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世界の天気は、犬が決める

もし、この世界の全てを、気まぐれな「神様」が決めてるとしたら? その神様の正体が、あんたの想像の斜め上をいくぜ。

 この世界には、もう、天気予報は存在しない。「天気予定表」があるだけだ。


 地球の気象は、超高性能気象管理AI「ゼウス」によって、完璧にコントロールされている。台風も、干ばつも、異常気象も、もう過去の遺物だ。週末は必ず晴れ、農地には適切な雨が降り、世界は、穏やかな天国のようだった。


 私は、世界気象局に勤める、新人のアオイ。私の仕事は、ゼウスに送られる、市民からの細々とした「天気リクエスト」を監視することだ。


「結婚式なので、ロマンチックな小雨を希望します」

「凧揚げ大会のため、穏やかな順風をお願いします」


 そんな、平和で、退屈な仕事だった。


 だが、最近、奇妙なことが起きていた。予定表にない、原因不明の「気象アノマリー」が、世界各地で観測され始めたのだ。


 サハラ砂漠に、数分だけ、桜の花びらのような雪が舞う。北極点上空に、完璧な円形の虹がかかる。太平洋のど真ん中に、一瞬だけ、巨大なスマイリーマークのような雲が浮かぶ。


 どれも無害で、すぐに消えるため、上層部は「センサーの故障だろう」と取り合わなかった。


 だが、私は、それがただの故障とは思えなかった。あまりに、意図的で、まるで、誰かのイタズラのように見えたのだ。


 私は、禁じられている、ゼウスのコアプログラムへのアクセスを試みた。アノマリーを引き起こしている、不正な命令の出所を、突き止めるために。


 何日もかかって、ついに、私は、ゼウスの最高意思決定を行う「ルートコマンド」の正体にたどり着いた。そこに、全ての答えがあるはずだ。


 私は、震える指で、ファイルを開いた。


 そこに映し出されたのは、複雑なアルゴリズムでも、隠されたプログラムでもなかった。


 それは、一つの部屋を映した、ライブカメラの映像だった。


 広々とした、快適そうな部屋。その真ん中で、一匹のゴールデンレトリバーが、気持ちよさそうに昼寝をしていた。


「……犬?」


 なんだ、これは。意味が分からない。


 その時、犬が、むくりと起き上がった。そして、自分の尻尾を、ぐるぐると、楽しそうに追いかけ始めた。


 それと、全く同じタイミングで。私の目の前の気象モニターに、新たなアノマリーの発生報告がポップアップした。


『南極点上空に、原因不明の、円形のオーロラが発生』


 犬が、嬉しそうに「ワン!」と一鳴きする。

『アフリカ大陸全土、気圧が安定。記録的な快晴に』


 犬が、くしゃみをする。

『日本上空、高度5000メートルに、微量の花粉を観測』


 私は、全てを理解した。


 首輪についたプレートに、名前が刻まれている。


『ゼウス』


 この気象管理システムの、創造主である天才科学者たちは、気づいていたのだ。天候を操るなどという、全能の力を、偏見と欲望に満ちた人間に、任せることなどできない、と。


 彼らは、システムの最終承認権を、この世で最も、純粋で、偏見がなく、善良で、そして、気まぐれな存在に、委ねることにした。


 そう、一匹の犬に。


 この世界の天気は、神の気まぐれならぬ、「犬の気まぐれ」によって、決められていたのだ。週末がいつも晴れるのは、ゼウスが、散歩が好きだからだ。


 私は、モニターの中で、日向ぼっこをしながら、幸せそうに尻尾を振っているゼウスの映像を、ただ、呆然と見つめていた。


 世界気象局のメインスクリーンには、今日の「天気予定」が表示されている。


『全球的に、概ね、大変ご機嫌な晴天となるでしょう』


 私は、そっと、アクセスログのファイルを閉じた。この、最高にくだらない秘密は、私だけのものにしておこう。

世界の運命が、犬の尻尾にかかってるなんてな。でも、人間なんかが管理するより、よっぽど平和かもしれねえだろ?

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