17章・道化と義妹
――パチッ……パチッ……。
ガス欠寸前のライターが火花を幾度無く鳴らすような、そんな音が連続して響き続ける。
視界全体を真っ赤に染め上げる赤の炎が、ゆらゆらとなびいている。
窓を締め切った密封空間であるからか、炎の勢いがこれ以上増す様子はない。
――が、それは同時に、炎によって刻一刻と失われていく酸素がこれ以上増えることはない、という窮地をも示していた。
「――ケホッ……無事か?シルヴィア、沢代さん……?」
ガラッ、と俺の上に乗っていたコンクリートの破片を軽く払い立ち上がり、すぐ近くにいるはずのシルヴィアと沢代を探す。
俺達の頭上――恐らく、天井に張り付いていた爆弾は、大音声を上げながら天井のコンクリートを砕き、同時に大量の火の粉を振り撒き、たちまちその火が周りの木材、布材に燃え移り、一瞬にして辺りを火の海にした。
辛うじて石片の落下地点から逃げることができたのはいいものの、爆風に吹き飛ばされ、その勢いで壁にたたき付けられる形になってしまった。
背中に激痛が走る。骨が折れてしまったような感覚はないが、それでも痛いことには変わりない。
吸血鬼の驚異的な治癒力が働いているお陰か、すぐに動ける程度には回復する。おかげで、周りを見渡す余裕が生まれる。 …が、根本的に体力を相当消耗している状態だ。さっき長い間会話をして体を休ませていたお陰か、『刻底』一発ぐらいなら撃てそうな余裕はあるが、限界に近いことには変わりない。
「……ワイは大丈夫やで、カミやんは、無事みたいやな」
「あぁ…」
沢代の声がすぐ横から聞こえる。視線を右にずらすと、拳大の石を掴んでは放り投げる沢代の姿が見えた。そして、その下には――。
「――シルヴィアッ!?」
苦痛に顔を歪め、息も絶え絶えに横たわるシルヴィアがいた。
よく見ると、その足は巨大なコンクリートの塊の下に押し潰されており、身動きが取れない状態にあるようだ。
徐々に、シルヴィアの周りに火の手が迫ってゆく。
「待ってろ、今助けるッ!!沢代さん、手伝ってくれ!!」
「言われんでもやっとるわ!!」
急いでシルヴィアの元に駆け寄り、沢代と協力して、巨大な石片を持ち上げ、どける。
吸血鬼にも劣らない力を持つ感染者が二人がかりならば、この程度の石片は、簡単にどけることができた。
だが、問題はそこではなかった。
さきほどのコンクリート、そこから飛び出た鉄の棒が、無惨にも彼女の両足を貫通していたようなのだ。太股、膝、ふくらはぎに合計3個ずつ、直径3センチメートルほどの大穴が開いていた。
流血が、滝のように流れ出る。その流血は、少しずつ収まっているように見えた。……が、それを見て安心した俺と、もう一人の反応はまるで違った。
「……まずいで……神経やら腱やらがイカレとる。すぐには治りそうになさそうや……」
足の様子を見ていた沢代は、深刻そうな表情で沿う言った。
――いや、実際深刻なのだろう。その証拠に、先程から、シルヴィアが自分の足を動かして、立ち上がる気配が全くない。
その様子を見て、俺はようやく事態の深刻さを理解した。
いくら吸血鬼とはいえ、内臓器官、神経系などの破損・欠損に対する高速修復能力は持ち合わせていない…あるいは持っていたとしても、すぐに治るようなものではないのだ。
それも当然のことだろう。本来、戦いにおいて負う傷など、表面的なものに過ぎない。その傷すら治れば、すぐに戦闘は続行可能。吸血鬼は、そういった形態にあわせて、進化をしてきたのだ。
沢代はシルヴィアを抱え上げ、こちらに振り向き直る。
「……しゃーないな。カミやん、姐御を連れて、すぐにここを出るで。鏡士郎のところに連れていけば、適切な処置を――」
「――はぁーい、ざぁーんねぇーんでしたぁ〜!テメェらがここから出ることなんざぁ、不可能なんだよぉ!!」
俺と沢代、二人の背中に悪寒が走る。
脳裏を過ぎる、粘っこい男の声、締まりの無い話し方……昨夜、これと同じ話し方をする人間――いや、『感染者』に、俺は遭遇した。
「一日ぶりぃ〜……だっけかぁ?わりぃなぁ、長い間生きてるとよぉ、記憶力も曖昧になってくんのよなぁ」
背後――唯一炎に取り囲まれ、空間が出来上がっていた場所、そこに、奴はいた。
悪趣味な黄色のピエロの服、真っ赤に染め上げられた付け鼻や白色に塗りたくられた顔面等のペイント――そして、両手に握られた、血のこびりついたククリ刀。
「…ジョン……ゲイシー………」
『殺人道化』、ジョン=ゲイシー。やつは歪みきった醜い笑いを浮かべ、濁りきった目でこちらを見つめていた。
*
「嘘……もう火がここまで回ってる……!」
ユリア、臨の二人は、先程の廃ビル――『紅凶熊』の本拠地の入り口まで来ていた……が、既にエントランスの中は赤に包まれており、ドアから先に一歩も踏み出せない状況下にあった。
行く途中で119番通報はしておいたから、しばらくすれば消防車が来るはずなのだが――ユリアには、それを待つ余裕も気力も無かった。
「――これじゃ、上に行けそうにないね、お姉ちゃん」
「…え…あ…うん、そうだけど………何とかして、上に行かないと……」
だが通路は火の海、階段の中も、恐らくは通れる状況ではないだろう。まだ隣のビル郡に火が燃え移っていないことが不思議なくらいに、建物内部の火の回りは早かった。
生憎、ユリアのジャケットは防火製では無く、こう言った火災現場に置ける対処法を知る消防隊員でも無ければ、ここらの施設に都合よくガスマスク・酸素ボンベがあるわけでもない。道具・経験双方において、ユリアはこの現場では役立たずとしか言いようがないのだ。
「……何とか……何とかしないと………遼が…………」
事態は一刻を争う。
だというのに、何もできずにいる自分が情けない。
何をすべきなのか、何をしたらいいのか……先程から頭を巡る考えに、変化はまるで生じない。
炎の勢いは、留まることを知らない。このままではいずれ、このエントランスにいることすらも難しくなるだろう。
火の熱で爆ぜた石片が、ユリアの頬を擦過していく。
熱さも痛みも感じない――いや、考えられない。
(……人の身であることがもどかしい……。もし、あたしが火にも耐えられるような存在だったら、今すぐ遼を助けに行けるのに……)
「――行けるよお姉ちゃん、臨なら」
「――え?」
一瞬、時が止まったような感覚がユリアの体を走った。
――自分は、考え事を口にしていたのか……などと、思う間もなかった。
『行ける』?この炎の中を?
――無茶だよ、とユリアが言い返す間もなく…。
「――だって臨、『ひと』じゃないもん」
――この子は何を言っているんだろう、と思うか、今は真面目な話をしてるんだよ、と注意するか。普段の冷静なユリアなら、どちらの選択肢を選んでいただろうか。少なくとも、その話を大真面目に聞くことだけは無いだろうと思う。
だが、今のユリアには、この話が冗談には聞こえなかった。
もう、すがるものが無いからなのか、よくは分からない。
だから、ユリアは――
「任せても……いいの?」
「――うん、だいじょぶ!まかせて、おねえちゃん!」
気づけば彼女は、最初に出会ったときの様な、純粋無垢な少女の表情に戻っていた。
この彼女が本当の彼女なのか、それとも、あのもう一つの顔こそが本当の彼女なのか分からない。
――だが、それで遼が救えるなら――
炎の中へ消えていく影を目で追いながら、ユリアは友の無事を願っていた。
*
「……沢代さん、シルヴィアを連れてここから脱出してくれ」
すぐ右にいる沢代に耳打ちする。
「…ワイは構わへんけど、それじゃカミやんは――」
心配そんな顔をする沢代に、心配すんな、と返してやる
「……アイツ――ジョン=ゲイシーは、俺が狙いのはずだ。なら俺がここに残って囮になれば、シルヴィアとアンタは助かるはずだ。……俺の事は……大丈夫だ、気にすんな」
本当は、全然大丈夫なんかじゃない。
肩も上がらなければ足も動かない。オマケに慣れない灼熱地獄の中にいるせいで、体力も大分減ってきている。
……だが、それでも。三人とも死ぬよりは、二人助かって一人死ぬ方が何倍もマシだ。小学生にだって分かる。
迷いを振り払うが如く、ベルトに差した鞘から、銀白色に輝くナイフを勢い良く引き抜く。
シャラァ、と滑らかな金属の摩擦音が、閉じられた空間に鳴り響く。
淡い紫を帯びた刀身に、揺らめく赤色の炎の光が映る。
「行ってくれ沢代さん!今、シルヴィアを抱えて脱出できるのはアンタだけだ!頼む!」
焦燥感に駆られ、声を張り上げる。背中越しに、自らの意志と決意を伝えんとする。
──一拍置いて、声が背中越しに返ってきた。
「……一応、無事は祈っとっといてやるわ。……死ぬなよ、カミやん…」
「……男に祈られても気持ち悪いだけだっつーの。……変帰ったら、コーヒー奢ってくれよ。約束なんて、そんなもんでいいからさ」
ククッと、沢代の笑う声が響く。
「……しゃーない、一番安いやつしか買ってやらへんからな?」
俺も沢代に合わせ、苦笑して返す。
「何でもいいよ。貧乏浪人生には、そんなもんでも身を削る思いで飲まなきゃいけないんだからな」
「そりゃ無職のワイにも言えることやで。……ほんじゃ、また後で、な」
「……あぁ」
最後の応答の後、足音が階段の方に遠ざかっていったのを聞いた、次の瞬間には、俺は気を引き締め直し、再び戦闘態勢に意識を移行した。
今まで俺と沢代のやり取りをつまらなさそうに見ていたジョン=ゲイシーも、俺の目の色の変わり様を見て、態度を変えた。
「……おぉ?やっとやる気になったかぁ?」
ニタァ、と顔を歪めたジョン=ゲイシーが、シマ柄のズボンの中から何かを取り出した。
ズボンの中から出てきたソレは、刀身が大きく湾曲し、切っ先が歪んで、何かを叩き潰すかのような奇妙なかたちをしていた。
形には見覚えがある。東洋の刀剣の一種、ククリ刀だ。──だが問題はそこではない。
その刀身は、根元に残る僅かな銀色を除いて、全てが血に錆び、赤黒く染まっていた。
ヤツは自らの得物を構え、その切っ先を俺の方へと向けてきた。
「……ッ!!」
思わず後ずさる。奴が一体これまでに何人……いや何十人もの人間を手に掛けてきたのか、その血に汚れたナイフだけでは窺い知ることができない。
本能的な恐怖が、俺の足を竦ませているのが分かる。───が、しかし、今回ばかりは、ビビって突っ立っているだけでは駄目なんだ。
──ここで逃げても、何も始まらない、何も変えられない!
声を絞り出し、腹に力を入れ、声に勢いを乗せ、覚悟を言葉に示し、張り上げる。
「……やってやる、勝ってやるよテメェに!……行くぜ殺人ピエロ!手加減はしねぇぞ!」
「ヒャハハハハァ!せいぜい楽しましてくれよぉ……なぁ!?神谷 遼よぉ!!」
二つの雄叫びが、炎のはぜる音をもかき消して、狭い部屋の中に鳴り響いた。
*
在人はただ走っていた。服が、肌が、熱され、焼かれ、焦がされても。もともと鈍かった痛覚が、感染者化の影響で更鈍感になっているため、大した障害にはならない。
時折苦痛に顔を歪めるシルヴィアのことを気遣いなから、火をなるべく避けて階段を駆け降りる。そうなると火の中を突っ切ることができないため、遠回りをして火と火の間をかいくぐらないとならない。
「ッ!!」
「!?大丈夫か、姉御!!」
飛び散った火の粉が、シルヴィアの顔に弾けたのか、在人は気になって立ち止まる。
……だが、シルヴィアが火傷を負っている様子はないようだった。
「……う……ん…?…ここ……は……?」
「目ェ覚ましたか、姉御」
虚ろに目を瞬かせるシルヴィアは、辺りを見回し、在人の存在に気づき、状況が未だ飲めずにいるという顔をした。
「在人……?私は……何を……」
「……爆破されたみたいや。恐らく……ちゅうか確実に、『|切り裂きジャック(ジャック=ザ=リッパー)』の一味にな」
「──そうだ!遼!遼はどうしたのだ!?一緒ではないのか!?」
「うわっ……ちっ、と!落ち着きや、姉御!」
シルヴィアが突然じたばたと暴れ出したため、バランスを崩しかけ、火の中にダイブしかけた。
「あっ、危なっ!!もう少しで焼き吸血鬼と焼き感染者のセットになるところだったやんけ!!ワイは黒こげはゴメンやで!」
「冗談はいいっ!!遼はどこだ、在人!」
シルヴィアの目から、いつもの余裕と冷静さが消え失せている。その奥に浮かぶのは、焦燥感のみ。
彼女に雇われ、彼女の眷族として契約を交わしてから既に2年の時が過ぎようとしている。……だが、今日の今日まで、彼女がここまで取り乱した様子を見たことがない。
──彼女の過去についてはほとんど聞かされていないため、在人が自分の雇い主について知っている情報など雀の涙ほどしかない。──だが、ここまではっきりとした反応を見れば、人の感情に疎い在人でもすぐに分かる。
──なんかあったんかいな、カミやんと、過去に──
「答えろ在人っ!遼は……遼はどこに──うぐっ!?」
シルヴィアが全てを言い終わる前に、在人は、彼女の意識を奪い去った。
いくら吸血鬼であったとしても、脊髄に多大な負荷がかかれば、人同様に気絶する。在人がシルヴィアの首に手刀を当てたのもそれか目的だ。
「──カミやんが姉御の何なのかは聞きやしません。せやけども、今の姉御を行かせてやれるほど、ワイも放任主義やないんや。──ちぃっと眠っててくださいや、姉御。アイツの決意、汚さんといてくれや」
ぐったりとなったシルヴィアが何を答える、というわけでもなかった。しかし、もしシルヴィアに意識があったならば、動かぬ足を引きずってでも遼を助けに戻るだろう。
──在人も、内心ではそうしたかった。一度拳を交えたからこそ分かる。素直ではないかもしれないが、仲間思いで優しいやつなのだ、遼は。
そんなやつには、在人としても生きていて欲しい。だが、はっきり言って、この選択が一番正しいのだ。
弱いやつが犠牲になり、強いやつが生き残る。こちら側の陣営にとって、純血の吸血鬼であるシルヴィアは、『|切り裂きジャック(ジャック=ザ=リッパー)』に対抗しうる、言わば切り札なのだ。在人や遼などの、いくらでも代えがきく人間上がりの感染者の無事など、二の次以外の何でもない。
遼も、そのことを十分理解していたのだろう。手負いの自分が、一番捨て駒として、最適な存在である、ということを。
「………クソったれ。何でそんなに簡単に、自分を犠牲にするなんて言えるんや。死ぬのが怖ないんかい……」
炎の壁をかわしながら、一段、また一段と階段を駆け下りていく、その途中で、考え事が表に出た、その瞬間──
──ガラリ、と巨大な音を立て、頭上の階段を形作る石片が、巨大な炎を纏って落下してきた。
「クソった──」
れ、と最後まで言い掛けて、在人は自分が置かれている状況を思い出した。
今の在人の腕の中には、巨大なお荷物が抱きかかえられている。そんな状態では、腕を動かせるはずもない。
「しまっ───」
た、と言うにも遅すぎた。何もできずに、ただ突っ立っていることしか出来ない──はずだったのだが。
「おにいちゃんっ!!ふせて!」
前方の──階段の下の段の方から飛び出てきた小さな影が、在人の頭上を横切り──
──そして、落ちてきたコンクリート片を、見事に粉砕してしまったのだ。
「あだっ!?」
──破片のいくつかが、顔面に直撃したりはしたが。
「……っつ~~…って、臨!?お前何でこんなところにいるんや!?」
クラクラする頭を、シルヴィアを片手で抱きかかえることで空いた左手でさすりながら、目の前に現れた沢代 臨の姿に仰天していた。
それもそのはず、臨が在人に指示されていたことは、『神谷 遼に同行者がいた場合、その者がこの一件に関わらないように監視、及び護衛をすること』なのだから。
「おにいちゃんっ!たすけにきたよっ!」
──兄の気も知らずに、外見年齢12歳の妹は無邪気にそう言う。
「……あのなぁ。ワイが言ったこと、ちゃんと覚えとんのか?あの子……神谷 遼の同行者はどないしたんや?」
「したでまってるよ?」
「アホかっ!!あの子吸血鬼のこと何も知らへんのやで!?それなのにこんな所連れてきて何するつもりや!?」
「……一々うるせぇよ、馬鹿兄貴」
臨の口調が突然変化し、ドスの聞いた低い声になる。
──いや、被っていた化けの皮を剥いだ、と言うべきだろうか。
この男勝りの口調こそが、臨本来の話し方であり、彼女にとっての自然体なのである。
彼女は、在人と血が繋がっているわけではない。捨てられていた彼女を、数年前に在人が拾ったのだ。
そして彼女は、人間でもない。彼女は、純粋な吸血鬼なのだ。
シルヴィアのように特別な因子が宿っているわけではないが、在人や遼のような、後天的に吸血鬼の力を手に入れた感染者でもない。生まれつきの吸血鬼なのだ。
だから彼女は、見た目以上に長く生きているのである(既に20年近くは生きているらしい)。ちなみに同じ吸血鬼でも成長には個人差があるらしく、シルヴィアと臨は殆ど同い年ぐらいらしい。
「……兄貴はのほほんとしてたから分からなかったかもしれねぇけど、|あのクソピエロ(ジョン=ゲイシー)、ずっとチャンスをうかがってたみたいだった。……だからアタシは、『もっと襲撃に対する備えを万全にしておいた方がいい』って言ったのに……」
軽くすねたような表情をする臨に、在人は少し慌てる。
「そ、それはスマンかった。謝る!」
最近気付いたことなのだが、悲しいことに、純粋な吸血鬼である分、彼女の方が強いのだ。だから、在人としては、兄妹喧嘩だけは避けたい。
そんな在人の複雑な心境を知らないからか、臨はお構いなしに言葉を続けていく。
「……だいたい、兄貴は警戒心、ってものが無さすぎなんだって。そんなだから、こうも簡単に襲撃されたんだって。それに、いつもいつも───」
「だぁぁぁ!!それ以上は言わんといてくれや!ワイかて反省くらいしとるっちゅーに!!」
まだ物足りなげな臨の言葉を遮って、空いたその腕の中にシルヴィアを押しつける。
「ちょ………兄貴!?」
「姉御のことは任せる!すぐにでも病院…じゃなくつて、鏡さんのところまでつれていってくれや!頼んだで!!」
戸惑う臨を余所にして、再び階段わ駆け上がる。降りてきた時よりも火の勢いが強くなっている気がするが、迷ってなんかいられない。
2、3歩ほど進んだところで、臨が再び疑問を投げかけてくる。
「あ、兄貴はっ……一体何する気なの!?」
その問いに、在人は、堂々と答えた。
「決まってるやないか。もちろん──」
「──助けに行くんや。カミやんを!」