5 衝撃!未知の体験!
「「いただきまーっす!!」」
席に着いた瞬間、出された料理にがっつくユウとテル。頬張った口が垂れてきそうなほど詰め込む二人にマナトは呆れた顔になりながらも優しく見守っている。
リリスはその二人の挙動には目もくれず、出された料理を真剣に見ていた。白くトロトロとしたスープのような水に鶏肉が浮かべられており、他には山草や、今まで見たことある野菜と見たこともない野菜。匂いは甘く食欲をそそるが、未知の料理に戸惑うリリス。それを不審に思ったマナトがリリスに不安げに尋ねた。
「食べないのかい?あ、もしかして苦手なものとかあったかな?」
不思議そうに尋ねるマナトに困惑する表情を浮かべたリリスは、恐る恐る聞き返す。
「これは、食べ物……なんですか?」
ゴホッゴホッ!?
前方から咽かえる音が二つ、ユウとテルがマジかというような目でリリスのことを見る。その目を不快気な目で睨み返し、再度マナトのほうへと視線を送る。すると、マナトは納得したように頷いた。
「あぁ、そっか忘れてたよ。いやぁ、最近は二人が何も言わずに出したものをバクバク食べるものだからさ、君は初めて見るもんね。ごめんごめん」
そう言って笑うマナトに不審げなリリス。ユウとテルも納得したように頷くと食べるのを再開していた。ユウにいたっては席を立ち、お代わりしに行こうとしていた。
「それはね、クリームシチューっていうんだ」
「くりーむしちゅー?」
「そう、僕の故郷の料理だよ。まぁ、正確にはちょっと違うんだけどね」
味は保証する。そう言って食べるのを勧めるマナト。確かにいい匂いがするし、それに空腹も限界だ。そう思いなおし覚悟を決めたリリスは、ゆっくりと掬い上げ、口に運ぶ。瞬間――
「――んっ?!」
――舌が溶けた。そう錯覚する。とろとろと流れ込んでくるそれは、少し甘く、乾いた口内を温める。じわりと広がり、喉に落ちる軌道をなぞって身体を溶かしていく。朝の肌寒さが嘘のように感じられた。
「どうかな?おいしい?……って、聞こえてないな」
マナトの声は遠く、食べることに夢中になってしまう。ほろほろと口の中で解ける鶏肉。溜め込んでいた白い防波堤は押し流され、雪崩のように舌を転がる。鼻に抜けるスパイシーな香りが、また食べたいという欲を刺激する。
いつのまにか、目の前には綺麗になったお皿が置かれていた。
「いやー、ここまで気に入ってもらえるとは。料理人身寄りに尽きるってもんだね?」
「えっと、その……おいしかった、です……」
「ごちそうさまっ!」
「ごちそうさまでした」
自分がユウたちと同じように、夢中になってご飯を食べてしまったことに、少し恥ずかしさを感じながら感想を言うリリス。
頬を染めるリリスに笑みをこぼし、マナトは本題を話し始める。
「本当は食べながらでも話そうかと思っていたんだけどね、それどころじゃなかったみたいだったから、改めて聞かせてくれないかな?」
「うっ、すみませんでした……。あまりに衝撃的だったもので、つい……」
「リリスを責めるのは酷ってもんだぜマナト?初めて食べた、ってんならなおさらな」
「そうですよ。相変わらず、人を地味に攻めるのが好きですね。師匠は」
「いや、違うって!そんなつもりはないって!」
「天然かよ」
「鬼畜ですね」
「違うって!」
ワイワイと言い合う三人を見つめる。なぜかこの光景に懐かしさを感じながら、リリスは話し始めた。
「ごめんなさい。あなたちを疑ってしまって。ちゃんと説明もしないままに、わたしを受け入れてくれたこと、本当に感謝するわ。ありがとう」
椅子から立って頭を下げるリリス。誠意を示すため、一人一人としっかりと目を合わせる。
「これまでの経緯をちゃんと説明するわ。そしてどうか、わたしに協力してほしい。……お願いします」
そう言ってもう一度頭を下げる。精一杯向き合うために。
マナトは笑顔で見つめ、テルは黙して同意する。ユウは、
「当たり前だろ?俺たちはもう友達だからな!」
笑って頷いた。
「ありがとう」
リリスは三人に感謝し、これまでのことを話し始めた。