あれがこうしてこうなって 2
男3人は、ティファの声に、一瞬、怯んだ様子を見せた。
ティファは、その隙をついて、一気に前に出る。
どうせ逃げる場所も、隠れる場所もないのだ。
正面を避け、右に回り込む。
(ドレスより動き易いじゃん! いつ襲われるかわかんないからって、ドレスで、鍛錬してたもんなぁ……重いし、動きにくいし、あれはキツかった……)
湯上りで、そろそろ寝ようとしていたため、ティファは寝巻姿。
裾がパタパタしてはいたが、ドレスに比べると、格段に動き易かった。
右にいた男が振ってきた刃を、自分の刀で弾く。
キィンと、きれいな音が鳴った。
上に弾かれた腕を、男が振り下ろしてくる。
その間にも、ほかの2人がティファを囲もうとしてきた。
ひだりから来た男のほうに、視線だけを投げ、ニと口元を緩める。
「私を、殺す?」
テスアの言葉で言った。
とたん、刀を振り下ろそうとした男の動きが鈍る。
やはり殺す気はないのだ。
確信する。
ドガッ!
ティファは、刀を振り下ろすのを躊躇した男の横腹に蹴りを入れる。
鍛えるのが難しい脛は使わず、折り曲げた膝を使った。
一瞬、じん…とした痺れが走ったが、気にしない。
鍛錬も、相手は男性ばかりだったからだ。
(ウチなら、お父さまが治癒してくれるけど……ここじゃ無理だもんね。なるべく怪我しないようにしなきゃ)
よろけた男の背後に回り、襟首を掴む。
ぐいっと引っ張って、自分の盾とした。
体勢が崩れており、背後からであれば、相手が男であっても、それなりの力さえかければ引っ張ることくらいはできる。
が、長くは保たないのも、わかっていた。
なので、盾とした男の膝の後ろを蹴り飛ばす。
簡単に、かくんっと膝が折れ、男が前のめりになった。
ここで首の後ろを刺せば、と思ったところで、はたとなる。
(これ、刺しちゃったら抜けなくなったりするんじゃ……?)
この武器は、剣とは違うのだ。
斬ることに特化している武器のようなので、突く攻撃には向いていないかもしれないと、頭の隅で考える。
剣であれば、確実に首の後ろを突き刺していた。
が、刀の場合は、振り薙いで、首を横斬りにしたほうがいいかもしれない。
一瞬の判断の迷い。
右から、ひゅんという音がする。
膝を折っている男は無視し、横から来た刃を弾いた。
後ろからの攻撃は、前に飛んでかわす。
間一髪というところで、男たちの刃から逃れた。
「この女……っ……」
「待て、落ち着け。こちらは3人だ。慌てるな」
真ん中にいた大柄な男が、憤っている2人を宥めた。
ティファの様子を窺いつつ、正面に弧を描くようにして3人が立つ。
囲まれきってはいないが、ティファの左右への攻撃は封じられてしまう。
そして、なぜか、刀を両手で握っていた。
片刃の剣では、見たことのない構えだ。
それぞれに刀身の高さが違う。
真ん中の男は刃先を下に、右の男は上に、左の男は体の前に置いている。
剣の場合、向き合えば、たいていは相手と同じくらいの高さに揃えてくるのだ。
(そっか! 私が、どの位置から攻撃しても、誰かに対応されちゃうんだ!)
開かれた戸から、寝所のほうに、じりっと後ずさる。
合わせて、男たちも前に出てきた。
うまくかわして戸口に走っても、息室が広いため、手前で追いつかれるだろう。
下手に、背中は見せないほうがいいと判断する。
とはいえ、3人の刀を、1度に受けきるのは無理だ。
ふっと、軽く息を吐く。
迷わず、ティファは正面の男に向かって走った。
直前で、スッとしゃがみこみ、刀を受ける。
そのまま、その男に体当たりを食らわせた。
男の体が、横へとかしいだ。
すかさず、左の男との間にできた隙から刀を薙ぐ。
ピッと、血が飛んだ。
左側の男の袖が破れ、その下の肌が切れている。
それを横目に、息室のほうへと転がり込んだ。
すぐに立ち上がり、刀を構える。
(ガードがないから、手首を狙ったほうが良かったかな……)
さっき、正面の男は、刃先を下にしていた。
右の男は上、左は真ん中。
ティファがしゃがむと、左右の男の刃の間合いから、わずかに外れていたのだ。
斬りかかってきても、刃がとどくまでに、どうしても間ができる。
それでも、左の男の刃のほうがティファには近く、先にとどくとわかっていた。
だから、すぐに攻撃へと転じたのだ。
斬られた腕を、左の男が押さえている。
押さえた手の間から、血が滴り落ちていた。
(腕を斬り飛ばすつもりでいったのに……これ、儀着だったら生地が厚くて服しか斬れなかったかも……)
切れ味は、とてもいい。
剣とは比較にならないくらいだ。
けれど、ティファには不慣れな武器だった。
力の乗せかたや、振りかたが、イマイチしっくり来ない。
(力任せじゃダメっぽい感じ……性能のおかげで、斬れてるだけで……)
男たちの表情は、剣呑なものに変わっている。
真ん中の男が、刀身を返した。
ティファを傷つけてでも、身動きを封じる気になったらしい。
ティファも、刀を片手で握りしめる。
手を横にして、自分の間合いを作った。
その範囲に踏み込んできたら、刀を左右に素早く振る。
全員の、どこかしらに傷をつけられるはずだ。
その間に、自分に有利な間合いに、逃げる。
動きを思い描いているティファに男たちが、突っかけてきた。
刀を横に振ろうとしたティファに、真ん中の男が、にやっと笑う。
瞬間。
どんっ!!
体が、横倒しになっていた。
なにが起きたのか、わからない。
ロズウェルドでは、剣で試合うのが当然だ。
騎馬での訓練も積んでいる。
が、しかし。
(なに、これ?! 反則でしょっ?! こんなの知らないよっ!!)
足首に、縄がかかっていた。
右の男が、縄を放ち、ティファの左足を絡めとったのだ。
そう、ティファは知らなかった。
剣だけが武器ではないということを。
「もう抗えぬぞ」
「世話を焼かせおって、異国の女が……っ……」
「おい、裸に剥いてしまえ」
横倒しになったティファの体を、男たちが、うつ伏せに押さえつけてくる。
倒れた際、刀も手から離れていた。
腰紐に手もかけず、男たちは、寝巻の裾をまくりあげようとしている。
腕も背中も膝で押さえられていて、身動きができない。
『ティファは俺の妾ぞ? 俺の理を軽ろんじるか』
なぜか、セスの顔が浮かぶ。
承諾した覚えはないけれど、自分はセスの「妾」なのだ。
そして、セスは、それを尊重してくれている。
なんとしても、自分の身は守りたかった。
が、セスは、国王としての大事な仕事中なので。
「セスッ! 嫁が絶体絶命ッ! 近衛騎士みたいな人、寄越してーッ!」




