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原作の始まり

小説の中に転生したと気づき、私が家族(クズ)を矯正する事にしてから早一月が経った。


私は怖がる使用人達に気を配り、すれ違えば挨拶をし身の回りの世話をしてくれたらお礼を言う。ミスをしても咎めず、次回気をつければ良いと励ます。

すると、使用人達の態度に変化が現れた。

まだぎこちないが少しずつ私に笑顔を向けてくれるようになってきた


(いい傾向だわ)


しかし、笑顔を向けるのは私に対してだけ。

私以外の家族は何ら変わっていない。

いつものように執事を罵り、いつものように侍女を虐める。


(私だけ変わっても意味が無いのに)


やはり長年蓄積されたクズの根は中々にしぶといらしい。

さて、どうしようかと頭を悩ませていたらラルフが私の部屋へやって来た。


「姉様~~、街に行こうよ!!」


「えっ?」


その言葉に私は躊躇した。

遂に原作が動き出したのだと確信した。

正直、私はジークに惚れない自信はある。

自信はあるが、小説の強制力がないとは限らない。

私としては、少しの懸念も排除しておきたい。


私は必死に断る理由を考えた。

仮病……いや、娘を溺愛しているあの父親がまた医者を呼びかねない。

用事がある……ダメだ。ラルフは私の予定を逐一把握している。


「姉様……僕と街に行ってくれないの?」


「──ぐっ!!」


子犬のようにキラキラした目で言われてしまったら断ることは出来ない。


他人に対しては性悪な弟だが、姉の私の事はとても慕ってくれている。

だから、ラルフは私の言うことは聞いてくれる。そう思っていたが、それは楽観的だった。

私は何度も何度も使用人を大切にしなさいと伝えてきた。

だが返ってくる言葉はいつも一緒


「何でゴミを敬わないといけないの?」この一言。


(両親を矯正するよりも骨が折れるかも)


「はぁ~」と溜息を吐きながら、街へ行く為の準備を始めた。



◇◇◇



街に到着したのはいいのだけれど、到着早々にラルフがやらかした。

一緒に付いてきた侍女に、喉が乾いたから飲み物を買ってこいと命令したまでは良かった。

しかし、その侍女が中々戻ってこない。

ようやく戻ってきた侍女の手には二つの紙コップが握られていた。

だが、慌てていたのかラルフの苛立ちが伝わったのか侍女は私の目の前で派手に転び、手に持っていた飲み物は私の頭から全身を濡らした。

これに腹を立てたラルフが公衆の面前で侍女を罵り出したのだ。


その怒鳴り声に人が集まりだした。


(まずい……このままだとジークが……)


慌ててラルフを止めようとしたが、遅かった……


「──何の騒ぎだ?」


ザッと人が避け道ができた。

そこに現れたのはそれはそれは美しく妖艶な雰囲気を纏わせた騎士。

紛れもなく私を地獄に落とす張本人。ジークフリードその人だった。


「あぁ、これはジークフリード様。お騒がせしてすみません。ウチの者があろう事か主人に飲み物を掛けるという失態を犯したので罰している所です」


ラルフが丁寧にジークに話をすると、ジークは横目でずぶ濡れの私に目をやり「あぁ」と何か納得した様子。

侍女は団長でもあるジークがこの場を収めてくれなければ、どんな罰が待っているのかと顔を真っ青にし、可哀想なほど震え上がっている。


ラルフはジークが納得し勝算を得たと判断しニヤッとほくそ笑んでいた。

その顔を見た瞬間、私の中で何かが吹っ切れた。


バチンッ!!!


気づいた時には私はラルフの頬をぶっていた。


ぶたれた頬に手をやり、目を見開き何が起こったのか理解が出来ていないラルフを無視し、私は震えている侍女に手を差し伸べた。


「──大丈夫よ。こんなものすぐに乾くわ」


紙コップ一杯の飲み物など可愛いもの。私はバケツ一杯の水を被った事があるんだから。


「姉様!!」


ラルフは苛立ちを隠せない様で、グイッと私の腕を引っ張った。


「何故この様な者を庇うのですか!?何故、僕に手をあげたのですか!?」


ラルフは姉である私を睨みつけながら怒鳴った。


(大好きな姉が自分に手を上げたのが、余程気に食わないのね)


私は優しくラルフの頬に触れながら伝えた。


「ラルフ。私は何度も使用人達をぞんざいに扱う真似は止めなさいと伝えたはずです。使用人達が居るからこそ、私達の生活は成り立ちます。もし、使用人がいなければ?貴方の食事の世話は誰がするの?貴方の身の周りの世話は?貴方の移動手段は?」


そこまで言ってもラルフはギリッと歯を食いしばり、謝ろうとはしない。

本当にこの子の矯正は骨が折れる。


私は集まっていた人々に向かい合い、深々と頭を下げ「お騒がせして大変申し訳ありませんでした。私達はすぐにこの場を去るのでご安心下さい」と伝え、乗ってきた馬車に乗ろうとした所で誰かに腕を掴まれた。


──掴んでいた犯人はジーク。


(何ですぐに帰してくれないのよ)


「……何でしょうか?」


「引き止めてしまって申し訳ありません。こちらも仕事なので。……少しお話を伺っても?」


ニコッと妖艶な笑みを見せられ、思わずドキッとしてしまったがすぐに正気に戻り「見ての通りびしょ濡れなので、後日改めてと言うことに……」上手いこと断ろうとしたが相手が悪かった。


「おや?おかしいですね。先程この程度すぐ乾くとおっしゃっていましたよね?」


……言いました。

これはもう話をするまで帰れないなと判断し、渋々ジークと話をする事になった。


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