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ウェリントン解放戦1

 『通路』と呼ばれる超空間の出現によって、日本などの各国が存在する『第一世界』と、第一世界から見て異世界に当たる『第二世界』が繋がった。

 この出来事がきっかけで、日本は第二世界アルスタール大陸での戦争に巻き込まれ、第二次世界大戦以来の戦時下に突入することになった。

 第一世界各国は、政治的に都合のいい形になるのを狙い、日本に軍事的負担を押し付けたが、結果として日本は第二世界で強力な影響力を持つ国になるのを後押しすることになった。


 アルスタール大陸西部の大国、アルテリア帝国による侵略戦争によって一時大陸の7割を支配され、日本へ繋がる通路の内2つが掌握され、さらに大陸東部ベルニア王国領内の東京へ繋がる『甲目標第01号通路』のあるヴァスタヌール市近郊まで戦線は迫ったことにより、人道支援目的の自衛隊派遣は、早々に戦闘作戦に変化していくことになる

 日本政府は、早急な反攻作戦を主張する同盟各国政府を説得し、防衛ラインの確立を優先し、同時に旧軍の教訓から補給、兵站を強固にするべく兵器類や各種物資の製造拠点を第二世界に構築する方針を取った。

 ファンタジー作品の様な魔法や魔物を多用しつつも、最新装備でも十分脅威となる兵器類を有するアルテリア軍に対抗するべく、自衛隊は同盟各国より魔法技術の提供を受けて対抗戦術の確立を進め、同時に魔法師で編成された特殊部隊の創設計画を開始した。


 異世界での戦争と並行するように、アメリカでは新しい大統領の言動が、米軍内で燻っていた対立を悪化させた。

 人種や民族問題に加え、軍人としての価値観の対立が、兵役経験のない大統領の発言や政策で激化し、兵卒や下士官だけでなく、誇り高い米軍将校すら祖国に愛想を尽かし、在日米軍を中心とする米軍の一部が蜂起、脱走し、日本への亡命を行った。

 元自衛官の閣僚による手引きとの説もあるこの事件で、空母打撃群をはじめとする大規模な部隊が自衛隊に編入され、米大統領は激怒し日米安保条約の破棄を宣言。続けて対日兵器禁輸政策を実行しようとしたが、絶好の商機を逃したくない軍需企業によるロビー活動により法案は議会で廃案、軍需企業は積極的に第二世界での兵器工廠建設に協力し、ライセンス生産による技術料の獲得に成功する。

 一方、自衛隊は元米軍部隊の編入によって、高性能兵器や優秀な人員の獲得に成功した。同時に日本政府は、アルスタール大陸各地からの難民の中から、自衛隊への入隊希望者が出ると、特措法にてこれを認めた。


 2020年、派遣部隊が4番目の自衛隊、『統合派遣部隊』に再編されると同時に、自衛隊と同盟各国軍からなる統合連合軍は全面反攻を開始。

 各地の戦線で占領軍が撃破され、攻守が逆転し、占領下にあった多くの地域が解放され、残りの占領地を解放すべく作戦が続けられた。

 

 それから4年、戦線は絶えず西へ移動し、その速度を上げている。


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 2024年1月、アルスタール大陸東部地域の解放を果たした統合連合軍は、大阪と繋がる甲05号通路が存在するウェリントン自治州解放を次の戦略目標として、統合戦略計画『青A号』を発動。

 南部国境線において、A1方面軍による越境攻撃を開始、敵戦力の撃滅と誘因を図った。

 1か月に及ぶ攻撃により、敵主力の南方への転進を確認した統合連合軍司令部は、空母1隻、戦艦4隻からなる多国籍艦隊と、空母航空団を含む大規模な航空戦力を投入、北部地域の敵洋上戦力及び沿岸部の防衛陣地への攻撃、敵増援の遮断を図り、本命である北部地域への揚陸と、上陸した戦力による南進、首都攻略を行うべく段階を進めた。


2024年2月12日

ウェンディーネ自治王国

ディーゼンノート市郊外

統合連合軍ディーゼンノート統合基地演習地区

1120時


 ディーゼンノート市は北海道千歳市と繋がる甲02号通路の所在地で、6年及ぶ敵占領の後、通路を挟んで二つの世界を跨ぐ激戦の末解放されたのが1年前。

 現在は前線に近い大規模拠点として、大陸東部や日本本土から多くの部隊や物資が行き交う。

 去年後半から青A号計画のため頻繁に部隊が出入りし、 ディーゼンノート市郊外の演習地区では、毎日のように訓練が実施され、この日は統合派遣部隊の防衛大臣直轄部隊、第17旅団第3偵察強襲戦術部隊『アルタイル』の強襲偵察中隊第5威力偵察小隊(アルタイル1-5)による降下制圧訓練が行われていた。

 訓練内容自体は、ホバリングしたヘリから降下し、降下地点周囲を制圧するというもので、ヘリボーン部隊ならよく行われる訓練だ。

 だが、通常よりもヘリのホバリング高度が高い。ヘリから垂らしたロープを伝って降下するところを、小銃を構えた状態でヘリから飛び出し、バンジージャンプの様に急降下する。そして、地面から10メートルと切ったところで、隊員の体が急減速したと思うと、そのままふわりと着地する。

 この芸当は、アルタイル1-5が日本初の魔法戦闘部隊だから出来るものだ。魔法によって、落下速度、空中での姿勢を制御し自由度の高い降下を可能としている。

 ファストロープ降下と違い、両手でロープを掴む必要がなく、降下中の射撃も可能で、高さ50メートルまでなら安全な降下を可能としている。

 現在、自衛隊では実験的に魔法戦闘部隊が編成され、同盟国から供与された技術をもとに技術研究を行っているが、派手な攻撃用魔法よりも身体機能を強化させる魔法の方が使用頻度が高く、魔法戦闘部隊ではより優先して訓練すべきものというのが、訓練や実戦と通して得られた結論だった。

 アルタイル1-5をはじめ魔法戦闘部隊は、時間さえあれば魔法を用いた身体機能強化の訓練を実施し、同盟国魔法師に劣らない連弩を身に着けていた。

 4個の分隊ごとにローテーションで、ヘリでの空中待機、降下、車両での移動、降下した隊員を車両で輸送支援及び待機を繰り返し、2度目の降下を終えた不知火(しらぬい)零次(れいじ)一等陸曹以下アルファ分隊は、海外製の歩兵機動車(軽装甲機動車2型)で待機場所まで移動するところだった。

 「2週目が終わったら、午前は終わりだな」

 時計を確認して、零次はそう呟いた。

 「続きは午後?」

 「その予定」

 長崎(ながさき)詩織(しおり)二等陸曹の問いかけに、零次は短く返した。

 詩織の髪は銀髪をしている。これは染めているのではなく、魔法の副作用のようなもので、魔法を使用していると、髪の毛に人体では通常、量が少なく目立たない色素が増加、対して黒い色素が減少し、銀色や青、赤などアニメのキャラクターを彷彿させる髪色になることがある。

 なぜ色素の増減が発生するのか不明だが、魔法師だけでなくその周囲の人間にも見られる現象で、黒く染髪しても効果がないため、防衛省は髪色に関する規定の例外として認めていた。

 「ディーゼンノート(こっち)に移動してから1週間経つけど、これからどうすんの?」

 「俺に聞くな。上の人の聞け」

 「上の人の家族じゃん」

 「そういう話ではない…そろそろ出撃命令でも出るじゃないか?」

 「どこに出撃?」

 「知らん」

 そう答える零次だが、実際は特殊部隊小隊指揮官という立場上、自分たちがウェリントン北部に向かうことは既に聞かされている。ただ、それが何時、どのような作戦なのかまでは、まだ伝えられておらず、また部下たちに開示することはまだ許されていない。

 それを感づいてか、詩織の聞き方は悪戯を子供の様だった。

 「知ってたところで、まだ言えないのわかってて聞いてるだろ?」

 「バレたか」

 「そういうとこだぞ…はぁ」

 呆れながらため息を零次だったが、業務用スマホが騒いだのは即座に反応した。

 「はい、不知火です」

 〈不知火一曹、旅団司令部に出頭してください。旅団長からの指示です〉

 「了解…呼び出しくった。詩織、小隊指揮任せる」

 「了解」

 零次は待機場所に停車してあった別の軽装甲機動車に乗り込むと、基地に向かい旅団司令部に向かった。

 「入ります」

 「来たか」

 中に入ると、第17旅団長の陣内(じんない)総司(そうじ)陸将補とアルタイル部隊長の福山(ふくやま)一平(いっぺい)一等陸佐が待っていた。

 共に陸上自衛隊出身の幹部で、陣内は北海道で戦車連隊を指揮し、開戦初期の千歳での防衛戦以来この戦争で指揮官として活躍している。対して福山は、空挺レンジャーや特殊作戦群出身で、日本の特殊部隊の第一線で活躍する人物だ。

 零次の直属の上司は福山だが、旅団先遣隊として偵察、破壊工作に従事するというアルタイル1は旅団長直属部隊としての性質があり、隷下の各小隊は旅団長である陣内から直接命令を受ける立場にある。

 「早速だが明後日早朝、ウェリントン北部ウェーブポイント市に対する空挺降下、ヘリボーン作戦が発動される。港湾施設を確保するための作戦で、空中機動によって都市背後に回り込み、敵主力を後ろから襲撃する。これに先立つ偵察活動、及び都市内への侵入ルートの確保のため、お前の小隊に明日2000時に出撃を命じる」

 「俺の隊が先陣ですか?」

 「そうだ。都市外苑の降下地点(LZ)よりレンジャー小隊が都市内に侵入し、後続部隊のLZを確保する。お前らの仕事は、レンジャーの侵入経路の確保だ。出来るな」

 「まぁ…出来ます」

 「よろしい。後は福山から」

 「はい、旅団長。今作戦は、第17旅団(うち)の他に、第1空挺旅団が参加、近接航空支援(CAS)と海上からの火力支援がある。都市外苑は、運河と河川があって、部隊移動には橋を通る必要がある。お前たちの小隊は、3か所の橋を確保し、レンジャーの移動を支援しろ。LZ確保前にレンジャーに余計な負担を負わせたくない」

 「了解。レンジャー侵入後は?」

 「専属の支援ヘリ部隊(ノワール)UH-60JA改(ロクマル)を回す。遊撃部隊として、上空で待機しろ。必要に応じて指示する」

 「了解」

 「必要な情報は現在収集中だが、目標の橋梁部には戦車、装甲兵員輸送車(APC)が確認されている。対戦車戦闘に備えとけ」

 福山は対戦車戦闘に備えろとは言ったが、対戦車装備を準備しろとは言わなかった。それは、魔法を用いることで、戦車を制圧可能だからだ。もちろん、魔法が使えるから戦車を相手できるというわけでなく、零次たちが生身で戦車を破壊可能な戦闘力を有しているという意味だ。

 零次は、実行可能な限界を攻めてくる上官に内心辟易しつつも、決して無理は要求しない点ではありがたいと思っていた。

不知火(しらぬい) 零次(れいじ)

自衛隊統合派遣部隊

一等陸曹

第17旅団第3偵察強襲戦術部隊強襲偵察中隊第5威力偵察小隊長

2001年7月6日生まれ

大阪府出身

特技区分 特殊戦、空挺、魔法

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