11章
「じゃあ行ってくるね」
「はい、兄さん、いってらっしゃい」
レイモンドを送り出したフィナは自分の部屋に入って趣味である漫画を読み始めた。
「ああ、いいわ…えぇッ⁉そんな…男の人同士で…⁉……あっ…そ、それ以上は…!」
別に何のジャンルかはいいだろう。
「あ、興奮しすぎてページが破れちゃったわ。何か不穏なことが起きなければいいけど……」
フィナがベーコンレタスな漫画を読んでいるとき、大通りではレイモンド領から荷台にのった荷物が運ばれた。
「これはなんですか?」
領民が尋ねると商人は
「領主さまのご依頼で荷物を運んでいるんですよ」
と答えた。たしかに荷台にはレイモンド家の家紋が付いている。
何の荷物か不審がって聞くと商人は肩をすくめた。わからんという意味だと判断した領民は商人になんの荷物か確認していいか尋ねた。
商人は少し考えた後そっぽを向いた。いや、よく見てみるとちらりとこちらを見ている。
つまり、商人は自分から見ていいと許可を出すと何かあった時に責任を取らされてしまうから非常時のために勝手に見られたという大義名分を作りたいのだろう。
「勝手に見ますからね」
形だけはそう言って荷台にかかっているカバーを外す…と。
「んんー!ん!」
猿轡をされた女性たちが運ばれていた。
その時に頭の中に浮かんだのは奴隷という言葉だった。
怒りに震えた。もうこれ以上は許せなかった。
自称商人が気づかれないようににやりと笑った。
奴隷の話を聞きつけた領民が集まった。その中には普通の領民はもちろん、領主の騎士なども集った。
全員が目を合わせた。リーダーの男、奴隷を見つけた男が口を開く。
「…ぁ、そういえば…名前決めてませんでしたね」
大事な時に決めれないのはこの場の雰囲気を和ませた。