俺の異世界はなにかがおかしい!〜最強になって転生するはずだったのに〜
「あなたは死んでしまいました」
暗闇の中、ふと見を開けると目の前には美しい女性が座っていた。
延々と暗闇が続く異質な空間に、俺と彼女の二人だけが寂しく取り残されたようだった。
「こ、ここは?あなたは?」
「ここは世界と世界の狭間。あなたはあなたのいた世界で死んでしまいました。だから、ここへ送られてきたのです」
「ど、どうなるんだ?」
「私は次の世界へと人を送る狭間の精霊」
そうか、俺は死んでしまったのか。だがあんまり思い出せないし、いい思い出もないような気がする。
思い出せないような前世より、目の前の彼女が言う次の世界へと希望を抱いたほうがいいかもしれない。
異世界転生、本当にあったのか!なんだかワクワクしてきた。
すごい力を貰って、可愛い女の子と冒険をするに違いない。
「次はどんな世界なんだ!?どんな国だ?異種族とかはいるのか!?」
「次の世界には国はありません。種族もありません」
「ん?どういうことだ?」
「まず、言語は存在しません。コミュニケーションもなければ、生物学的に生命と定義できる存在もいません」
「え…?」
「あるのは特定のパターンを持った波の集合です。彼らには意思も目的もありませんが、ただ空間を伝い安定した軌道を漂います」
「あ、あの、どんなところなんですか?氷山があるとか、火山があるとか、でかい森があるとか」
「何もありません。あなたの世界にはない原子が488種類。とは言っても陽子も中性子も電子もありませんから、厳密には原子ではありませんが。それらが空間を充たしています。空間といいますが、正確に言えば波の集合です。あなたの想像するような三次元的な奥行きはありません」
「…え?」
「波と呼ばれる集合体が基底状態を求め効率よく移動をする、そしてそれらが膨大な量で作り上げている世界です。3次元空間ではなく、波という情報が複数の原子と結びつき、離れながらエントロピーを増大させていく、そんな世界です」
「ま、待ってくれ。俺が転生する世界はそこなのか…?」
「素晴らしい世界ですよ。あなたの元いた世界と違って、原子同士の複雑な動きや反応などが存在しないため、エントロピーの増幅が非常に穏やかです。かなり秩序立った世界であると言えます。また、量子もつれや光の二面性といった非常に高度な仕組みは存在しておりません。あなたの元いた世界は非常に複雑で大きいため、私達の管理する世界の中でもエントロピーの増大が著しい。無秩序な世界で大変不人気です。」
「い、いやだ…!」
「もう決まったことですので。それに、皆様行かれると口を合わせて大変良かったとお話してくれます。まぁ、そちらの世界にいかれると意思疎通が図れないため私の想像ですが」
すると突如、俺の頭上に光の穴のようなものが現れる。
キャトルミューティレーションされるように、ゆっくりと体が持ち上げられる。
「やめてくれ!たのむ!」
「心配しなくても大丈夫ですよ。あ、一つ注意なんですが、波の中をあまり早く動きすぎると赤方偏移やドップラー効果の要領で波の波長が変化してしまうので注意してくださいね」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
「」
...