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1-2 幻獣を越えて

「流石は、神話上の獣。風格が違うか」

「生きている歳が違うからな。だが、主も悪くはない。かなり強いとみるが」


浜野の言葉にやや気を良くする八足獣。しかし、殺気を放ったままだ。


「だが、通してもらう。俺には、しなければならないことがあるから」


浜野は横目でメイを見た。彼女も、また酸欠を起こしている。

召喚者も巻き添えになってしまうようだ。ならばなおさら、急がねばならない。


「構わんよ」


八足獣の一言は、浜野を混乱させた。

ダンジョンの最深部にいる王を、守らなければならないはずではないのか。


その疑問を見透かして、八足獣は言う。


「我はこの迷宮の魔物ではないからな。王を守る義務などない」


浜野は微かに安堵した。けれど、浜野の思い描いた未来は、否定される。


「だがな、キミは特別強い。一戦交えさせてもらうぞ。

なに、命はとらぬさ」


それすらも躊躇われた。何しろ相手は、並みの冒険者など覇気だけで倒してしまう化け物だ。


「仕方ない。口では止めてくれそうにもない」


浜野は、


――不意に消えた。


「なッ?!」


虚を突かれた八足獣に瞬きの隙ができる。


当然それを、逃しはしない。


《不思議の刃》、自由自在に刃を放つ能力を発動させる。


だがしかし。高位の獣に対する術としては、あまりにも甘すぎたようだ。

獣は容易く刃を噛み砕いた。舞う破片は光の粒のようで、浜野には落ちる瞬間が永遠のように感じられた。


地面に片が接触した瞬間、世界はまた動きだす。


「なるほどのう……ここまで容易に来れたのだろうな。

だが、我を倒すには」


獣は一拍空けて、息を吸い込んだ。


「早すぎたようだ」


迸る光の束が貫く。血は流れなかった。

浜野は獣の後ろにいた。


獣にはあたかも瞬間移動したかのように映ってみえた。得体の知れなさが、おぞましい。


「寄るなァァ!!」


絶叫とともに鉤爪で浜野を切り裂こうとする。

しかしそれも、容易に避けられた。


「ステータスだけはお前を上回っていて助かったよ」


そして言う。


「提案だ、ここは休戦としないか」



獣は動揺した。

だが、今の自分ではこいつに敵わないことはもう、知っていた。

自分は知性ある気高き幻獣なのだ。むざむざ死んでたまるものか。

獣は、仕方なくといった風に、その提案をのんだ。


「お前にも、よっぽどの何かがあるようだしな」


「気づかれたか。まあいい。次に会う時には、命はないと思え」


互いにとって互いが脅威であった。互いが、心中で安堵した。


緊急事態を回避した浜野は、さらに奥へと進んでいく。

特筆すべきようなことは何もなく、着いた。


「いよいよここが」


待ち焦がれた


「――魔王の間」


扉を開けた。以前の戦いがフラッシュバックする。景色も、ほぼ同じだ。


「待っていたぞ」


ただ一言。しかし一言なのに、とても重い。威厳を感じるような声だった。

浜野と聖剣を一瞥すると、目を閉じた。


明らかな違和感に浜野は顔をしかめる。


「何か、俺に隠していないか」


魔王にも、メイにも、聞いていた。

しかし、返答はなかった。


「どんな理由があるのかは知らねえ、だが俺は俺が生きるためにお前を倒す」


抜剣した。この魔王は、前回より高位だ。見ただけで分かるのだから、相当な差があるのだろう。

油断はならない。


初手は《不思議の刃》だ。しかし、予想していた通り体内には生成できず、外では防がれてしまう。

奥の手は一つ。《真紅の黒剣》。


この技の名前の意味には謎が詰まっているけれど。使って初めて彼は知ったのだ。


「一撃だ。さあ、くらいやがれ!」


発動させた。黒の剣が四本出現し、獣を囲む。

王は戸惑う。一撃、で勝負をつけるつもりか。こいつは、優劣を理解していないのか?


「何の真似だ。対物理耐性などあまりあるのに、それで我を倒そうなど、百年早いぞ」


「さあな、どうかな?」


剣は高速で自転し始める。やがて、王が違和感に気づく。

なんだ、これは。剣の黒に赤が混ざりつつある。

曲芸か? ――それはない。奴にそんな余裕があるはずがない。

魔力か? ――これもない。魔力なら、必ず透明度が存在する。

じゃあ、眼前のこれは何だ。まるで、つかめない。


つかめないのだ。最適化された王の思考に、雑音ノイズが入り混じり、正体を暴くことができずにいるのだ。ようやくつかんだぞ、これは――。


「我が血かァァ――!!」


獰猛に叫んだ。疎い浜野ですらわかるほどに。王は怒り狂っている。


「正解だがな! お前にはもう、どうすることもできやしない!」


フラグではない。技を一度発動させてしまえば、こちらのモノだ。


「この程度で我が負かされると! そう思ったのならばッ! 貴様の負けだ、小僧ォォォォ!」


何が起ころうとしているのか、浜野にはさっぱり分かりはしない。けれど明らかにまずい状況だ。打開策がなければ、戦況をひっくり返されてしまうほどに。そう直感が告げている。


終末の咆哮砲エンドブラスター


落ち着きを取り戻し。王は静かに言い放った。

まるで獣が放つようだが、それにしても不気味な名だ。

それはまるで、道連れを現しているかのようで。けれど、逃れてみせる。

まだしなければならない事が残っているんだ。浜野は拳を握りしめた。


咆哮と同時、白に青の線が混じった光の束が、ブレスが、発射された。

それは、ただの吐息攻撃ブレスにしては凶悪すぎた。触れたものを、塵ですら残さず、無に帰す。浜野の姿はない。王は勝利を確信していた。

ついにしとめてやったとほくそ笑む。今まで相手にしたどれよりも強かったけれど。それでもブレスの前には敵わなかったようだ。そしてこの攻撃には生魂吸収ドレイン効果が付加されている。


一人勝ち、だ。

満足げに、王はその方向――既に亡き、浜野のいた方向を、横目で眺めた。

意識が薄れる。激戦だったからか体のだるさがどっと襲う。

――王は恐れた。なぜだ。生魂吸収ならば、疲労も回復できるはずなのに。なぜ、疲れている?

意識が薄れたのは、己が、死にかけているからだとでも言うのか?

まさか。そんなことがあるわけがない。現に奴は、無と化しているのだから。

ほら。そう思い、また件の方向を見て。


「馬鹿な――なぜだァ!!」


悠然と佇む浜野の姿を確認して。王は吠えた。


「なぜだ。あれを、かわすことができたというのか。なぜだ、なぜ……」


浜野は溜め息を一つ吐いた。興味がないと言いたげなその行いに、王は激怒する。


「タネは知らぬが、もう一発放てば、おしまいだ」


王を完全に無視して浜野は言う。


「それが何か、知っているか」


浜野の指差した先は、王の心臓。


「まさか――」


王はたじろぐ。先程の、技を。使うつもりなのか。


「強かったがな、これで終わりだ。悪夢は、いつか覚めるものなのさ。」


続けて、浜野は別れを言った。


「さようなら」と。


結果的に、《不思議の刃》は容易く王の身体を突き破って、それの死を主張した。おそらく、もう力が残っていなかったのだろう王では、いくら高位であったとして防げなかったのだ。しかしそれは、技を使わずに勝てたということではない。聖剣の直接攻撃よりさらに殺傷性に優れたこの技あってこそのこの結果だ。瀕死とはいえ高位の魔王である。浜野が負けていても何らおかしいことではない。


緊張と激しい体の酷使のせいか、汗にまみれた顔を拭う。

思えば最近、まともな休養をとっていなかった。このまま戦い続けるなら、心身ともに間違いなく壊れてしまうだろう。だが、倒し続けなければならないという背反。


これを解決するためには、全てを明らかにしなければならない。


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