10章・和解と憂い
「――あれ?あいつら……どこに行ったんだ?」
ドジっ子ウェイトレス・椿をシバきたおした俺が、二時間ほど前に和也と大喧嘩をした席に戻ってみると、そこに和也と冴宮の姿は無く、別のお客が座っているようだった。
待っててくれ、なんて頼んでなかったから当然かもしれないが…それにしても薄情すぎやしないか?
というか、あいつら勉強しにここに来たはずだってのに……なんで昼越す前に帰るんだよ。普通は飯食って昼またいででもやるだろ。
……と、トイレの角から様子を窺いつつ、心の中で悶々としていると――
「あの…神谷 遼様でいらっしゃりますか?」
――なんとも申し訳なさそうな、哀れみを表情に浮かべたウェイトレスが、トレーを胸に抱いたまま俺に話し掛けてきた。
俺が顔を見ようとすると、トレーの後ろに顔を隠して俺に顔を見せようとしない。
…やめろ。そんな目で俺を見るな。俺は変人じゃない。知り合いがいるはずだから、探してるだけなんだ。
――と言っても、余計に変人扱いされかねないので、何も言えずにいると――
「――これ…土留田 和也様より、お客様に渡すよう言付けられたのですが……」
「……和也から?」
予想していなかった名前を見知らぬ人から聞いたので、少し驚いた。
ウェイトレスが持っている紙を受け取ろうとして、手を伸ばし、その紙を手にとると――
――サッ、と後ろに退かれた。
…だから俺は不審者じゃねぇっつーの。確かに、さっきの行動は怪しかったかも知れないけど。
深入りするとさらに変な目で見られそうな気がしたので、意識を手の上の紙に向け直す。
「…えっと……なになに……『これから『シスター☆メルきゅん』のDVD・初回限定盤を買いに行ってくるから、先に帰るぜ!美鈴ちゃんも親父さんに呼び出されたらしいから帰るって。だから、一人で勉強がんばれよ!(笑)』……」
……。
「…お客様のお連れの二方は、二時間ほど前にお会計を済まされまして、先にお帰りになられました」
「……それを先に言えよ……」
あいつらの薄情さと、このウェイトレスの言付けを言うタイミングの遅さに呆れて、もう全力でつっこむ気すら失せていた。
――――――――――――
「ご来店、ありがとうございました〜!」
「またのご来店をお待ちしておりま〜す!」
外を掃き掃除していた二人の店員さんは、明るく晴々とした作り笑顔を俺に向かって向けてくる。
それとは完全に対称的な俺の心中はものすごい曇天、大荒れ模様だ。
……なんというか、今日はもう疲れたな。
時刻はまだ11時前。日が暮れるまで、まだまだ時間がある。だというのに、無駄に体力を使い切ってしまったかのような疲労感が体中を満たしている。
――今日の日暮、午後9時。シルヴィアが言ったことが間違いでないのならば、今日、俺は夜の渋谷に『沢代』という人物に会いに行かなければならない。
アイツが何を思って、何の目的で俺をここに行かせようと思ったのかは分からないが…それでも、俺に戦う『力』を与えてようとしてくれている、それだけは分かる。
ならその思いに答えてやるのが当然、……なのだが、何分精神的に多大な負荷を与えられまくってしまったため、正直、その思いに応えられるかどうか怪しくなってきた。
…せめて、心安らぐものでもあればいいんだが……。
「……あれ……?もしかして……遼ッ!?」
「…は?」
突然名前を呼ばれ、進行方向と逆――『DOLL COFFEE』の入口の方を見遣ると――
……いましたよ。今一番会いたくない、俺の知り合いの中で多分一番関わると疲れるやつが……。
……なんでこのタイミングにこいつに会うんだよ……
「…ユリア……」
――――――――――――
「――ま、また来たんですか……?神谷さん……」
「…俺だって来るつもりなんて無かったよ……」
困惑する妹ウェイトレス・桜をよそに、俺とユリアはテーブル席に着く。
…今日はほんとに厄日だよ。
すぐにまた会うことも無いだろうと思ったから、昨日思いっきり掌底で気絶させたって言うのに……まさかその次の日にまた会うなんてよ。
こいつは刑事だ。掌底をかました…とか、幼なじみだから…とか抜きにしても、あまり関わりたくない職柄だ。
……でも、こいつの性格上、絶対関わってくるんだよな、こういう面倒事に……。『悪は罰せられるべき存在だ!』…とか、平気で口走りそうなやつだからな。
「何よ?あたしの顔をジロジロと見つめて……」
「…ジロジロとまでは見つめてないんだけどな…いや、なんか不機嫌そうだな…って思って……」
元々フグように顔をふくれさせていたのが、今の言葉を聞いて、さらにふくれさせてしまった。
怒らせたかな……でも、俺って女性の扱い方なんてよく分からないわけだし……。
「……と、とりあえず機嫌直せよユリア…な?」
…と、ふくれっ面の幼なじみをなだめようとしたのだが――
「…」
ダメだ。
さらに怒らせてしまったとしか言いようの無いほどに、頬をふくらましおった。もう俺にはどうしようもない。
「…」
「…」
…気まずい。それはもう激しいほどに。
こいつと喧嘩したことは数えるだけ無駄なほどであるが、ここまで気まずい喧嘩の仕方は今までに無かった。あっても、数分間の口喧嘩ぐらい。それ以上長引くことは無かった。
……理由は分かってる。…けど、それをこちらから切り出すわけにはいかない。切り出せば、さらにめんどくさいことになる。
…考えた結果、とりあえず謝るのが得策だという考えにたどり着く。
「えっ……と…………とりあえず、ゴメン。昨日、いきなり殴ったりして…………」
普段謝ることなんて滅多に無いため、言葉に詰まりながらも、とぎれとぎれに言葉を紡ぎだしていく。
……誠意が伝わったのかどうかは分からないが、ユリアの方もようやく反応を示したのだが――
「……他には?」
まだ謝れと言うのか、お前は。
「……何も話せなくてゴメン」
「他には?」
「……他には……」
「…」「……無い……とりあえず……ゴメン……」
「…………プッ…あははははっ!!」
「…は?」
何が起こったのか、よく分からなかった。
突然張り詰めていた緊張が切れ、ユリアが腹を抱えて笑いだしたのだ。
俺と桜はまるで状況が掴めず、ただキョトンとしているだけだった。その間も、ユリアは笑い続けていた。
数十秒後、ようやく笑うのを止めたユリアは、まだ余韻が残っていたのか、目に涙を含み、さっきのふて顔とは打って変わった満面の笑みを浮かべていた。
「…フフッ……相変わらず、自分が悪いと思ったら急にしおらしくなるトコ、変わってないわね、遼」
…最初から怒ってなどいなかったのだろうか……そう思わせるほどに、久しぶりに見たユリアの笑顔は、愛らしかった。
「……どうしたの?マジマジとあたしの顔なんて見つめて?」
「――っ!…な、なんでもねぇよ!」
焦ってサッと目を逸らす。徐々に、俺の顔が赤くなっているのが分かる。
『可愛かったから見つめてた』なんて、言えるわけがない。恥ずかしすぎる。
「と、とりあえず!さっさと注文しちまおうぜ!俺、アイスコーヒーと、ハバネロドッグなっ!」
「…え…あ、はいっ!あ、アイスコーヒーと、ハバネロドッグですね!承知しました!」
この煩わしい空気を何とか断ち切るために、とりあえず別の話題を振ったら、それを察してくれたのか、桜も俺に合わせてオーダーをとってくれた。
「あっ…と……じゃあ、あたしも同じのでお願いします」
「か、かしこまりました!しょ、少々お待ちくださいっ!」
あいつもこの空気が苦手だったのか、伝票をとるや否や、すぐさま厨房の奥へと引っ込んでいった。
……そして、また新たな壁にぶつかった。
…この、頼んだものが来るまでの手持ち無沙汰な、この微妙な間……。
一体、何を話して間を持たせれば良いのか、さっぱり分からない。
昔のこいつは病弱で家に引きこもりっぱなしだったので、俺の学校生活なんかを話してやるだけでとても喜んでいたものだった。
…しかし、今のこいつは立派な刑事。正直、東京という大都会に住んでおきながら行動範囲が塾と自宅とその他店数件の俺と違い、それはもう各地を走り回り、様々なことに出会っているだろう。
そんな今のユリアに、今の俺の引きこもり冒険記を紹介したところで、鼻であしらわれるのが目に見えている。
かといって、こいつが――別の言い方をすれば一般の女性が――どんな話題に食いつくのかということなど、自分でも情けないほどに女性との関わりを絶ってきた俺には、なおさら知る余地がない。
――などと色々試行錯誤していたのだが、それらは杞憂だったようで、ユリアの方から自然に話題を振って来てくれた。
「結局……さ……。遼は関わってるの…?……その……『切り裂き魔事件』に……」
――あまり気乗りする話題では無かったのだが。
いずれこいつも、この話はするつもりだったのだろう。…というより、職業柄、せざるを得ないだろう。
だが、俺も立場的に、この件のことを簡単に話すわけにもいかない、ということもまた事実であった。
「……」
「…まただんまり?……遼って…いつも大切なことは…あたしに話してくれないよね……」
「……」
それでも、話すことはできない。
別に、話したら俺に損ができるからではない。
――知れば、巻き込むことになる。あの血生臭い、死と隣り合わせの非日常の世界に。
「……」
「……そう、分かった。じゃあ、あたしもこれ以上は聞かないわ」
目を一旦逸らし、水を軽く飲み、コト、と軽くを音を鳴らして机に置き、改めてこちらを向き直る。
――ある種の決意を秘めた瞳で俺を見ながら――
「――でも最後に…一つだけ聞かせて。……あの夜、あの人を殺したのは……遼じゃ……無いんだよね……?」
「……あぁ。俺じゃない」
それだけは言えた。それだけは、話してもこいつが巻き込まれる心配はないと思ったからだ。
…それに、こいつがこの事件に積極的に関わろうとしているのは、俺が死体の近くにいたことが一番の原因なのではないかと推測できる。そうでなければ、こんな危なっかしい事件に新米であるはずのユリアが任されるはずがない。
なら、俺が殺人など犯していないと知れば、少しは前線から退く気にもなるはずだ。
「…………ふぅ〜、安心した〜……遼がもし殺人なんて犯してたら、もうどうしようもないぐらい落ち込んでたよ〜」
真剣な顔付きを止め、緊張感の無いだらけた顔になり、机にダラーンと突っ伏すユリア。
すっかり気の抜けた様子で、爪楊枝を手に取り、それで机をカリカリと引っかき始めた。
俺もつられて緊張が解け、椅子の背もたれに大きく体重をかけてくつろぐ。
「……でもホントに……良かったぁ……遼を――…きな人を捕まえるなんて……できないよ」
ユリアがボソッとつぶやいた言葉の、最後の部分だけが聞き取れなかった。
「…『遼を』……なんだって?」
「ふぇ!?……いや、な、何でもないよ!?うん、何でもないっ!」
俺が反応するや否や、体を瞬時に起こして背筋をピーンと張り、座ったまま気を付けの姿勢になって固まった。
何か恥ずかしいことでも言ったのだろうか、顔が真っ赤っかに、それこそトマトみたいに紅潮している。
「…?何でもないならいいけど……」
内容を知りたい気もしたが、これ以上追求する必要も無いなと思い、一先ずは話を切ることにした。
――それに……
「お待たせしました〜!お飲みものをお持ち……ってきゃあ!?」
「――やっぱりか!」
嫌な気配を感じ取り、今までの人生で培ってきた反射神経、動体視力を全力に活用し、再び迫り来る脅威を回避する。
トレーの上のアイスコーヒーが、中身をぶちまけながら、俺の顔の横スレスレを通り過ぎていく。
二度も喰らえば、流石に軌道も分かるということか。水滴一つ浴びることなく回避することができた。
――少なくとも、『俺は』。
「……」
俺が避けた先、つまりは向かい側に座っていたユリアは、濡れた体のまま、無言で静止している。
俺の頭が邪魔でコーヒーが飛んできたことを察知できなかったのか、はたまた分かってても避けられなかったのかは分からないが、とにかくコーヒー二杯分の水分が、あのシャツに吸い込まれてしまっていることだけは確実のようだ。
…ついでに言わせてもらうと、俺とユリアが頼んでいたもう一つの品・二つのハバネロドッグも、大きくパン・ケチャップ・ハバネロ粉末入り激辛ソーセージの三つのパーツに分かれて、それぞれがバラバラに顔やらコートやらに張り付いている。
「……もっ…申し訳ございまっ……プッ、アハハハハハッ!!」
転んだ後すぐに立ち上がった姉ウェイトレス・椿は、ユリアの顔を見るなり、謝りかけていたのも止めて爆笑し始めた。
……これ、お前がやったんだぞ?どう責任を取るつもりなんだよ。
というか、さっき俺と桜で叱ったことが、まるで身に染みていないな。学習もできていない。これじゃ、さっきの説教は何のためにあったのか分からなくなってくる。
「……お、おい椿……とりあえず、謝っとけって……」
「…でっ……でも…ププッ!……おっ…可笑しくって……プッ…アハハハハッ!!」
まずい、まずいぞ……。
いくら俺が助け舟を出したところで、こいつがそれをことごとく沈没させていくのではどうしようもない。
なんかユリアの肩がプルプル震えてる。震えがだんだん大きくなっている気がしてきた。
「……」
「…お……おい……ユリア……?」
恐る恐るユリアの肩を叩いて、反応を伺おうとした。
ブチ切れているものだと思っていたため、一体どれほどの爆発が起きるか少しびびっていたのだが――
「――プッ……フフフフ……アハハハハハッ!!」
「…は?」
何故かユリアまで大爆笑を始めてしまった。
よほどコーヒーが自分の頭に降り注いだことがつぼにはまったのか、腹を抱えて椅子の上で暴れて笑っている。
そして、何故かそれを見てからの椿の爆笑もエスカレートしてしまったようだった。
人の話し声で割と賑やかだったホール内が一斉に静まり、ユリアと椿の大笑い声が響く。
そしてそれと同時に、大量の視線が俺達の方へと注がれて始めたのが感じられた。
……すごい注目されてるぞ、俺ら。
「プッ…ククッ……もっ……もうしわけっ……プククッ……」
「…べ、別にいい……プフッ…クフフフッ…」
何とも文章に表現しにくい笑い方をするもんだ、こいつら。
――まぁ、何はともあれ……
――ジュースぶっかけた相手がユリアで良かったな、椿。
他の人――特にあいつなら……こんなものじゃ済まなかっただろうぜ……。
――――――――――――
「――ックチュンッ!……むぅ……風邪……でも引いたか……?これから夏に成ろうというのに……」
突然のくしゃみで、手に持っていた紅茶のカップを落としそうになったが、左手で持ち上げていたプレートで支えることで、何とか落とさずに済んだようだ。
日本には古来より、『どこかで自分の噂話がされている時、くしゃみが出る』と言う旨の言い伝えが存在するらしいのだが……その迷信を信じるというのならば、私は今誰かに噂されているのだろうな。
確か…くしゃみが一回出たならば、噂の内容は『批判』だったはずだが……まぁ、この私が『王の一族』の筆頭・ドラケリア家の現当主であることを考えるならば、噂の一つ、批判の一つあってもおかしくはないと考えるべきなのかも知れない。
…本来ならば、私・シルヴィア=ヴラート=ドラケリアは、『王の一族』の筆頭として、ドラケリア家が所有するルーマニア、トランシルヴァニア内の居城・ブラン城にて政を行うべき立場なのだ。
それが何故このような吸血鬼の血統が少ない極東の地・日本などに留まっているのかと言うと、主な理由としては、やはり『切り裂きジャック』の存在を確認した、ということが大きい。これは、『王の一族』が率先して解決すべき事柄として扱われている。それほどまでに、『切り裂きジャック』の存在は脅威と言えるのだ。何せ、追っ手として放った戦闘経験豊富な吸血鬼二十余名を、一夜のうちに殲滅・嬲り殺しにしてしまったのだから。
…だが、理由は他にも存在する。
先月、『狂気の因子』の存在反応を感知したのだ。
…いや、先月…だけとは言えない。
実はここ数日間の間で十二回……この都内で『切り裂き魔事件』が起きた時と全く同じ時間帯にそれが感知されているのだ。
それが一つだけならば、『切り裂きジャック』単一犯によるものだと断定は容易にできる。それは、『切り裂きジャック』が世に知られた時から揺るぎない事実であったのだから。
……しかし、一夜だけ……神谷 遼が、あの夜、倒れていた日だけ、『狂気の因子』の反応が二つ存在したのだ。
――それはすなわち……『狂気の因子』を持った他の吸血鬼が、同じく『狂気の因子』『切り裂きジャック』に手を貸している、あるいは
『狂気の因子』とは……『王の一族』に列なる血族に流れる『調律の因子』とは全く逆の属性に位置する存在……。
『調律の因子』は、正の属性……吸血鬼が宿す本来の潜在能力…魔術師と鬼の間に生まれた血族としての、魔術師の力…すなわち魔術を行使するための因子。
それに対し、相反する因子…『狂気の因子』は、鬼としての力…そして、鬼が持っていた『狂気』を増幅させ、それを人が持つ『七つの大罪』に当てはめ、その罪と狂気を発現させる因子。
その特性故に、一度引き金が引かれればたちまち暴走状態に陥り、あらゆるものを狂気のままに破壊し尽くす……それこそ本物の『怪物』へと変貌すると言われている。
過去、この因子を発現させたものは、例外無く暴走し、人・吸血鬼・その他大勢の生き物を虐殺し、その血肉を啜り食らったとされる。――そして、その全ての吸血鬼が、例外無く『王の一族』の者によって処刑されている。それらの事件が表に出てこないのは、『王の一族』の当主たちが迅速かつ適確な情報操作・隠蔽工作を行ってきたからであり、表沙汰にならないだけで、『狂気の因子』覚醒者に殺された人口は、既に百万を越しているとも言われている。幸いなのは、それら覚醒者が全て、辺境の田舎町で虐殺を行ったということだ。
だがもし、この東京――人口が優に三千万を超えている都市にて、もう一人の『狂気の因子』を持つ者が覚醒してしまえば、他の『狂気の因子』覚醒者の時とは比べものにならない被害が起こりかねない。
何としても、それだけは止めなければならない。事態は、元人間である遼に救援を求めなければならないまでに切羽詰まっているのである。
――遼が博識かつ理解力ある人物であったからこそ良かったものの、このような賭けに出るまでに焦っているとは……曾御祖父様がよく言われていた『常に優雅に、そして聡明であれ』……早速守れていないではないか、私は。
「……少し、散歩でもして来るか」
あまり思い詰めていても仕方がないと断じ、席を立って真っ暗な自室を出て、真っすぐ玄関の方へと歩み出す。
歩く道中も、頭の中では、様々な考えが巡って、全く頭がすっきりしない。
だが、ただ一つだけ、考えていて嬉しくも、楽しくも感じられることがある。
――遼、彼の存在だ。
「――何時か彼も、私と肩を並べて戦えるようになるのだろうかな――」
――笑みは、自然とこぼれていた。