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めんへる 骸なる星 珠たる子  作者: めんへら
3/6

能あるヘタレは爪を隠す

「あれ、ない?」

 放課後、玲奈の教室に移動しようとしていたオレは、例の万年筆がなくなっていることに気づいた。鞄をひっくり返して調べるが、どこからも出てこない。

「おい篠崎、探し物はこれか?」

 嘲笑う声に振り向くと、茶髪ピアスにカスタム制服の三人連れがニタニタこっちを見ている。こいつらは三年の、所謂DQN連中だ。一人の手に万年筆がある。どうやらこいつらが、玲奈のプレゼントをオレの鞄から盗んだらしい。

「そ、そうだよ、オレのだ。返してくれよ!」

 ことさらおずおずと俺が手を伸ばすと、からかうよう手を遠ざけて、

「亀山さんが、天王寺の件でおめえにご用だよ色男。ちいと屋上までツラかせや」

 亀山というのはこの学校をシキっている、まあお山の大将さんだ。高校生でK政会の事務所に出入りして、それが自慢でここらのおサルさんに大きな顔しているという、まあボンクラだな。そういや何かと玲奈に色目を使っていた。

「なあ、頼むよ。勘弁してくれ」

「うるせえカス。逃げたりチクったら二度とこいつは戻ってこねえぜ」

わざと動揺した調子で哀願して、やる気を削ごうとするが、無駄らしい。ふう、カッタルイ事が起きたな、美也の件で悩んでいるのに。なんでこんなつまんねー事に患わねばならないのだろう?とはいえ、玲奈のプレゼントを盗まれては看過できない。騒ぎ出した周りの女子連の目がある。オレは引きずられるよう弱弱しくついていくことに決めた。

 屋上に出ると、十人ばかり待っていた。といっても、一年や二年の奴ばかりだから、オレのことを見くびっているらしく、〆られるのを高みの見物が殆どらしい。亀山の要求というのが単純で、玲奈と別れろってことだった。亀山は全部眉毛を剃った、今人を殺してきたばかりのような顔で、シケモクを吐き吐き言い放つ。

「あの女はオレが狙ってたんだ。おめえみてえなクズにもったいねえ。譲れや。そうすりゃフクロだけは勘弁してやる」

「嫌だね」

 零コンマ五秒で即答したオレにあたりは水を打ったように静まった。それから五秒ほどであたりが沸騰する。本当に分かりやすい。

「てめえ誰に口きいてんだクルァ!!」

「チンピラのパシリになって喜んでる、サルの大将亀山さんだと愚考しますが、何か?」

 亀山君はぱくぱくと金魚のように喘いでいる。他のものも二の句が継げない。こんな奴に頭を下げる気は毛頭ないが、せっかくヘタレで通っているのに妙な評判がたつのはご免だ。怒らせるだけ怒らせて適当に殴られたふりして帰ろう。こいつらの拳なんて全然足が地面を蹴れてないから、インパクトの瞬間少しずらせば何のダメージもない。

「上等だ。嬲り殺しにしてやるよ」

 亀山は万年筆を地面に叩きつけると、踏みつけた。メキっと嫌な音がして、万年筆は真ん中から折れた。さらに踏みにじり、粉々にする。

――予定変更。オレは久々に血の気が上ってくるのを感じていた。


「先輩、先輩っ」

 屋上から階段を降りたところで、血相を変えて玲奈が駆けつけて来た。息が上がりきっているのを見ると、一年の校舎から一息に駆けあがって来たらしい。

「先輩、ご無事ですかっ?私、先輩のクラスの人が教えてくれて、気が変になりそうで」

 玲奈は血まみれのオレを見て勘違いしたらしい。

「ごめんなさい、ごめんなさいっ」

 両手で顔を覆って泣き出してしまった。拳骨以外には小指の先も痛まないのだが、わざわざ誤解を解く必要も認められない。

「何で玲奈が謝るんだよ。いいんだ、オレはこれくらい平気だから。それよりごめんな、玲奈がくれた万年筆、壊されちゃったよ」

 その言葉を聞いて、顔を一瞬見上げると、今度はしゃくりあげるように泣き始める。オレはその肩を抱いて頭を撫でてやる。

「先輩、せんぱい……っ」

 しばらく震えていたが、きっとした顔で、

「先輩、今救急車呼びますね!」

「待てよ。救急車は必要といえば必要なんだが、オレは平気だよ。ほんと」

 携帯を取ったまま意味を測りかねる様子の玲奈だったが、オレが譲らないのを見て「では、お父様のところで診てもらって下さい!」とやはり頑として妥協しなかった。S病院は精神科とはいえ、24時間救急対応で、内科や外科の医者もいるから、手当を受けて欲しいという。拒否すると玲奈が倒れそうな勢いだ。こうしてオレはS病院を初受診することになる。


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