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10章
「聞きました?あの噂」
メイルは街を歩きながらひそひそ声が聞こえるのを感じていた。
あの噂――レイモンドがミュースの領地に奴隷を斡旋しているという噂だ。
事実、メイルもとある男からその話を聞いていた。
見たことがないからこの辺境の領地の中でも田舎に住んでいる人かもしれない。
その男の話は信じられないものだったが、あの家族の娘と手紙のやり取りをするという約束が守られていないことを考えるとあり得ない。
「しかし、レイモンドはとても領民思いで優しくしてくれて…」
「それが罠なんです。」
メイルは思わず、罠?と聞き返した。
「はい。領民が増えるように領民に優しくして、多くなったら奴隷として売り出すんです。最近領民が多すぎて困っていたそうではありませんか」
「な…なるほど…。レイモンドは…」
堕ちた!――男はメイルと別れて路地裏に入るとかぶっていたフードを取った。
これで領主さまから怒られなくて済む…。ミュースの顔を思い浮かべながら男は満足そうにミュース領へと帰っていった。