あれがこうしてこうなって 3
セスの耳に、ティファの声が聞こえた。
はっきり聞こえたのは、最初だけ。
自分の名だった。
廊下を、一気に駆け抜ける。
息室の戸を開いた瞬間、理性が焼き切れた。
「お前ら……俺の女に、なにをしている……」
ティファを、3人の男が押さえつけている。
その3人が、驚きとともに、振り返った。
瞳には恐怖が宿っている。
おどおどしつつも、ティファから離れない。
それがまた、セスの理性を奪う。
3人の男に、憎悪以上の感情がわきあがった。
「俺のものから、離れろ……」
ハッとしたように、3人が、慌ててティファから離れる。
視線の先にあるティファの姿に、セスの意識が、ふっと切り替わった。
寝巻の裾が膝までめくられ、ティファの白い足が露わになっている。
目にしたり、ふれたりできるのは、自分だけのはずだ。
「へ、陛下……こ、これは……」
「そ、その女に、さ、誘われ……私どもは……」
「ご、ご寝所は中、中からしか開かない仕、仕組み……」
「その、その女が、な、中、中から、開い……」
「我らは、誘われただけで……」
「い、異国の女とは、そういう……」
3人は横に並んで平伏し、言い訳をまくしたてていた。
だが、セスには聞こえていない。
ティファは、自分だけのものなのだ。
そういう女に、この男たちはふれた。
見た目に、セスは変わらない。
怒りの表情すら浮かべずにいる。
しかし、心の裡に、すでに理性は微塵も残っていない。
その3人の前に立つ。
「戯言はいい。顔を上げろ」
3人が、びくびくしながら、顔を上げた。
感情のこもらない瞳に、3人を映す。
平坦な声で、言い捨てた。
「お前らは、最早、俺の臣民ではない」
3人の目が、見開かれる。
その首が横にずるりと滑り、床に、ごろりと転がる。
思い出したかのように、後追いで、血が音を立てて、首から吹き出した。
そこいら中に血が飛び散り、床を濡らしていく。
瞬時に抜いていた刀を、床に放り投げた。
宮を出る前に、腰にさして出た刀だ。
がらん…と、床にぶつかる音が響く。
セスは無表情で、座った状態のままの男たちの体を蹴り飛ばした。
バタバタと倒れていく。
首のない死体となった3人を、冷たく見下ろした。
殺してなお、怒りを鎮められずにいる。
「セ、セス……?」
声に、ゆっくりと振り向いた。
それから、大きく息をつく。
ティファが体を起こし、セスのほうを見ていた。
泥水色の瞳に、涙はない。
「火事は、どうなりましゅれ?」
言葉に、小さく笑う。
ティファのほうが、よほど危うかったのだ。
身の危険を感じていなかったはずはない。
なのに、真っ先に出た言葉が「火事はどうなりましたか」だ。
(泣きもせず……ん? あれは……)
ティファの近くに、刀が落ちている。
寝所の奥に置いていたものだった。
刀身には、血がついている。
(応戦したのか。男3人を相手に……)
思えば、ティファとは、こういう女だった。
意に沿わないことに対しては、死すらも厭わないといった行動をする。
ティファに歩み寄ってしゃがみ、その体を抱きしめた。
なぜだか、ひどく安心する。
ようやく怒りがおさまっていた。
「火事は、たいしたことはなかった」
「怪我をした人は?」
「燃えたのは納屋だ。怪我人はいない」
「それは、よろしゅるごじ……」
少し体を離し、ティファを見つめる。
自分では見えないが、血しぶきを浴びているはずだ。
にもかかわらず、ティファには、まるきり怯えた様子がない。
いつもの泥水色の瞳に、セスを、いつものように映している。
「俺を呼んでいたな?」
「いえ、セスではごじゅりまぬ。護衛を呼んでと申しゅたごぜ」
「宿直を呼べと言っていたのか?」
こくりと、ティファがうなずいた。
あの状況で「夫」を呼ばないとは、どういう了見だ、と思う。
少し不機嫌になった。
「なぜ、俺ではなく宿直を呼ぶ。俺を呼ぶべきだろうが」
「セスは国王で、火事を気にしてごじゃりば……」
言いたいことは理解している。
が、逆に唖然としてしまう。
(国王としての務めがあるから、そちらを優先したというのか? 自分の身が危険だったことは、わかっていただろうに……)
セスは、どう言えばいいのか、わからなくなった。
テスアで剣を取る女は、寝所役を申し出てきたりはしない。
そして、寝所役を申し出てくる女は、か弱く、庇護を求めてくる。
セスに甘えたがり、頼りにしたりするのが普通だった。
だが、ティファは剣を持ち、自身の身を守ろうとはするが、完全に男を拒絶しているわけでもない。
恥ずかしがったり、照れたりという仕草を見せたりもする。
やはり手放し難い女だ。
ティファの頭の上に、軽く手を、ぽんと乗せた。
「さすがは、俺の選んだ妾だ」
「自画自賛……引くわ~……」
「なんだと?」
「なんでもごじょりましぇね」
「いいや、悪態をついたな。わからんと思うなよ」
ティファが、ひくっと、顔を引き攣らせる。
ニっと笑い、セスは、ティファを抱き上げた。
スタスタと寝所に入り、さらに湯殿に向かう。
手前の召し替え部屋で、ティファを床に降ろした。
「汚れた。湯に浸かるぞ」
湯殿役に慣れてきたらしいティファは、ホッとした表情を浮かべた。
セスは、宮を出る際に着替えてきた常着を、脱ぎ捨てる。
いつもなら、ティファは、常着を着たまま役目を務めていた。
が、火事の前に湯は終わらせていたため、今は寝巻。
しゃっ。
「な、なにを……っ……?!」
「前に教えただろう? 寝巻の利がなにか」
有無を言わさず、寝巻を剥ぎ取った。
ティファは、腕で、あちこちを隠している。
顔を真っ赤に染め、セスを睨んできた。
「お前の貧相な体は、もう見た。目の保養にならないのは、知っている」
「し、し、失礼にもほどがあるでしょっ! どういう言い草……っ……」
「ほう。お前の村では、湯殿で交わる風習でもあるのか? テスアにはないがな。湯殿では湯に浸かり、体を清める。ほかにすることなどない」
セスには通じない言葉をわめいているティファの腕を掴んだ。
引っ張って、湯殿に連れて入る。
「ちょ……待っ……手! 手は離して! せめて隠させてよぉッ!」




