隣の佐山
「今日もやっと終わった…」
毎日言ってて飽きないのか、それ。と思いながら、私もそそくさと帰る準備を始める。水曜日課やっぱ辛いなぁ。でも高校一年生ってこんなもんなのかな。今日どの教科書持ち帰ろうか。あれ、この冊子明日までだっけ。嘘でしょ。全然やってない…!今頃机から発掘された課題に私は焦った。
そんな私を尻目に、隣の席の佐山は背伸びをしたまま呑気にあくびをし、わたしの鞄から顔を出していた潰れたあんぱんに目をつけた。
「神崎、そのあんぱんくれ。」
「佐山…私のミスあんぱんをどうする気!?」
「食す」
「あああミセスあんぱん!!」
この短時間でどう結婚したんだあんぱん、とめんどくさいとこに突っ込みながら、佐山は私のあんぱんの袋を容赦無く開け、あんぱんを食いちぎった。帰りに食べるつもりだったのにあんぱん、くそ。おいしそうにあんぱん食べやがって、くそ。くそ。うんこ。
「あんことうんこって似てない?」
「似てない」
バッサリ切られた。恐るべし佐山。そもそもそれ私のあんぱんなんですけど。そうだよ、なんで佐山が我が物顔で食べてんのさ。もっともなことを思いって佐山を睨みつけた。なにこいつ、超肌きれいなんですけど。
「ニキビのスキンケア感謝感謝です?」
「あんこうんこからどう結びついたんだよ」
しかも何気にこいついい声してるしな。くっそ佐山消えろ。腹立つ。これ以上佐山見てたら殺意湧いてくると思ったので、睨むのをやめた。それから帰り支度を済ませ、佐山と彼の胃袋に消えたあんぱんに別れを告げて、家路についた。ついでに、私のあんぱん返せってLINE飛ばしといた。普段となにも変わらない一日だった。ただ、5時近くなのに、まだ明るかったから、もう夏が近いなぁとぼんやり思ったのは覚えている。