ハジマリ
待ってくれ
「……!!」
お願いだ。
「ッ……ッ!!」
俺はこんなところで
「……ッ! レッ……!」
終われない。
「終われないんだ!」
意識が戻った俺は、目の前の光景を見て、動きを止めた。
「キルモードが解除されたのか……?」
金髪の、隻眼の大柄な男が目の前に居た。
その男の首元に、俺は刃を突き付けていた。
「え……俺は……?」
手に持っていた剣を落とすと、俺は自分の手を見た。
一見すると普通の手だが、違う、何かが違う。
「レイド、だから無理やり起こすなって言ったでしょう!」
目の前の男、レイドの後ろから、ひょこりと黒髪の小柄な少女が現れた。
「こんな高性能な戦闘人形を、台無しにしたらどうするつもりだったの!?」
少女が俺の胸をコンコンと叩きながら言う。
「アンナ、しかしそいつの性能は、キルモードが解けてなかったら危うく俺が壊されるところだった」
そう言って、レイドはそばに置いてあった巨大な剣を手にする。
「こいつもそろそろ限界だな……」
レイドの持つ剣は刃こぼれが酷く、剣先も折れていた。
「しっかし、第五世代のレイドを凌駕するその性能、あなた名前は?」
「え? 俺?」
俺が激しく動揺しているのを確認した少女は。
「あー、私はアンナ、アンナ・オオルリ」
「アンナ……さん?」
「そうそう、で、あなたの名前は?」
アンナさんに言われた俺は、必死に思いだそうと目を瞑る。
「……わからない」
声を振り絞って、俺は言った。
「強制起動による記録障害……」
アンナさんはそう言って、大きくため息をついた。
「じゃあせめて、自分の事、なにかわかる範囲で」
アンナさんにそう言われた俺は。
「俺は、人間で……こんなところで終われるか、って思っていたら、そしたら、いつのまにかこんな……」
「ふふっ」
俺が動揺しながら言うと、アンナさんは笑った。
「感情がかなり豊かな戦闘人形だね、あなた」
「ファイト……?」
この人は、一体何を言っているんだ。
「レイド、あんたの左腕を見せてあげてみよう。そうすれば記録修正で戦闘人形としての認識が戻るかも」
「え? それってどういう……」
俺が言い終える前に、大柄な男、レイドが立ち上がった。
「お前、人間だってか?」
「え、あ、はい」
そう言う俺の左腕を、レイドが右腕でつかんだ。
「まあ確かに、よくできた人工皮膚だ、だがな」
そう言って、レイドはマントで隠していた左の腕を、見せていた。
「俺たちの体は、コレだ」
そこには、機械の腕があった。
「え? それは、どういう」
「あぁ? 元々の素体部分だろ? お前の腕も皮膚剥がせば同じだよ」
そう言って、左の腕を動かすレイド。
ウィーン、ウィーン、と、モーターのような音がした。
「なるほどね……」
「アンナ? どうした」
俺を置いてけぼりにして、二人は会話を続ける。
「これ、この数字と文字、なんだかわかる?」
「どれどれ……、これは古い言葉だな、待ってろ、今情報を照合する」
悪い夢か何かか? 俺はそう思って、自分の体を確かめる。
なんだか動きにくい服ではあるが、そこは問題じゃない。それよりも、体中の違和感。
「……アイン、って読む様だ」
「なるほどー」
会話を終えた二人、その内の一人、アンナさんがやってきて、言った。
「今日から、あなたの名前は、アイン」
「アイン?」
「そう、他の周辺武装、機材も持っていくから、私たちのシェルターに来て」
「シェルター? そこで、何を?」
「人間だけを殺す機械からの避難」
「キル……、殺すってこと!?」
「うん、あなたはこっち側だけど、起動したてで記録も無ければ、ハックに対するブロックがあるかすらわからない」
記録? ハック?
「そんな、俺は人間だ! 信じてくれ!」
「うーん」
アンナさんがそう言って、少し考える。
「少なくとも、私は人間」
そう言って、アンナさんは俺を指さし。
「あなたは機械」
とだけ、笑顔で言った。
「そんなこと!」
俺が否定しようとすると。
「ま、そこまで言うならレントゲンでも撮って体を見せてあげる。だから、今は私たちと来て?」
「……分かりました」
俺はそう言って、一歩、歩みを進めた。
この一歩が無ければ、俺がそう後悔したのは、この後だった。