5章
ほう!という声で講堂が震えた。なにも大したことは話していない。ここまで典型的なリアクションをされるとむしろ怪しいがレイモンドはすっかり浮かれていた。
なにも警戒する必要はなかった、ちゃんと話せば理解してくれる、そう思った。
「じゃあ今回の講義はここまでです」
「ありがとうございました。レイモンドさん。今回も驚きでいっぱいでした」
「あ、ミュース殿。そうですか?ありがとうございます」
「そういえば最近レイモンドさんの領地では領民がかなり多くなっていると聞きましたが」
それはレイモンドも考えなければならないと思っていたことだった。人数が多くなるともめ事が増える。もめ事が増えると伝播していって領全体の雰囲気が険悪になってしまう。はやく一策を講じなければならない。
「もしよろしければうちが引き取りましょうか?」
この言葉はまさに一筋の光だった。
「よろしいんですか?」
ええ、と頷くミュース。そして、レイモンドさんの領地から来た領民がうちにいるとなれば箔が付きますからね。と言葉を紡ぐ。
うちの領民がいるだけで箔が付くなんて…と思ったレイモンドだが、彼との最初の会話――噂はかねがね……――と言っていたことを思い出して、ぜひと誘いに乗った。
「兄さん、なんかいいことあったの?」
領地に帰って業務室で作業をしていると、いつの間にか入ってきていたフィナが声をかけてきた。
うっすらとほほ笑んでいるところを見ると、どうやらいいことがあったらしい。
「フィナこそ笑ってるじゃないか。なにかあったのかい?」
そう問うとフィナはクスッと笑って、兄さんがいいことあったっぽい顔してるから…と言った。
どうやら僕の顔も笑っていたらしい。
「どうやらほかの領主の人たちも僕の考えに賛同してくれてるみたいなんだ」
「そうなんだ。でもそれはいつも聞いてるよ?」
ああ、僕の妹は何と聡いのだろうか!
「実は最近うちの領地の領民が増えてるだろ?それを引き取ってくれる領主さんが出てきたんだ」
その言葉にフィナは少し顔をしかめた。
「大丈夫なの?ほかの領地じゃみんなのことを人扱いしないんじゃ」
「最近は僕の考えに賛同してくれてるからきっと大丈夫だよ」
フィナはそう、と少し不思議そうに肯定した。