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雨のち晴れのち雨


「実は」


急に高見君が改まるもんだからこっちまで緊張してしまった。雨だけがざぁーっと降っている。


「俺、ずっと前から」


…ごくり、という音は、高見君に聞こえてしまっただろうか。私の心臓の音が、高見君に聞こえてしまってはいないだろうか。なにを言われるのか、不安と、なんとなくあれか?なんて期待が複雑に入り混じって、身体中が脈打っていた。


「えっ、と。ずっと前からバイオリンやってるんだよね!」


そう、なんだ。としか言えなかった。高見君。さっきの時間返して。あと私の心臓さん動きすぎたから、君の寿命も少し分け与えて。まじでもうやめて。


「………あ、雨やんだかも。俺、先帰るわ。じゃあね。」


いや、そんだけかい。私の淡い期待はただの自惚れとなって消えた。もし、自惚れじゃなかったら、私はなんと答えていたのか。なんて、意味もないことを考え始めた。…答えなんて、分かってるくせに。センチメンタルに浸りたいだけの、自分に腹が立つ。

明日も、隣に佐山はいないのだろうか。

やはりまだ実感が湧かなくて、佐山が今日一日学校を休んだだけのような気持ちでいた。ぼんやり寂しいと思うのと、胸の奥がきゅううっとなる感じがした。



次の日も当たり前のように隣の席は空いていた。誰も座らない椅子に、何期待してんの?って笑われてる気さえした。隣の席を見つめるたびに、高見君が心配そうにこちらを見ている視線を感じた。感じたというか、視界の端に捉えた。佐山のいない一日はやはり長い。でもぼーっとするだけで中身がない。まるで私も死んだみたいだな、なんて、変なことまで考えてしまった。


「生きろ」


帰りに桃子に言われた。桃子は中学からの仲だ。それで、桃子は佐山の好きだった人。もしかしたら今も好きなのかもしれないけど。別に思い込みとかじゃない。佐山本人から聞いたから。


少し、回想させてもらおう。あれは、私と佐山が日直で、放課後に日誌を書いていた時だったー。


ー「なぁ、神崎って好きなやついんの?」


飲んでいたいちごみるくが変なところに入って私はむせた。佐山は汚ない、と言いながら日誌に時間割を記入している。相変わらず字が綺麗。そんなことはどうでもいい。


「いきなり、なんで?」


佐山とはずっとその手の話をしていなかった(無意識に避けていた所もあるが)ので、突然言い出した理由が知りたかった。少しの沈黙があってから、佐山は、特に理由はないよ、と言った。いやいや、ねーわけねーだろ、とつっこんだけど、ねーもんはねーよ、と返された。意地でも言わないつもりらしい。


「で、神崎誰か好きな人いんの?」


…好きな人好きな人好きな人…。誰だろう。いないって言ったら佐山が好きな人答えてくれなくなっちゃうかな。とりあえず誰か言っとこうかな。でもいないしな。うーん…。そこで私が最初に思いついたのは


「高見君」


バカな私を許してほしい。この頃の私は、友達の好きと恋人の好きの違いがいまいち分からなかったのだ。今なら分かる。ごめん、高見君。だしみたいに使って。でも、佐山には「神崎の好きな人は高見君」となったのは間違いない。佐山はただ、ふーん、とだけ返した。いやもうちょい興味持とうや。

そして、次に私が佐山の好きな人を聞いたら、彼は案外素直に答えた。はっきりと「椎名」と答えたのだ。私の学年に椎名は桃子しかいない。念のため、桃子?と聞くと、うん、と佐山は頷いた。そのあと書き終わった日誌を私に押し付けて佐山は帰ったー。


ー回想終わり。佐山の口から桃子の名が出た時、なんで佐山に対する気持ちに気づかなかったんだろう。胸がざわついたのに。卵のセールの日かどうか焦ったからだと決めつけた自分が恨めしい。あの時気づいていたら、佐山に…いや、ないか。気づいてもどうせなにもしなかっただろう。

話は逸れたが、とにかく、佐山の好きな人は桃子だ。それで桃子の親友の私が好きなのは佐山だ。さらに言えば、佐山には言わなかったが、桃子には彼氏がいる。あら、なんて神様はいたずら好き。渦中の佐山は死んだ。


「おーい、おーい、病院行く?」


ぼーっとしてただけだよ!と私がつっこんだところで、2人で笑って、桃子は部活に行った。別に桃子にはなにも思ってない。嫉妬とか、そういうのは全然ない。…と思う。今私の目の前で、昨日は雨だったから晴れて嬉しい!なんてはしゃいでいる桃子は誰から見ても可愛いと思うし。そうこう考えているうちに、下駄箱に着いた。

丁度傘立ての所に高見君がいたから話しかけようとしたら、横に林君がいて、二人の会話が始まってしまった。こういう時、困るよね。話しかけるタイミング、見失って立ち聞きみたいになるよね。


「あれ、高見なんで傘もってんの?」

「昨日忘れて置き傘しちゃった」

「変な冗談言うなよー笑 昨日土砂降りだったじゃん」

「うっせ馬鹿」


…あー。やっぱり、というか、本当高見君らしいなぁ。高見くんは昨日傘持ってきてたんだ。なのに雨がやむまで一緒に待ってくれた。まあ結局あれは一瞬の晴れ間にすぎなかったんだけど。なんで高見くんはこんなに優しいんだろう。いっそ本当に高見くんを好きになれたら良かった。なんで、佐山なんだろう、私。


なにしたって、なに考えたって、私のこの恋が実ることは、ないんだなあ。

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