2章
かの領地は安泰である、と言い始めたのは誰だっただろうか。
その領地にはやり手の領主がいる。一代で領の財政を立て直した。領民が人として扱われる―――
それがうちの領地の評判だ。
うれしいとしか言いようがないだろう。領民のために一時は厳しいところまで行ったが、その後ここまで回復させたのはやはり民が頑張ってくれたからとしか言いようがない。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「レイモンド兄さん、入ってもよろしいでしょうか?」
「んんんもぉぉぉぉちろんだよぉぉ!わが!愛しの!妹よ!」
ドアを押しながら入ってくるこの世界一かわいい女性は僕の妹のフィナだ。
「妹、ではなく名前で呼んでくださいといつもいってるでしょう」
「なら俺のことも『おにいたま』か『兄さま』か『愛しのマイブラザー』と呼べと言っているだろう!」
「そんなので呼んだらすぐ調子に乗るじゃないですか」
「ふむ!否定はしない!」
実はシスコン領主というあだ名でほかの領主たちから呼ばれていることを彼は知らない。
「兄さん、最近雨が降らなくて畑が乾き気味ってみんなが言ってるんだけど…」
「了解。あとで水降らせるね」
この世界には魔法という概念が存在する。
誰しもが魔法を使うことができるが、第一階梯魔術――創造魔法を使えるのは領主を務めるもの、つまり貴族だけになる。
また、貴族は世襲制でもあるので、追放等がない限り貴族の一族以外が創造魔法を使えることはない。
その力をやけに神聖化したりして、民衆なんかのためには使いたくないなんて人もいるが、僕は別にいいと思う。使えるものは存分に使うべきだ。
領民に対してそんな風に接しているからか、ほかの領主からは疎まれ、領民からは親しまれている。
「あと兄さん、また移民の相談が来てるけど…」
「一応形だけは面接をして入れてあげてくれるかい?」
きっと以前の領地で何かあったのだろう。そこを詮索するのはマナーに反する。なにも聞かずに領地に入れることはリスクが伴うが、誰にだって聞かれたくないことはあるだろう。うちの領地のモットーは「来るものは拒まず、去る者は追わず」だ。




