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2-2 終焉の兆し

「メイ、これはどういう――」


状況がのめない。

一体これはなんだ。

……裏切りか?


「――まずはじめに言わなければならないことは、

もうこの世界に勇者は必要ないということです」


「なんだと……? どういうつもりだ、俺もアイツも、てめえが召喚したんだろうが!」


軽く首肯。


「ですから、ここでさようなら。

もうあなたがたは、世界から必要とされていないのです」


口をはさんだのは浜野だった。


「――それはつまり、僕らの役目は魔帝の退治、ということかな」


またも肯定。


「大魔王を継ぎし魔帝も、もはや消し去られました。」


「てめえが潰したんだろうがァ!」


吼えるユウマを静かに見て。


「勇者を召喚する度に、わたしの力が増してゆきました。

ふふ、つまりはそういうことです」


「なんだよ、はなっから用済みにするつもりだったってことかよ――」


「いや、まだ俺たちは必要らしい」


「あァ――?」


「みてみろ、あの姿こそ――」


浜野が示した姿を見て。

はん、とユウマもわかった表情で。

言葉を継ぐ。


「――魔王と呼ぶにふさわしい」


メイの瞳が紫に変わる。

それが意味するところとは。


「ヴァイオレット・レイズ」


迸る光線。浜野の腹を貫通する。


「《全死の――》」


「紫線」


ふたたびほとばしる。

圧倒的速度で構築される魔術は、誰が見ても唖然とする完成度だったろう。

間一髪で避けていなかったならば、それは浜野の二の舞だ。


隣をみる。


「ばかな――」


「へばってられっかよ」


腹が貫通してもなお、立っている。

ユウマには理解できない。勇者補正とはいえ立ち上がることすら困難であるはずなのだ。

さも当然、というように隣に立つ浜野をみて。

ユウマは笑う。


「やるか」


その一言を合図に。

ふたりは動く。

前後から、挟みうち。


「《真紅の――」

「紫線」


まにあわない。

……ならば。


「うおおおおお」


無策だが。意表はつけたか。

しかし視線は浜野を捉えている。


「……」


浜野の剣が――触れる瞬間。

メイの瞳から、紫の光がもれて。

剣はメイを切り裂き。その身は地に伏した。


「なんだよ…………」


みまわして。変わらぬ景色の中で。

うめいた。

こんなものが、こんなものが望んでいた結果か。

そうであるはずがない。

もっと綺麗な結末を期待していたのに。

すべてを終わらせて、平和に過ごしたかったのに。

しかしならぬ。運命は勇者を突き離した。

待っているのは血塗れた未来か。虚しい未来か。

そうであるならば……己が手で、壊すしかない。

壊して変えなければならない。己が望む方向へだ。

そう思ってはいるけれど――壊れた結果は元には戻らず。

そして。


「終わったんだな――?」

「…………あ?」


息巻く誰かがひとり。

聞きおぼえがある。

そう。

知らぬ者ではない。新たに入ってきたわけでもない。

なのに、なのに思い出せない。

記憶が混濁している。

戦闘のせいか、あるいは魔力枯渇のせいか?

どのみち、同じことだ。

誰だ? 誰なんだこいつは――。

色々な――、明暗様々な色が蠢くようだった。

それらが混ざり合って浜野に溶け込んでゆく。

処理しきれずに。浜野は頭を抱えた。

その図は、傍から見れば、


目を抑えたようでしかない。


そこから、もれた。

まるで何かにおかされたかのように。

目を抑えたその手の隙間から。

――ひかりが、もれた。


気もつかぬ。

昂った精神の前には、些細なことだったか。

目がひかったことも。

腹の穴がとじていることも。


目の前にいるのが勇者であるというくらいしか。

それ以外には、なにも知らぬ邪者は。


「俺はやるぜ。おまえを――潰す!」


勢いづきながら、駆けだしてゆく。

もはやどちらが勇者か。


駆けだす誰か。

その名も知らぬままに。思い出せぬままに。

浜野は手を突きだした。

まるでそれを拒むように。

――なにも捉えていないその瞳が、拒むかのように。


「力の残滓も残ってやがらねえようなそんな腑抜けたてめえに何ができる!」


勢いは衰えない。構わず、進む。

邪者は進み続ける。

――そこが、現世と冥界の境界とも知らず。

勇者をうちたおすと、自らが覇者だと、信じて疑わず。


突き出された手を、ユウマが振り払おうとした瞬間に。

彼は弾丸の如く大気を切り裂いた。

その距離、数十センチ。ほぼ垂直に射出し、すぐに地面に衝突する。

轟音が響く。骨が、臓器がやられた音がした。

――――――――もうたすからないだろう。


そのときだった。

骸が一。

……その身を起こす。


「……?」


まるで、眠っていただけ。

睡眠から身を解き放つかのように、骸は起き上がる。

あれは――魔帝だったか。


やはり浜野にはわからない。

何が起こっているのか。何を意味しているのか。

もしかすると、脳が疲労にる幻覚か?

思考回路を正常化するために、軽く頭を振ると。


骸が二。

たっている。


「ばかな……」


おもわず、後ずさる。

なんなのだ。

こちらは動く気力すら、残っていないのだぞ。

落とした剣を拾い上げた。

聖剣の残りの魔力で、少しだけ治癒された気がする。


「――わたしは言った」


目の前にそびえる骸のひとり。

それが。確かに声を発す。

目には力が宿り、心には魂が宿る。

まるで、本当に、生きているかのよう。

だからこそ、浜野は理解できない。

まるで、五体満足の生者のように動き、話す死者の姿が。


「わたしは魔帝エリトルニア」


二度目の自己紹介など要らねえよ。

浜野は心中で吐き捨てるが。

大体理解してきた。

何を意味するかは分からないけれど――。

何が起きているのかは、理解してきた。


戦いの(キズ)が痛む。

まるで身体が戦を拒むかのように、痛み続ける。

対し。聖剣は明滅した。

残り僅かの力で、浜野を鼓舞するかのように、魔力を放ち続けた。


それをみて魔帝は――微笑んだ。


ゾッとする。

この期に及んで。この状況で微笑むからではない。

もはや浜野には、それが死者か生者か、区別すらつかなかった。

その、得体の知れなさにゾッとしたのだ。


「わたしは――亡者を統べるものだ、勇者よ。

時空魔法師も、勇者であった邪者も。死せば関係ない。

傀儡くぐつとは言わぬが、我のものだ。」


形勢逆転、絶体絶命。

勝てるはずがない。

共闘ですらあのざまだ、

悪夢にすらなり得ない。

こんなものは夢でない。

ただの静かな、虐殺だ。


「あたりまえさ。

きみがどれほど強いかは、我がいちばん知っている。

なにせ、そのための計略だ」


なにをはかった、と、叫びたかった。

しかし、絶望の前に、声はのまれてしまう。

いくら吠えようと――吠えられぬ。

声帯など初めから無かったかのよう。

声の出し方も思い出せないほどの重圧。

勇者の悲鳴は誰にも聞こえない――。


「はじめよう」


待っていたかのようだ。

最後、全界随一の時空魔法師が。

最後のひとりが、合図で立ち上がる。


味方などもういない。

正義など在り得ない。

制裁など為し得ない。

むしろ――

勇者は今、制裁される側へとまわる。

三対一、全ての決着の戦いが、

――ここで絶望的な戦いが、始まる。

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