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私たちは、兄妹よね?

  お兄様と私達に血の繋がりがない、なんて……。考えたこともなかったわ。

 言われてみれば、お兄様は物心ついた時から私に当たりが強かった。

 私の名前をよほどのことがない限り呼ばないのだって、血が繋がっていないからなのだとしたら合点がいくわ。


「あら、ミスティナじゃない!走り回って大丈夫なの?」

「心配いらないわ。お母様、お父様!ご相談したいことがあるの。いいかしら?」

「なんでも相談しなさい」

「ありがとう。お兄様と私達には、血の繋がりがないの?」


 私が疑問を投げ掛ければ、お父様とお母の表情がピシリと音を立てて固まった。

 私がそんな話を始めるとは夢にも思わなかった、なんて空気だわ。

 お兄様に喧嘩を売られた私は、真正面からぶつかって、収拾がつかなくなることも多かった。私がお兄様との血縁を疑うなど、夢にも思わなかったと言うような反応に、ホッとする。


「どこでそんな話を……」

「あらあら、まぁまぁ。そんなわけないじゃない。ミスティナのお兄様なのだから、私の息子に決まっているわ」

「そうよね。ありがとう。お兄様が思わせぶりな反応をするから、心配になって聞いただけよ」

「あいつが……」


 私がお兄様のせいだと告げれば、お父様の表情が曇った。

 思わせぶりな反応をする所は、お兄様そっくりね。やっぱり、お兄様と私達の間に血縁関係がないなんて、嘘だったのよ。お兄様のイタズラを真に受けて、お父様とお母様に確認した私が馬鹿だったわ。


「聞きたかったことはそれだけなの。お父様とお母様は忙しいでしょう?私はこれで……」

「ミスティナ、座りなさい」

「ごきげんよう。おと……」

「大事な話よ、ミスティナ?」

「……はい。お母様……」


 第二皇子の話題になる前に、お暇するつもりだったのに……!

 お父様とお母様の連携プレーからは逃れられず、私は絢爛豪華な椅子の上に座り、逃げられなくなってしまった。

 まるで、処刑場のようだわ……。

 生きた心地がしない私は、何を言われるのかと緊張しながら、静かにその時を待った。


「10年間、殿下の想い人として生きる道を選んだそうね」

「あれは。期限を決めなければ、殿下がいつまで経っても諦めてくれないと──」

「どうしても期限を決めなければならないならば、1年で良かったはずだ」

「お父様……。私は魔力回復役の副作用で体調不良に陥りながらも、殿下と会話していたのよ?約束を取り付けただけでも褒めてほしいくらいだわ」


 10年は長すぎる。

 冷静に考えてみれば、お父様の反応は正論だ。

 両親に次から次へと質問攻めにされるのと、殿下から愛を囁かれること。

 どちらがより苦痛なのかを勝負しているみたいで、居た堪れないわ……。


「殿下と甘いひとときを過ごしたそうね?いいじゃない、もう。殿下に骨を埋めるつもりで……」

「お母様!私はカフシーの家業に、ずっと携わっていたいの!」

「そうやって、ミスティナとしての人生を諦めてきたから……殿下に言い寄られても素直に受け入れられないのでしょう」

「お前は変身魔法を使えば社交的だが、ミスティナとしての交流はロスメル公爵令嬢とだけだったな」

「私がアルフォンス公爵に声を掛けなければ、ミスティナは友人すら作るつもりがなかったでしょう。お父さんとお母さんは、心配だわ」


 両親が私のためを思って言っていることは、痛いほどよく理解している。

 私が嫌がるせいで、幼い頃から婚約者と引き合わされることなどなかったけれど。私のことをどうでもいいと思っているのなら、今頃権力に目がくらんで、第二皇子との婚約を勝手に了承しているはずですもの。

 王家に返事をするよりも先に、私の気持ちを確認してくれるだけでもありがたいと思わなければ。


「カフシー伯爵家に生まれたものとして。迷える子羊の為に、今まで充分にミスティナは働いてくれた。これからは迷える子羊のためではなく、ミスティナ・アクシーとしての人生を歩め」

「そうよ、ミスティナ。あなたの変身魔法は素晴らしいけれど……。あなたがミスティナであることは、変えられないわ。あなた自信の幸せを、考える時期なのよ」


 お母様は、第二皇子との交際を拒否すれば必ず後悔すると私を諭した。お父様は後悔するとまでは言わないけれど、私の幸せを願っている。

 それは喜ぶべきことであって、悲しむべきことではないわ。


「私の幸せは、アクシー家で代行業を続け、迷える子羊を救うことでしか得られないの」

「ミスティナ……」

「第二皇子に愛を囁かれて、ときめいて。そんな些細な幸せよりも、苦しんでいる哀れな子羊を救ったの方がよっぽど、幸福な気持ちになれるわ!」

「殿下から、1時間毎に手紙が送られてくるなど異常事態よ。ミスティナは殿下に、狂おしいほど愛されているのよ。誰もが手を伸ばしても得られないものを手放すなんて、迷える子羊に失礼だと思わないの?」


 迷える子羊達は、どんなに助けてと虚空に手を差し伸べた所で、助けてもらえない。

 迷える子羊がどれほど願っても得られないものは、私は不本意ながら得てしまった。

 迷える子羊を幸せにしたいと願う私にとって、自らの幸せを選び取ることは罪でしかないのに──両親は、ミスティナ・カフシーとしての幸せを溝に捨てるなどありえないと、私を説得している。


「殿下の妻になったとしても、迷える子羊を救う方法はいくらでもあるはずだ」

「そうね。地獄耳の侍女を迎え入れれば、今まで通りの生活だって夢ではないわ。王都内に、支店を作れば良いじゃない。王妃になれば、ある程度は目を瞑ってくださるわよ」

「そうだな。それを婚姻条件にすればいいだけだ」


 両親は手を叩いて、名案だと喜んだ。

 私達が助けられる人々は、カフシー領の教会で祈りを捧げたものだけ。

 カフシー領の教会で祈りを捧げることすら許されず、今も苦しんでいる人々を助ける術は、私には存在しない。


 両親は私が王妃となり、お兄様と同じ地獄耳の魔法が使える侍女を迎え入れたら、王都内で今まで通り迷える子羊を救う活動ができると喜んでいる。


「私の暗躍が殿下にバレたら、命はないわよ」

「誰にも悟られることなく暗躍するのは、ミスティナの十八番でしょう?」

「……お前ならきっと、やり遂げられるはずだ」


 両親は私に、どちらも諦める必要はないと背中を押してくれた。迷える子羊を救うこと。殿下と添い遂げ、王妃となる──ミスティナ・カフシーの人生を諦めない。そのために、私が今するべきことは──哀れな子羊を救うことではなく、お兄様と同じ魔法を使える侍女を探すことだわ。


「……お父様、お母様。私、考えてみるわ」


 私は常識に、囚われすぎていたのかもしれない。哀れな子羊へ手を差し伸べ救うことは、カフシー以外でもできる。準備さえ整えば、どこでもできるのが代行業の魅力ですもの。これを機に、支部をオープンさせるのも悪くないわ。

 王家直属、悪人断罪密告屋──仮名にしたって、ダサすぎるけれど。


 そうと決まれば、行動あるのみだわ!

 私は殿下へ手紙の返事を認めることなどすっかり忘れて、地獄耳の魔法が使える侍女の選定に集中した。

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