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ハズレ枠『アイテムボックス』で異世界商売無双!〜追放された元社畜は、もふもふ銀狼と絶品グルメで経済を掌握する〜  作者: 黒崎隼人


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第13話「世界を繋ぐ、最初の一歩」

 眼下に広がるのは、かつての荒廃した面影を微塵も感じさせない、生命力に満ち溢れた王都の全景だった。

 

 朝の光を浴びた赤い屋根瓦が幾千もの鱗のように連なり、それらを縫うように整備された大通りには、色とりどりの馬車が行き交っている。

 

 遠くからは、新設された巨大な物流拠点から荷を下ろす作業員たちの活気ある声や、石畳を叩く蹄の乾いた音が、心地よいリズムとなってここまで届いていた。

 

 俺は、王都を一望できる丘の上に新築された「サトウ商会・総本部」のテラスに立ち、手すりに軽く手を添えた。

 

 指先から伝わる石材のひんやりとした感触と、微かに残る朝露の湿り気が、これまでの歩みが夢ではないことを教えてくれる。

 

 手元のテーブルには、世界各地の特産品を記した最新の地図と、各地の支部から届いた膨大な報告書の束が置かれていた。

 

 かつて俺がこの国を追い出された時、懐にあったのはわずかな銀貨と、誰もが見向きもしなかった「アイテムボックス」という力だけだった。

 

 だが今、俺の目の前にあるのは、一国の王ですら掌握できなかった、大陸全土を網羅する巨大な物流の動脈だ。

 

「在庫管理とは、単なる物の整理ではない……。それは、人々の欲望と生活の調和を司ることなんだ」

 

 俺は独り言のように述べ、熱いコーヒーの入った陶器のカップに手を伸ばした。

 

 立ち上る香ばしい湯気が鼻腔をくすぐり、深いコクが喉を通り抜けて身体の芯を温めていく。

 

 このコーヒー豆も、俺の商会が未開の南方の島々から直接買い付け、アイテムボックスの時間停止機能で鮮度を保ったまま運んできたものだ。

 

 かつては一部の貴族しか口にできなかった贅沢品が、今では街の片隅のカフェで、誰でも気軽に楽しめる日常の一部になっている。

 

「ケンイチさん、次の会議の準備が整いました。……東方の連盟からの使者の方々、かなり緊張されているみたいですよ」

 

 背後から、テラスの扉が開く音と共に、サリアの明るい声が響いた。

 

 振り返ると、彼女は最高級の絹で仕立てられた、活動的でありながら優雅な秘書服を完璧に着こなして立っていた。

 

 かつての食堂での控えめな雰囲気は影を潜め、今や大陸有数の商会を支える「鉄の秘書官」としての風格が漂っている。

 

「緊張させるつもりはないんだがな。ただ、対等なビジネスパートナーとして握手をしたいだけだ」

 

「ふふ、今のケンイチさんと握手するというのは、一国の命運を左右するのと同じ意味ですから。……でも、私は知っています。ケンイチさんの本当の狙いは、美味しいものを世界中に広めることだけなんですよね」

 

 サリアは悪戯っぽく微笑み、俺の横に並んで街を見下ろした。

 

 彼女の瞳には、かつて明日をも知れぬ不安に怯えていた面影はなく、新しい世界を共に築き上げているという確かな自信と幸福が宿っている。

 

 その時、足元で丸まっていた銀色の塊が、大きなあくびをしながら身を起こした。

 

 フェリルの銀色の毛並みが、朝の光を反射して眩いばかりの光輝を放つ。

 

 彼は大きな尻尾をゆっくりと振り、俺の腿に巨大な鼻先を押し当ててきた。

 

『グルゥ……』

 

 その温かい鼻息と、喉の奥から漏れる重低音は、何よりも信頼のおける相棒の証だった。

 

 かつて俺を「無能」と切り捨てた王宮の連中は、今や自分たちの政策一つ決めるのにも、俺の商会の意向を伺わなければならない。

 

 勇者として持て囃されていた高城は、戦いしか知らぬその傲慢さが仇となり、平和になった世界では居場所を失った。

 

 彼は今、王都の郊外で一人の開拓民として、俺の商会から支給されるクワとカマを握り、泥にまみれて土を耕していると聞く。

 

 聖剣を持っていた時よりも、今の彼の方が、生命の重みを理解できているのかもしれない。

 

 俺は空になったカップを置き、サリアが差し出す新しい契約書に目を通した。

 

 そこには、これまで断絶されていた大陸横断鉄道の建設計画が記されている。

 

 物理的な距離をゼロにし、あらゆる文化と資源を混ぜ合わせる。

 

 それは、この世界を真の意味で一つにするための、最初の一歩だった。

 

「よし、行こうか。待たせている人たちに、新しい未来を提示しに行こう」

 

 俺が歩き出すと、サリアが静かにその後に続き、フェリルが頼もしい護衛として俺の左側を固めた。

 

 廊下を歩く俺の革靴の音が、迷いのないリズムを刻みながら建物内に反響する。

 

 窓の外では、空高く昇った太陽が、どこまでも続く新しい街道を真っ直ぐに照らし出していた。

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