デアイ
「着いた……って」
俺の目には、ただの砂漠が広がっていた。
「待ってな」
そう言ってレイドが無線を取り出した。
「こちら第一支部のレイド、アンナと共に、新たなファイトドールを手に入れた。追手などの気配もない、入れてくれ」
そう言って無線を切る。
すると、地面がグラグラと軽く揺れ始める。
「あれは……」
砂の中から、小さなコンテナのようなものが出て来た。
「あれはエレベーター、あれに乗れば第五支部内に入れるって訳」
アンナさんがそう言うので、俺は。
「わざわざ地下に?」
そう問うとアンナさんは。
「最近は少ないけど空爆もあったからね」
「……そうでしたか」
「おら、ぼさっする時間は終わりだ、入るぞ」
そう言って、レイドはコンテナ内に車を入れる。
「けほっ、ちょっと待ってレイド、マスクを……」
「あ、あぁすまん」
アンナさんが防塵マスクを付けたのを確認したレイド、俺の方を向いて」
「どうだ? お前は苦しいか?」
「いえ、なんともないです」
「ははっ、それはお前の体が機械で出来てる証拠だろうな」
そんなこと、俺はそう言おうとしたが、どうせまたすぐに足蹴にされる。
そう思って何も言わなかった。
「地下何メートルにあるんです?」
振動とモーター音に暗闇、俺が聞くと。
「150メートルが最上階、地下に出来たビルみたいなものだから、もっと深くもあるよ」
アンナさんはそう言った。
ガコン、という音と共にエレベーターが止まった。
入った時と反対の方向の、ドアが開く。
「食料も少しあるからな、ガキどもに渡す分くらいってところだが」
「俺を探している間に、そんなものまで?」
レイドが車を前進させながら。
「あぁ、途中に古い支部の跡地があったからな、そこに保存食糧があった」
レイドが車を、広い通路の中央に止めた。
「さて、お前ら、大丈夫だから銃を降ろせよ」
「え?」
俺はレイドの言葉に、顔を左右に振った。
「上だよ」
アンナさんがそう言う、俺は上の方を向いた。
10人前後だろうか、銃を構えた者たちが、ガラス越しにこちらを監視していた。
「全く、相変わらずのお出迎え」
アンナさんがそう言ってため息を吐く。
『ごめんねー、前に途中でハックされたファイトドールが居たから。それを警戒ししてるんだ』
頭上のスピーカーから、若い男らしい声が聞こえた。
「そんなの分かってるよ! それより、新しいファイトドールの性能! そして数々の武器! 要らない?」
アンナさんが言うと。
『それは実に興味深いねオオルリ』
そう言って、スピーカーがブツリと音を出して途切れた。
「どうしたんですか?」
「あぁ、多分直接来る」
レイドはそう言って、車から降りた。
俺も降りようとすると、レイドに制止された。
「ハックの可能性、って言ったよな? それをここの連中は警戒している、だからお前は車の上で待機だ」
「その、ずっと気になっていたんだけど、ハックって言うのは?」
やっと気になることを聞ける、と俺は反対側に降りているアンナさんに聞いた。
「キルロイドの干渉で、ファイトドールからキルドールになることだよ」
「……俺がそうなって、ここに人たちを殺すと?」
俺が声を曇らせて言うと。
「実例があったから、悪いけど否定できない」
と、ここで通路の行き止まり、だと思っていたところが開いた。
「やあやあ、レイド、オオルリ。それと、そこの子の名前は?」
「俺は……」
まだ良く見えない青年の声に返そうとしたが。
「ごめんね~、レイドが強制起動したせいで記録障害なんだ。一応アインって名前をつけた」
「アイン? あぁ、昔の数字で1って意味だね」
そこまで言って、俺はやっと青年の姿を見れた。
短い茶髪、オレンジ色の瞳、歳は15くらいだろうか、随分と若く見える。
「リト、早くハック検査して、銃を降ろさせてよ」
アンナさんが不満そうに言う。
「まあまあ、君。記録障害って?」
「……なんで記録なんですか、記憶じゃなくて」
「ねえ、二人とも、この子もしかして……」
「あぁ、自分を人間と勘違いしている珍しいタイプだ」
レイドが言うと、リトと呼ばれた青年は目を輝かせて。
「それは実に興味深い! と、ハック検査だね」
リトは、俺の頭の辺りに何かの装置を近づけた。
「……おかしいな? 壊れたのかな」
怪訝な顔をするリト。
「俺で試してみろよ」
「うん、そのつもり」
リトはレイドの頭付近に装置を近づける。
装置の根元の電球が青く光った。
「壊れてないね、じゃあもう一度……」
しかし、俺の頭に近づけても、装置は何の反応もしない。
「オオルリ、この現象の可能性、何個かあるかい?」
「……一つだけなら、OSが全く違う?」
「ご名答、僕もそう思った」
そう言って、リトは手を差し出してきた。
「僕はリト。リト・アルヴェル、第五支部にようこそ」
「俺は……一応アインって名前で良いです、記憶ないし」
そう言って、リトの手を掴んで、俺は車を降りた。
それと同時に、上で銃を構えていた人々が下がるのが見えた。