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2-3 無謀な戦

ユウマもメイも、生きているのと違いはなかった。

それは浜野が望んでいたからかは分からない。

けれど、


「浜野さん、わたし……」


だからこそ


「もういいんだメイ」

「浜野さん……」


――手加減はしない。

鋭い太刀筋は、メイをもう一度絶命させた。

糸の切れた糸繰り人形のように、崩れた。


「おいてめえ……!」


ユウマの叫びをきいて、浜野は思う。

本当に生きているようだ。もしかすると、本当に生き返ったかもしれない。

けれど、それは間違っている。

つまり、禁忌をおかしてはならないということ。


「もう俺にはなにがなんだか分からないよ」


勇者は言う。

表情はない。焦点があっているかどうかも怪しいくらいだが。

すべてを失った勇者はせめて世界を救おうと。


「だけどなあ」


ひとつだけ、わかることがある。

為さねばならぬことがある。

ならば進まずにいられようか。


いま。ここで。この手で――変えるから。


「てめえらのやり方は間違っている。

何が正しいのかはわからないけれど、

俺は確かに、それだけはわかっている。

だから俺は……お前達を倒して、未来を歩もう。

その先がたとえどんなに重いとしても。

それが運命ならば。受け入れよう」


たとえ世界が白黒であったとしても。笑顔は価値を損ねない。

たとえ己が傷ついても。皆が救われるのならば構わない。


後悔などない。

不安などない。

勇者は目を閉じた。

泡のように浮かんでは消えてゆく景色。

魔帝側から称するならば、これは走馬灯だが。

それほど安くない。

これは覚悟。たとえ相討てど潰すための。

これは意志。己が手で未来を築くための。

そして――この目に宿るは光。

希望、意志、願望、勇気、平和をないまぜにした、


浜野のひかり。


「ラストマジック・エクスカリバー!」


魔帝が放つのは神話の聖剣を名に冠する奥義。

ひとひとりに放つ規模では当然無い。

神殿は崩れ落ち、放たれた黄金の大きい球は、爆発を引き起こす。

フレンドリファイアを無効化したこの魔術は。

周辺四カ国を消し去り、その地を無に帰した。

いや。

その表現すら、なまぬるい。

草木、あるいは微生物すら存在し得ないこの状況はまさに。

地獄そのものか。


「最後の魔にしては、腑抜けが過ぎるぞ」


こえがきこえた。

何処だ。何処に居る?

魔帝は戦慄す。

まるで魔術の効かない化け物に。

勇者の背負うひかりの重みに。


「ラストマジック――」


放とうとしたその魔術は。完成も許されず霧散した。

浜野の技ではない。魔帝の。

亡者の王の、恐れか。


「撃ちたいならば幾千と撃てばよい。

そんな児戯が俺に効くとはおもえないがな」


やっとわかりはじめていた。

勇者は、なぜか力を取り戻し。

いやむしろ、増幅させ――。

魔帝の前に立ちはだかっている。


「なにをしておられるのか!

ならば僕が――《漆黒の刃》!」


生み出されるそれは、極めて鋭利なものだった。

魔帝の特殊能力による補正ゆえか、精度が増し、

それはすべてを切り裂いてしまうかのよう。

また、数も増す。十数から、数百に増している。

それらがすべて、浜野に向けられて放たれる。

気づかず死んでもおかしくはない完成度。

「改」と名に付すほどの変化。

思わず、ユウマはほくそ笑む。



しかし。

浜野は、素手でそれらを払った。

たちどころに砕け散り。光の粒子となって消える。


「ばかな」


狼狽(うろた)える邪者。

一瞥して、勇者は告げた。


「もはや恐るるに足らぬ。

過去の禍々しさはどこへ消えたか――

勇者と対をなすと聞いたが、大したことはないな。

俺の前に立つには相応しくないようだ」


その言葉に。邪者、激昂。

ひとまたたきのうちに。

距離を詰め、右拳で腹を抉る。


「痛くねえ」


勇者の立ち位置はまるで変わっていなかった。

その座標は1ポイントも値を変えることはなく。


勇者は邪者を遠くへと投げ飛ばす。


「その不自然に修復された右腕も。

魔にのまれたかのような愚直さも。

気のせいだとしても、気に食わぬ。

それにもう……言葉は必要ないだろう。」


――届いてはいないようだしな。


事実、届いていなかったのかもしれない。

まるで狂犬のようである邪者をみて。

勇者は溜め息をついた。

そんな姿でいないでくれ。

もう引導を渡そうじゃあないか。


最後の力を振り絞ってそれを聞いていたのか。

あるいは直感によるものか。


「……」


ユウマは浜野を(にら)んで。

直後、疾走する。

誰も捉えられない。

誰も捉えられなかったはずだ。

まさしく、浜野以外には不可能だった。


互いが接触した瞬間、ユウマは地にめり込んだ。

デジャヴを見るかのよう。先程の繰り返しのよう。

勇者は断ち切らんとその剣を振り下ろそうとして。

すべてのおもいを、ぶつけようとして。


「《次元の落穴》」


はっとした。

起き上がった骸をひとつ、忘れていた――


……いや違う。まだいたわけではない。

ふたたび蘇ったか。


底の知れぬ時空魔術師が手をかざす。

次元の落穴。

浜野はその魔術をかき消そうとして、しかし。

気づく。

その究極的な完成度に。

絶対的な効力に。

――あらがうことなどできないことに。




怪物と化した勇者を潰して、メイはわらう。

まるで心のこもっていない乾いたわらいだった。

それにどんな意味があったのか、もはや自分にもわからないが。

もうおわらせたことだ。きにしてもしかたのないことだ。

と。

かすみのかかったその頭では、ついに気づくことはできなかった。

自らの目から涙が零れ落ち、頬を伝って落ちる様すら。

糸繰り人形にはもはや気づくことはできなかったのだ。

魔術師は、魔帝をみた。

魔帝は訝しむように、髪を手で(いじく)っていた。

……なにをかんがえているのか。

勇者のことか? それはもはや済んでいるというのに。

ともかく。 すべきことは終わった。次へ移ろ――。


突如、爆発した。

何もないこの焦土だ。爆発するものなどないのに。

ああああ。あたまがはたらかない。

なにもわからぬままふりまわしていたから。

魔術師の思考では追いつかぬ。見当すらつかないままに。

それは言う。


「流石に焦ったぜ」


聞いたことがある。

思い出した。

浜野。

勇者。

くちくすべきもの。

……。


「俺といたときには。

こんなにも強くはなかったのにな。

どうしてか。時間差というやつか?

……はは。懐かしいな。

あまり長い時間ではなかったが、それでも俺達は笑っていたのだろう。

こんな結末だとは、思いもよかなかったが、それもいい。

終幕だ、――メイ」


その言葉が引き(がね)

瞬間、魔術は構築された。

ラストマジック・エクスカリバーにも匹敵するほどの大魔術。


「食わねえぜ」


やはり破壊。

描いた術式は、整い綺麗なものであったが。

一瞬にして幼児の落描きと化す。

誰かがすり替えたように、一瞬で。


「なぜ!」


それでも魔術しかない。

魔術師が勇者に対抗できるすべは、やはりそれしかないのに。

しかし届かない。描かれた術式は変換され朽ち果てる。

大量の魔力行使にからだがおいつかず。

血肉が結晶へと変わり放出されるのを、魔術師は感じた。

結晶が散りゆき、光を反射させるさまは、綺麗なものであったが。

その事実は重い。

すると。


「――ラストマジック・ラグナロク」


突如、魔術が発動した。魔帝か。

確かに間はあったけれど、一体いつ詠唱していたのか。

魔帝は確かな感触を得た。柱状に具現した結界が、勇者を突き飛ばす。

緋色の透き通った結界に突き飛ばされて、勇者は地に倒れた。

焦げた土の感触は、まるでこの世にあるとは思えぬほどに存在感を主張せず。

触れると消えてしまいそうになる。掌で握りしめた。


この魔術の威力はさして高くはなかった。

けれど、と魔帝は思う。

この魔術が発動したところに意味があるのだ。

二十分間自在に――時間を置かず魔力を使わず魔術を発動できるこの魔術が。

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