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2-1 愚者の祈り

「着いたね」


浜野は外套を脱いだ。聖剣を抜剣し、ゆっくりと歩を進める。

中は――『賢者遺跡』の中は、特に何もないようだ。

一本道をそのまま二人で進んでゆく。


やがて、開けたところに出た。


そこにはふたつのものがある。

まず、大きな石碑が一つ。


そして。

――邪なる剣を掲げし者が、ひとり。


「おいおい、何だぁ、てめえは」


発したのは彼だ。


ただならぬ雰囲気。

どう考えたとしても、こいつは自分達の味方では――ない。


黒を基調としたその姿はまさに悪役か。

()の者は嗤う。


「君が勇者か。――名前負けしているようだが?」


「……ほざけッ!」


刹那、両者の姿が消えた。

一瞬遅れて、それは石碑の真横に具現する。


亜音速にもみえる移動速度に、衝撃波が吹き荒れる。

まだ剣は、重ならない。


「名乗ることを忘れていたね。僕はユウマ。


――勇者と対をなす人間さ。


つまりは悪か。


全てを黒に染め上げる絶対的な悪がそこにいると思うと、

いてもたってもいられない。


「そんな顔では思考がだだ漏れだ。

僕は少なくとも君を害する。


君にとっては、明確な悪だ。


――あくまで、君にとってはだけれど」


「どういうことだ」


「僕はそこの女とすべての勇者を潰す――ただそれだけだが。

悪というには十分すぎるだろう。


だけどね――僕にとっては君が悪。」


理由が見えないけれど。

やるしか、ないだろう。


のさばらせておくには、あまりにも危険な存在だ。


「互い、大義をもって。

さあ、はじめよう。――聖戦を」


ついに。剣が激突した。

遺跡ごと、空間が振動する。


剣撃によるものではない。

二者の覇気が、それを引き起こしている。


決して遅いわけではなかったが、それでも打ち合う速度は速くない。

まだ、準備運動(ウォーミングアップ)なのだろう、両者ともに、汗一つ浮かんではいない。


徐々に速度は上がってゆく。

もはや、空間の振動にとどまらない。

これは――世界自体が振動しているかのようだ。

メイは思わず、震えた。本能がこれを警戒している。


しかし邪剣も聖剣も掠り傷一つつきはしない。

理外の強度であることはわかっていても、驚かざるを得ないレベルだ。


「《不思議の刃》ァ――」


先手必勝の必殺技。刃は無数に具現化し、


「つまらないね」



浜野のそれは、斬って捨てられた。



「欲しがりだね――、僕も見せてあげよう、僕の力を。


――《邪悪の刃》」


漆黒の刃が浜野の腹を裂いた。

防げない。

内臓はやられていないが、出血が(おびただ)しい。

よろけながらも、何とか立ちあがる。


「いいや、終わりさ。

《全死の魔瞳》」


それはすべてを殺す悪夢の魔眼。

肉体でなく――精神から対象を破壊する。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


浜野は、崩れ落ちた。もう、壊れてしまった人形のようだ。


「安心しろ。それで死ぬ前に、止めを刺してやろう――」


ユウマの剣が妖しく光を宿す。その勝利を祝福せんとばかりだったが。


しかし、剣は弾け飛んだ。


浜野の聖剣か。


「な――」


「……《全視の魔瞳》を、予め発動させておいて助かったぜ。

《全死の魔瞳》が、魔力の小さい者しか殺せない……と知れてな」


聖剣はくすんでいる。


「まさか――」


「まさかさ。聖剣が内包する魔力の大半を費やすことで、おまえのそれを超えることは容易だ。

諸刃の剣ではあるけれど、こればかりは仕方がない」


「《真紅の黒剣》」


「効くわけが――って、お前、正気……か?」


自らに黒剣を発動させる。浜野の周囲を回転し、急速に黒化していく五本の剣。


そして、浜野の姿は、とけて消えた。

ユウマには見えていた。これはただの――高速移動だ。


浜野とユウマが密着したその瞬間、黒剣は二者を裂く。


「まさか――道連れ作戦ってヤツか?

弱者の手段だぜ……! そんなモノでやられる俺じゃあない!」


吼えたユウマ。黙る浜野。


「――《生魂吸収(ドレイン)》」


「させっかよォ! ――――あァ?」


ユウマのその身体は一ミリたりとも動かない。


真紅の黒剣のせいだ。

しかし、ならばなぜ浜野は効いていない……?


「一体何が……! ふ、フレンドリファイア無効かッ?!」


「聖なる力だからな――勇者には効かない」


「道理で簡単に自爆するわけだ――、チッ……」


ユウマは指を軽く弾いた。それを合図に邪剣セルメアは共鳴する。

その形はまるで刀のようだ。大きさも一回り増す。


「第二形態ってヤツだなあ。

形態変化なんて弱く見えるが――

今回ばかりはそうはいかないようだしなあ……!」



威勢は良かったが、しかし。


アクションを起こすよりも前に。


唐突な静寂が現れた。

声も出せず、身動きもできない状況だ。

一体何が。


見ると――

石碑の上に浮かぶ存在が一つ。


豪奢な金色の司祭服を纏いし女は、


「そこまでだ、愚かな戦士どもよ」


透き通ったソプラノが、二者を罵倒した。


「なんだァ? 斬るぞ――」


ユウマの右腕は欠損した。

まぎれもない。

奴の斬撃だ――刃の性質をもったエネルギー波か?


「は――」


「黙りなさい。わたしは、魔帝エリトルニア。ここは占拠させてもらう」


「そんなことさせるわけが……!」


浜野を無視し、右手をあげたとき。

底から亡者の群れが湧く。


「まさかこいつ――」


「しゃくだが、共闘だッ。 利害も一致してんだろ!」


ユウマの提案を呑まざるを得ない。そういう状況だ。


「《漆黒の波動》」


ユウマを中心として扇状に黒波が広がっていく。


一撃必浄。一撃必殺。


亡者の群れは急速に数を減らす。


「俺がアイツをやる――、足止めは任せたぞ」


「誰に物を言ってやがる! とっとと行け!」



二者が相対する。


「空中戦、お得意ですか?」


「抜かせ、聖剣さえあれば飛行など容易い」


壁を蹴り、石碑を足場にして、飛行せずとも浜野は魔帝に互角だった。

剣撃を続けるうちに、魔帝の動きは落ちていく。


「へばってんのか――っ」


浜野の斬撃が直撃して、壁にクレーターをつくりあげるが。

魔帝は立ち上がる。


その姿こそ、血に塗れた亡者のようだ。


「……気味が悪い」


しかし、復活する度に強くなっている。はやく、止めを刺さねばならない。


「《不思議の刃》」


それは、命を刈り取った。


――かに見えた。


「私は亡者の王だ――そんなもの効きはしない!」


息巻く魔帝だったが。



動いたのは、彼女だった。

静かに、詠唱していたか。


「《次元の落穴》」


一撃――、たったの一撃で、魔帝を葬り去る。

これにはユウマも浜野も目を見開いた。


しかし、それだけでは終わらない。


「全ては整った」


この声はメイか。何が、整った――?


「――メイ?」


「全ての勇者、聖剣、邪剣を生贄に」


「何を言っているんだ……?」


浜野にはわからない。何が起きているのか。


「破滅の儀式を始めよう」


――そして。誰が、何をしようとしているのか。

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