表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ枠『アイテムボックス』で異世界商売無双!〜追放された元社畜は、もふもふ銀狼と絶品グルメで経済を掌握する〜  作者: 黒崎隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/15

第6話「看板娘と秘密のレシピ」

 支部長との交渉を終えた俺が向かったのは、町の北側に位置する、古びているが手入れの行き届いた食堂だった。

 

「木漏れ日亭」という看板が、風に揺れてかすかな音を立てている。

 

 ここを新しい事業の拠点に選んだのは、その立地の良さと、何より店主の人柄に惹かれたからだ。

 

 中に入ると、昼どきを過ぎた店内に、木の床を磨き上げるキュッキュッという規則的な音が響いていた。

 

「いらっしゃい……あ、干し肉の商人さん!」

 

 声をかけてきたのは、白いエプロンを身につけた若い娘だった。

 

 彼女の名前はサリア。

 

 亜麻色の髪を後ろで一つにまとめ、意志の強そうな大きな瞳を輝かせている。

 

 彼女は、病気がちの父親に代わって、この傾きかけた食堂を一人で切り盛りしていた。

 

「こんにちは、サリアさん。例の話、考えてくれましたか?」

 

 俺が椅子に腰を下ろすと、フェリルは慣れた様子で足元のテーブルの下に潜り込み、大きなあくびをした。

 

 サリアは掃除の手を止め、少し不安そうに俺を見つめた。

 

「ケンイチさんの提案は、本当に魅力的です。でも、こんな寂れた店を拠点にするなんて、あなたのような凄い商人さんにメリットがあるとは思えなくて……」

 

 彼女の指先が、エプロンの裾をぎゅっと握りしめる。

 

 自分たちの店に価値がないと思い込んでいる。

 

 だが、俺の目は節穴ではない。

 

 この店の厨房は驚くほど清潔に保たれ、使われている道具はどれも大切に手入れされていた。

 

「メリットは私が作ります。サリアさん、あなたはここで、私が教える『新しい料理』を作ってください。材料と物流は全て私が責任を持ちます」

 

 俺はアイテムボックスから、厳選した食材を取り出した。

 

 真っ白な小麦粉、新鮮な卵、そしてボックス内の自動加工で理想的な配合に調整された特製の「マヨネーズ」と「マスタード」だ。

 

 この世界にはまだ存在しない、現代の調味料。

 

 俺はサリアに手伝ってもらいながら、その場で調理を始めた。

 

 厚切りにしたパンを軽く焼き上げ、表面に香ばしい色をつける。

 

 そこにシャキシャキとしたレタス、厚切りのトマト、そしてカリカリに焼き上げた「あの干し肉」を何層にも重ねていく。

 

 仕上げに特製ソースをたっぷりとかけ、包丁で鮮やかに切り分ける。

 

 断面からは具材の色彩が溢れ出し、見るだけで唾液が込み上げてくるような美しさだった。

 

「これが、私の提案するメニューの一つ――『ケンイチ・スペシャル・サンドイッチ』です。食べてみてください」

 

 サリアはごくりと喉を鳴らし、震える手でそのサンドイッチを手に取った。

 

 大きな口を開けて、思い切り頬張る。

 

 カサリというパンの焼ける音に続いて、野菜の瑞々しい食感と肉の濃厚な旨味が、彼女の口の中で爆発した。

 

「……っ!」

 

 サリアは言葉を失い、ただ何度も咀嚼を繰り返した。

 

 彼女の目から、一粒の涙がこぼれ落ち、頬を伝っていく。

 

「おいしい……。こんなの、食べたことありません。酸っぱくて、クリーミーで、お肉の味がどんどん深くなって……」

 

 彼女は感動に震える声で、夢中で食べ進めた。

 

 その表情は、料理人が最も欲しがる最高の賛辞だった。

 

「この味は、サリアさんの丁寧な仕事がなければ完成しません。あなたのその腕を、私に貸してくれませんか?」

 

 俺が真摯に問いかけると、サリアは涙を拭い、力強く頷いた。

 

「はい! 私、精一杯頑張ります! この店を、ケンイチさんと一緒に、町で一番のお店にします!」

 

 彼女の瞳に、希望の光が宿ったのを確認して、俺は安堵のため息をついた。

 

 サリアという右腕を得たことで、俺の計画は加速する。

 

 単に物を売るだけでなく、そこに「文化」を付加価値として乗せていく。

 

 物流の効率化でコストを下げ、現代知識による圧倒的な味で市場を独占する。

 

 俺は、窓の外を流れる雲を見つめた。

 

 王宮でふんぞり返っている連中が、この変革に気づく頃には、世界の経済は俺の手のひらの上にあるだろう。

 

 フェリルが俺の膝に顎を乗せ、温かい鼻息を吹きかけてきた。

 

「お前にも、後で特大のサンドイッチを作ってやるよ」

 

 俺はそう囁き、サリアと共に、新しいメニューの改良に取り掛かった。

 

 夕暮れの光が店内に差し込み、二人の影を長く、そして確かに重ね合わせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ