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ハズレ枠『アイテムボックス』で異世界商売無双!〜追放された元社畜は、もふもふ銀狼と絶品グルメで経済を掌握する〜  作者: 黒崎隼人


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第4話「辺境の町と不思議な露店」

 森の境界線が途切れ、視界が開けた先に広がっていたのは、朝靄に包まれた素朴な平原だった。

 

 夜明けの光はまだ弱く、地平線の端が淡い紫色から橙色へと移り変わる柔らかなグラデーションを描いている。

 

 足元には露を含んだ青々とした草が群生し、一歩進むたびに靴の先を湿らせ、冷ややかな感触を伝えてきた。

 

 隣を歩くフェリルの巨大な体躯は、昇り始めた太陽の光を浴びて、真珠のような光沢を放っている。

 

 その歩みは驚くほど静かで、巨大な肉食獣特有の威圧感よりも、大自然の精霊が実体化したかのような神聖な静寂を纏っていた。

 

「フェリル、もう少しだけ小さくなれないか。そのままだと、町の門を通る前に軍隊が出てきそうだ」

 

 俺が困り果てた声を出すと、フェリルは少しだけ不服そうに鼻を鳴らした。

 

 しかし、俺の言葉を理解したのか、その巨躯がふわりと揺らいだかと思うと、一回り、二回りと縮んでいく。

 

 最終的には、現代日本の基準で言えば大型犬――ゴールデンレトリバーより一回り大きいくらいのサイズにまで収まった。

 

 それでも狼としては破格の大きさだが、これならば「少し珍しい猟犬」という言い訳も通じるかもしれない。

 

 俺たちは一時間ほど歩き、ようやく「ベルム」と呼ばれる辺境の町の入り口に辿り着いた。

 

 切り出された石材を積み上げた堅牢な門の前には、数人の門番が立っている。

 

 彼らの身につけている革鎧は使い込まれて色が沈み、表面には無数の細かい傷が刻まれていた。

 

 俺の格好――泥に汚れたとはいえ、上質な生地で仕立てられたビジネススーツは、この殺風景な風景の中でひどく浮いていた。

 

 門番たちは俺とフェリルの姿を認めると、警戒を露わにして槍の柄を握り直した。

 

「止まれ。見ない顔だな。その大きな犬……いや、狼も連れか?」

 

 先頭に立つ髭面の門番が、鋭い視線を俺の顔に向けた。

 

 彼の目には、未知の存在に対する根源的な恐怖と、職務を全うしようとする意志が混ざり合っている。

 

 俺は精一杯の営業スマイルを浮かべ、アイテムボックスから王宮で渡された身分証代わりの革袋をゆっくりと取り出した。

 

「怪しい者ではありません。旅の商人でして。この子は道中で拾った、賢い相棒です」

 

 俺の声は、長年の会議や交渉で鍛えられた、聞き取りやすく落ち着いたトーンを維持していた。

 

 門番は俺の手元とフェリルを交互に見つめ、信じられないといった様子で眉間にしわを寄せた。

 

 フェリルは余計な刺激を与えないよう、俺の足元で行儀よく座り、無害なふりをして尻尾を一回だけ振った。

 

 その愛嬌のある動作に、門番たちの緊張がわずかに緩む。

 

 通行税として銀貨を一枚手渡すと、彼らは呆気にとられた顔をしながらも、ゆっくりと木製の重厚な扉を開けてくれた。

 

 町の中に足を踏み入れると、石畳に染み付いた馬の糞尿の匂いと、どこかの家から漂ってくるパンを焼く香ばしい匂いが混ざり合って鼻を突いた。

 

 通りはまだ人影もまばらだが、市場となる広場では、露店主たちが荷台から野菜や果物を降ろして準備を始めている。

 

 俺は広場の隅、人通りがそれなりに見込めそうで、かつ周囲の邪魔にならない場所を見つけた。

 

 まずは軍資金を稼ぐ必要がある。

 

 俺はアイテムボックスを起動し、内部の自動加工機能で、昨日森で手に入れた素材を商品へと変えていった。

 

 作ったのは、特別な味付けを施した「干し肉」だ。

 

 この世界の干し肉は、保存性だけを重視した、石のように硬くて塩辛いだけの代物だという。

 

 俺が作ったのは、アイテムボックスの圧力機能で繊維をほぐし、森で見つけた野生のスパイスと、ボックス内に秘蔵していた醤油を隠し味に使った逸品だ。

 

 小さな布を広げ、その上に琥珀色に輝く干し肉を並べていく。

 

 すると、どうだろう。

 

 ボックスから取り出したばかりの、スパイスの刺激的で華やかな香りが、早朝の冷たい空気に乗って周囲に広がっていった。

 

 準備をしていた他の商人たちが、一人、また一人と鼻を動かし、不審げに、しかし抗い難い好奇心を持ってこちらを振り返る。

 

「おい、兄ちゃん。妙な格好をしてるが、何を売ってるんだ? 鼻がひん曲がるほどいい匂いがするんだが」

 

 最初に声をかけてきたのは、向かい側で泥の付いたイモを並べていた、恰幅のいいおじさんだった。

 

 俺は最高級の笑顔を向け、一片の肉を差し出した。

 

「試食してみませんか。私の故郷の秘伝のタレに漬け込んだ、特別な肉です」

 

 おじさんは半信半疑のまま、太い指で肉を掴み、口へと放り込んだ。

 

 咀嚼した瞬間、彼の目が限界まで見開かれた。

 

 喉の奥が動く音が聞こえるほどの勢いで飲み込み、彼は震える声で叫んだ。

 

「なんだ、これは……! 肉が……肉が溶けるぞ! それにこの、舌がしびれるような、でも止まらなくなる味は……!」

 

 彼の叫び声は、朝の静かな広場に鐘のように響き渡った。

 

 それを合図にしたかのように、準備をしていた商人や、早起きの住人たちが一斉に俺の露店へと詰めかけてくる。

 

 フェリルは人だかりに驚くこともなく、誇らしげに胸を張り、俺の隣で悠然と構えていた。

 

 俺は押し寄せる注文を冷静にさばきながら、心の中でガッツポーズを作った。

 

 商売の基本は、需要の欠落を見抜き、そこに最高鮮度の価値を投げ込むことだ。

 

 この異世界での、俺の快進撃がここから始まる。

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