とは?
「未練、て。何か、思い当たること、あるの?」
「あるから、ここに来た。」
佐山は改まって正座をし、真剣な眼差しで私を見る。そこに温度はない。
そうだ、目の前の人は幽霊なんだった。さっき上がった体温は一気にどこかへ引いていた。
「神崎にも、心当たりあるでしょ?俺の未練について」
未練、というのは。後悔や、恨み、死ぬ前にやり残したこと、ということで。
呪縛霊や生き霊は、その原因となる場所や人につくのであって。私の脳内はフル稼働していた。
私が分かるはずの、死んだ佐山が私の前に現れた理由。
それってつまり、私が佐山に何か恨みを買われるようなことしたってこと?それで私にやり返さないと気が済まないって話?何したの私。
これ、思い出さないと余計怒りを買ってお前もあの世に連れてくとか言われるかもしれないルートでは。
「あ、あの、あれ、だよね」
「どれ」
「あれだよ、あの、あの」
えーっと、佐山にやってしまった悪いこと、悪いこと、えっと
「先月号の月間ジャンプ借りっぱなし…」
「ちがう」
「佐山が寝てる時手に落書きしたこと」
「ちがう」
「生徒手帳の写真勝手に見ちゃったこと?」
「おい」
「あ、あれだ!アイスが溶けて手にかかったから佐山のタオルで拭いたやつ!」
「今知ったわ何してんだテメー」
ほっぺを思いっきりつねられた痛い。言い損だ。これ続ければ続けるほどよっぽど恨み買うのでは?というより私そんなひどいことしてない。
「ごめん、分かんない、私何した?」
「神崎は何もしてない」
は?どういうこと?
「お前本当あほだな」
はいでましたー、こいつまじかよって小馬鹿にした顔ー。……って、さっき見た……。そういえば佐山が憑いてた人って
「私じゃなくてお父さんが何かっ痛っ!!!」
はたかれた!!親父にだってはたかれたことないのに!!
だからさっき説明したろ、こっちに来るには誰かの体を借りる必要があったからで、お前の親父を借りたのは都合がよかったからだって。と、佐山は言う。
いよいよ分からない。
「フィフティフィフティで」
「なに100万ゲットしようとしてんだ」
「だって分かんないよ!」
佐山ははぁーーーっと、大きなため息をついた。
(死んでからキシリトールガムって噛めるのかな。)