表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

2-4 おしまい

勇者はこの状況でも、諦めてはいない。

「ラグナロク」をあなどっているわけではない。

しかし、諦めなど微塵も浮かばないらしい。

なぜかわからない。もう勝ち目など無いのに。


「しんでもしなねえなら……」


亡者を統べる己も、まだしんだことはないが――。

魔帝は気を引き締める。

次の勇者の行動を、完全に、確実に、防ぎきるために。

さすれば。もう魔力もない。勇者といえど、無力。

「ラグナロク」発動中のいまならば、魔帝の敵ではない。

だから安心していた。いままで覆されたことなど、忘れていた。

安心という名の油断。油断という名の――大きな隙。


「はァァ!」


勇者は、飛んだのか――?

その言葉すら相応しいほどにはやく、地と平行にして。

距離を詰めた。


「ラストマジック――」

「さっきからよお、全然最後じゃねえんだよ――!」


それは煽りか。そんなもので揺らぐ魔帝ではないが。

一瞬で術式を破壊されて、気づく。

「ラグナロク」を使わずにいたこと。慢心か油断か、それともなんだ。

焦りよりも大きく膨らんだ感情は、魔帝の頭に広がってゆく。

実際には存在しないものでも、圧力で脳が潰れそうだった。

これは――そうだ、恐怖か。


「おしまいさ」

「――なっ」


術式の一部を見て。気づく。

予想外。

思考の外。

勇者は、自爆しようとしているのか。

自らを犠牲にし、世界を変えるなど、とんだ綺麗事だと鼻で笑っていたのに。

目にすると、笑えぬ。

否――、憤る。


「イージス・シールド」


それは絶対の盾。たとい、天変地異ですら防ぎきる、守の頂。

絶対の安全が保障された。

あいつがなにをしようとも――、凌いで叩いて、おしまいだ。

と。

思っていたが。

表情は硬い。

勇者の表情とは正反対に、硬い。


「ビッグクランチ」


盾があろうと――もはや関係がない。

すべてを収束して飲み込まんと、勇者の魔術は。

宇宙創生の対であるその魔術は、加速する。

そしてすべてが、おわりゆく。


――あっては、ならない。

こんなことが……こんな!

絶望しかけながらもしかし。

しかし魔帝はまだ諦めない。



爆音とともにすべてが圧縮された。

――かにみえた。

骸が一。

……魔帝か。

息も絶え絶えだが生きているだけでも凄まじい。

浜野は聖剣で、魔帝の首を――

添わせた。


「……なにが」

「俺は、この世界を正したいだけなんだ。

魔帝だろうと、なんだろうと、構わない。

おまえが、おれと戦い、死ぬ必要などどこにもない。

だから。

だから歩きだそうじゃあないか。

皆が幸せに歩ける理想郷を目指し。

さあ」


浜野の声は届いてはおらず。

――血が溢れた。


なにが。

だれが。

――、

どうして。


「無理な相談だ。わたしは、お前を倒すために生まれた魔力集合体だ。

ひとでは――いや、動物ですらない。

亡者を操ることしか。勇者を殺すことしか出来ぬ、愚かな『もの』なんだよ」


聖剣は、魔帝の手中にあった。

ラストマジック・ラグナロクによる即時魔術行使か。

血を吐きながら、勇者は叫ぶ。


「なぜ……、なぜなんだ! きみも、おれも、そんな、ところで……!」

「簡単なことさ」

「な、に……?」


言葉を選ぶことはできたけれど。

あえて魔帝はそうしなかった。

それは。

勇者への畏怖か。

あるいは、この世界から――さよならするためか。


「――きみもわたしも、こういう運命だったからさ」


浜野にも薄々感づいてはいた。――なぜなら。

見たことも聞いたこともない異世界に現れ、数週。

……にもかかわらず、まるで、この世界を心から愛しているような、行動と言動。

人々はその姿を見れば言うのだろう。

「ああ、我らが勇者様……」

かんたんなことだったか。

召喚術式には、言語知識だけではなく――勇者の、この世界の英雄の感情や願望が、含まれていたのだろう。

だから……だから、あたかも勇者のように、振る舞っていたのだろう――?

もはや、勇者の脳では及びもしない。

理解に苦しみ、挙句放棄する。

それで構わない。


みなをすくえるのならばそれでかまわない。

ゆうしゃであるぼくが、ぎせいになることで、かなうのならば。


かまわない。


たとえ、なにをぎせいにしようとも。


――かまわない。


狂っているけれど、とうに歪んでいるけれど、勇者は振り絞る。

聖剣はもう、魔力など無いはずだったのに。呼応させられて――。

勇者は剣を握る。……そんな握力などどこにもないはずなのに。

勇者は足を進め。……そんな体力がどこに残っていようか。

勇者は魔法を弾く。……とうに朽ちたそのからだで。


「ラストマジック・エクスプロージョン」


極大規模の爆発は、世界そのものを破壊する。

赤黒い爆煙は全てを塗りつぶしてゆく。

もう誰も止めることはあたわず。

魔帝はその身を魔力に変換されながら――、

満足気に目を閉じる。

やはり魔帝も気づかない。

その眼が群青にひかるさまに。

勇者の目から――金色こんじきのひかりがもれだしていることに。


「覆水盆に返らず。

――なんて知らねえだろうなあ。ははは……。

一度した失敗は取り返しがつかない。そういうことわざがあるんだ。

けれどな。

やり直しのきかないことなんて、ほとんどないんだ。

たいていのものは結局うまく収まってしまうから。

……、

だからやり直すよ。

すべてこわれたなら。

なおすまでだ――」


勇者の右目が金色のひかりを放つと、世界は修復された。

いや――つくりなおされた。

そうあるべき姿へと。勇者がそうであってほしいと望む姿へと。



一体どれほどの時間が経ったのか。

勇者は身を起こし、「神殿の外に出た」。


とりかこまれる。

軍隊か。団長らしき牛が言う。


「大魔王様の仰る通りだった――!」

「なにっ!」


間髪いれず、首をはねた。

しかし。


「なにからなにまで、仰るままだ――」


まわりこまれていた――?

筋肉の形から見ても、その巨大な図体から見ても、俊敏性は高くない。――のに。

くすんだ石が腰に。まさか。


「魔石だ。不意を突かれたろ?」


まにあわない。

疲れ切ったこの体では。

安堵して油断していた勇者では。

真に使い果たされた聖剣では。

あらがえぬ。



「――おしまい」


一人つぶやいたのは、小柄な少年。

白い髪をかきあげ――、両目から金色のひかりを放つ彼こそが。

世界の半分ほどを支配する絶対的存在――大魔王である。


「きみのいない世界は、僕が守るから」


勇者の失せた世界は、その後もまわり続けた。

初めからいなかったかのよう。

痕跡もなにもありはしない。

だれもなにもしらぬままに、世界はまわる。

そこには悪は存在しない。

まさに理想郷。しかし、つまらない世界になってしまったと。

以前の人々ならば思っただろう。

しかしここは、勇者のつくった世界。

何の不満もなく、世界はまわるのだ。

いつまでも。どこまでも。



***



どこかのかなた。

異なる場所で、二者は目を覚ます。


「わたしはいったい……」


「俺はあのとき――!」


その祈りは届いたか?

その願いは叶ったか?

彼らは別々に動き出す。

それぞれの目的を持って、それぞれの意思を以って。

歩みだす。


未来へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ