こんなに好きなのに、彼女が自作小説を読ませてくれない。
「もう書くのやめようと思ってるんだあ」
「え、やめちゃうの」
「だって、全然読まれないんだもん」
彼女はそう、PCのキーボードを乱雑に指で叩きながら言う。肘をついて、溜息を吐いた。
「向いてなかったのかな。投稿しても、PV5だよ?」
「投稿時間がまずいんじゃない? ジャンルは?」
「特定しようとしないでよ。絶対読ませないから」
残念だ。彼女が書いた小説を、一度も読ませてもらったことはない。いつも楽しそうにPCの前に座って、話を書いていた。それが嬉しくて、横でいつも見守っていた。いつか読める日が来るのを楽しみにしていた。
「文才はあるんだし、人気ジャンルでテンプレでも書いてみたら?」
「それが難しいんだよ。テンプレで読者の心を掴んでから独自の色を見せていくって、そんなに簡単なことじゃないよ。やり尽くされてるだけにさ。私は自分の興味あること以外、書けないよ。っていうか文章読んで無いのに、文才あるなんてどうして分かるの」
「会話で?」
「根拠に乏しい……」
パタリ、と後ろに倒れ込んで彼女は言う。書くのをやめてしまうのは、勿体無い気がした。どうしたら書くのを続けてくれるのだろう。作品を読んでみたい。
顔に手を当て考えてから、口を開く。
「じゃあ、僕が読むから、僕のために書いてよ」
「え……」
「読みたいな、駄目かな」
そう言うと、彼女は口を押さえて震えた。目がキラキラと光って、子供みたいで可愛かった。
「光属性の主人公が言うセリフだ……実在するんだ……」
「じゃあ、読ませてくれる?」
「嫌だって言ってるでしょ。読んで微妙だった時、気まずくなるじゃん。てか、光属性って言ったけど、やってることストーカーだからね。私が投稿した日にその日のサイトの新着小説全部漁って特定しようとしたりさ」
「君のことは全部知りたいから」
そう言うと、うーん、と言いながら彼女は起き上がった。机に突っ伏して、大きな溜息を吐く。
「あーあ。何が駄目なんだろう」
「読まれないからって、駄作とは限らないよ。見つからない名作なんて、今の時代星の数ほどあるんだから」
「すごい、読んでも無いのに、薄っぺらい励ましの言葉が湯水の様に湧いてくる。AIみたい」
薄っぺらいと言われてしまった。励ましが逆に鼻についているようだ。こうなると何を言っても卑屈に捉えられてしまうだろう。
「……じゃあさ、今の自分の状況書いてみたらどう?」
「ん?」
「自分のストーカーに監禁されて、自由に動けない状況。ウケるんじゃない?」
彼女の足に付けている、足枷の鎖をグイッと引っ張った。足が引っ張られて、彼女は不愉快そうに顔を顰める。
「そんなの、手垢が付いた題材じゃない? よくありそうだしさ」
「……この状況をよくありそうって言えるのすごいよ……」
「ヤンデレで、私のことが大好きで、監禁しちゃいましたって検索してみな?たくさん出てくるよ」
そう言って、不貞腐れたように唇を尖らせた。
「僕もう結構手詰まりなんだけど、どうしたら僕のことを好きになってくれる? 王道監禁ものは、ここからどうなるの?」
「中途半端なんだよ。嫌だって言っても、無理矢理手篭めにしないと」
「じゃあ投稿してる小説読んでいいの?」
「それやったら本気で嫌いになる」
「おかしいな。言われた通りのことしようとしてるのに」
「向いてないんじゃない? 転職したら? 光属性のBLものにでも」
「普通に君が好きなんだけど」
「王道ラブコメは、大体主人公が最初からヒロインに好かれてるし、溺愛ものはスパダリ王子にときめく女主人公だからな〜。油田見つけて貴族になるとか?」
「ハードルが高いんだね……」
僕がそう言い溜息を吐くと、彼女は体を起こして伸びをした。
「はーあ。何か一発当たらないかな」
「……いつか、小説読ませてね」
彼女は、足枷をガチャガチャいわせながら、あぐらを組む。そして僕に向かって最高の笑顔を浮かべてこう言った。
「絶対、絶対、読ませない!」
あまりにもその笑顔が可愛かったので、今日のところはまあいいかと思った。僕のそういうところがもしかして監禁者として甘いんだろうか?
いつか君が僕に読んでほしい、僕のために書いた物語だよ、なんて差し出してくれるのを夢見て、明日も彼女が小説を書くのを見守り続けようと思う。




