ストップストップ
「あ、おかえり」
「あ、おかえり。じゃないよ!!!?なんでいるの!!」
私の前に居る男はなんのことやら?とけろりとしている。うわ腹立つ顔
「なんでいるのって言ってんですけど」
「冷たいよなぁ、お前」
「どこが!!」
明らかにしょぽーんとした中年はすごすごとリビングに…
「いや、だからなんで家にいるのお父さん」
私の問いかけにおっさんは答えようとしない。おい。
「…会社、早退してきた。」
…なんで。体調悪いの?ときいても返事をしない。なんだというんだ。
「だって絶対理由言ったら怒るもん」
「もん、とか可愛くないから。怒らないから言ってよ」
しぶしぶ、と言ったようにお父さんは言った。なんとなく、と。
なんとなく???大人がそんな理由で休んでいいものなのか。……お父さんは、何か隠しているのではないか。という考えが頭によぎった。リリリリリストラ…!?いや、ちがう、ついこの前昇進祝いをしたばっかりだ。他に、他にいつもと違うところを……待てよ、そう考えると、さっきからいつものお父さんぽくない、ような?いや、疑いすぎ?
「…ねぇ、」
「なに、」
「今日なんか変じゃない?」
「なんで」
「スマホ、めったにいじらないよね?いつも」
「情報化社会に乗ろうと…」
「私帰ってきて、わざわざ玄関まで顔出さないよね?いつも」
「たまには娘をちゃんと見ようと…」
「手にある食べかけあんぱんはなに」
「実は父さんあんぱん大好きなんだ」
…やっぱり、いつものお父さんじゃない。スマホ使ってるのは電話の時くらいだし、娘となんて毎朝会ってるし、お父さんは自分のこと父さんなんて言わない。パピーだ。そして、お父さんはあんぱんが地球上の食べ物でいっちばん嫌いだ。
…この人誰…怖い怖い怖い、誰、見た目は全くお父さんなのに…誰なのこの人。状況が異常であることに気づき始めた。
「あなた、誰なんですか」
少し声が震えてしまった。相手に、気づかれただろうか。相手が何者か分からない以上は弱みは見せれない。どうしよう、足が棒みたい。襲いかかられたら抵抗できない。どうしようどうしよう、
「…あ…っと。怖がらせた?ごめん」
誰、誰なの、どこのどいつよ。謝るくらいならさっさと名乗ってよ、こんな時あいつがいたらうまいことやってくれるだろうに
「簡単には信じてもらえないと思うけど…俺は今お父さんの身体を借りてる。あー、お父さんの中身は無事だから。なんでこうなったかっていうのは」
「ストップストップ」
だめだ、相手のペースに乗せられてしまう。身体を借りる?中身?そんなスピリチュアルな話…。お父さん、睡眠術でもかけられてコントロールでもされてるのでは。…誰に。
「まず、名前名乗ってくれる?」
「名前?」
「そう」
「え、てっきりもう分かってると」
「分かってねぇから言え」
えー、まじかよこいつみたいな小馬鹿にした顔が腹立つ。しかも私の父親の顔でな。余計腹立つ。こんな相手に怖がってる自分にも少し腹立つ。
「…ま」
「なんて?」
「…さやま」
さ、や、ま?必死に頭の中でさ行を検索する。さやまさやまさやま…さやま。
一人しか、出てこない。
「佐山?」
「うん」
「隣の席の?」
「そうそう」
「死んだ?」
「うん」
「あの佐山?」
「そう。」
佐山…だと?いや、おかしいでしょ。なんで死んだ佐山がお父さんを催眠術であやつ…
あれ…?さっき、身体がどうこう…
「魂が乗り移った、的な」
佐山と名乗るものが一言発した。魂が乗り移る…とな。信じるか信じないかはあなた次第…
きゃーこわーい!!的なあれですか。いやいや、そんな……
「ば…かな…」
「神崎!?」
そこで一時意識が途切れた。
お父さんの声なのに、どうしてか、佐山の声を感じた。