可哀想な子をを見るような目で一瞥し、事を一から話し始めた。
ー
まあ、俺も人の子なわけで。人のものをもらったらお返しするのは当たり前なのは知っている。だからあの日、腹が減りすぎたからとか、大好物だからとかいう理由で神崎のミスだかミセスだかいうあんぱんを無理にもらってしまったお返しはするつもりでいた。家に俺用のあんぱんが常に一つはあるので、明日神崎にはこのあんぱんを渡そうと思ってラインをした。
深夜まで予習をしていたら、腹が減った。でも冷蔵庫にはすぐ食えるもんがなかったから、近所のコンビニに行くことにした。ついでにもう一つ神崎にお返しの何かを買ってやろう。うん、完璧だな。と思いながら外に出た。
街灯は所々消えてて、行政の不行き届きに少し悪態づきながらチャリを漕いでいた。コンビニが道路の向こう側に見えて、横目に車が一台走ってくるのが見えたけど、横断歩道の信号は青だしと思ってそのまま渡ろうとした。そしたら、車が…。
まあ多分、そん時俺は死んだんだろうな。それから三途の川だの閻魔様?だのを見た。しばらくいると、知らないじいちゃんが来て、49日のことを教えてくれた。丁度俺は初七日を過ぎた所だったらしい。49日間はあの世とこの世を魂がさまよえるんだと。
「そんで死んでから3週間たったから、あとこの世に来れるのは4週間くらいだな。」
…呆然。私は基本そういう系の話は信じないタイプで、話されるとしたら最後には高額な壺の話が必ず出てくるもんだと思っていた。ただ、佐山という男はあっけらかんと私の前に佇んでいる。
「そんな設定を長々説明されても…」
「設定とか言うなよ。読者戸惑うだろ」
「お前も読者とか言うなよ。じゃあお父さんの件は?なんで今佐山の姿なの?」
「最初は人の体借りなきゃ降りてこれないみたいだ。お前の近くに来れる暇してるやつなかなかいなくてさ。でももう会社に戻ってもらった。」
…拝啓お父さん。何をしていたんですか。何もしてなかったとか言わないでくださいね。
「じゃあ今どうなってんの?」
「お前だけが見えてる状態」
「なんかそれエロい…った!すぐ叩くのやめて!暴力反対!」
信じたくはないが、目の前には確実に、私の知っているあの佐山がいる。喋り方も、声も、顔も体も。なぜか制服姿だけど。自分から触るのはなんだか怖くて、でも叩かれる感覚はしっかりとあって痛い。頭はなんとかついていっているけれど、気持ちが、全然追いつかない。なんで、来たの。なんで?
「ねぇ、佐山」