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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王と勇者

作者: ふぉー

初めての小説投稿です。

視点も色々ばらばらなので分かりにくいと思いますが、読んでくれると嬉しいです···

 


 初代魔王は人間と戦争なんかしたくなかった。いくら魔族が人間より強いとはいえ、民が傷を負ってしまうのは防げない。それなのに、愚かな人間たちは忌々しい天族に助言をもらい、勇者を喚んだ。


 魔王は憎むべきは天族であって、人間ではない、と人間に対して甘かった。そのため魔王は話し合いで済むならそうしようと、人間に扮して勇者のもとに出向く。そこで勇者を説得し、戦争を無くすつもりだった。


 しかし、そこで思わぬことが起きた。勇者が人間に扮した魔王に惚れたのだ。勇者からの熱烈なアプローチを受け、甘々な魔王は、勇者以外の仲間から怪しまれながら勇者たちと行動を共にすることになった。


 一緒に行動するようになってから、戦争の必要性を問うたが、勇者は国のためと引き下がることはなかった。いよいよもうすぐで魔王の城。旅の最後の夜になるだろう。そこで魔王は勇者に最後の問いかけたをした。─本当に、後悔はないのね?


 勇者は答える。─無い。国のために、人間のために、俺はここまで来た。





 翌朝、人間に扮していた魔王は姿を消した。勇者たちは魔王の姿が見えないことに心配しつつも、魔王城の手前ということもあり、魔王討伐を優先することにした。



 ◆



 ──この扉を開けば魔王がいる。勇者はボロボロになりながらも、仲間や兵は何人、何十人やれてしまっただろうが、みんなが導いてくれたおかげでここまで来れることができた。ようやく魔王。こいつを倒せば世界が救われ、平和がやってくる。人々が魔物に怯える日々はなくなるのだ。そう信じて勇者は扉を開けた。



 ◆



 正面、その王座に座るのは魔王。勇者は私がいることに驚くだろうか。ずっと仲間として行動を共にしていたのだ。できれば争いたくなかった。このまま、勇者と共に旅ができればどんなに良かったのだろう···


 扉が開く──魔王と勇者は見つめ合い、沈黙が続く。

 数日ぶりに見た勇者。だいぶ疲れが溜まっているようだ。

「こんばんは、勇者。いい夜ね」

 最初に沈黙を破ったのは魔王だった。

「こんばんは、魔王。本当にね」

 勇者は返した。


 また、沈黙が続く。今宵、どちらかが死ぬ。どちらかが死なねば終わらぬ戦争。魔王は覚悟する。

 旅の合間、魔王は勇者から何回もアプローチを受けるのだ。情がわかないはずがない。むしろ魔王はいつの間にか勇者が好きになっていた。そんな感情を抱くはずもないと思っていた。だけど──勇者に殺されて死ねるなら本望だろう···


「始めましょう」





 ◆◆





「泣かないで」


 魔王は勇者の頬に手を当てる。


「あなたの胸の中で死ねるなら、私は幸せだわ···」

「···っ死ぬな!」


 おかしなことを言う。私をここまで追いやったのはあなただというのに。本当におかしな人。


「あなたは···英雄と讃えられ、伝えられていくのでしょう···魔王は悪の根源とも···だけど忘れないで···っげほ」


 魔王は最後の力を振り絞って微笑んだ。




「あなたを愛してる」




 ◆




 ──抱きしめていたネフィアの身体が、黒い霧となって消えていく。



「···ぁ、ぁあ、ネ、フィア···」


 俺も、愛していた。一目見たあの時から。華奢な身体、今に消えてなくなりそうなのに、彼女は強い瞳をしていた。それに、俺は惚れたのだ。



 ◆◆◆



 俺たちは数千の兵を引き連れ、魔王討伐のために長い旅をしていた。その途中で彼女に出会った。彼女は時空の操術を持っていたため、魔王討伐のために旅をしないかとこちらから願い出た。了承をもらえ、しばらくまだ一緒に居られるのだと思うと嬉しくてたまらなかった。

 そして、旅の合間に彼女を口説いていた。その度に彼女は困ったように笑った。逆にそれが愛おしくて、迷惑だろうなと思いつつも、何度も何度も彼女に好きなのだと伝えた。それに応えることはなく、代わりに何回も問われたことがある。


 ─この戦争を、本当にやるの?魔族と人間が隣に並び、手を繋ぎ、生きていく未来はないの?─


 彼女はいつも血が流れることを嫌がっていた。だから彼女は争いをしたくないのだろう、魔族にも慈悲の心を持ったのだろう。そんなふうに思ってた。だけど···いつからだろう。俺は彼女にある予感を感じていた。



 ◆◆



 魔王城の目の前まで来た。隣に彼女はいない。彼女は消えてしまった。最後に聞いた言葉は、あの問いだった。


 ─本当に···本当に後悔はないのね?


 俺は無いと答えた。俺は国に、みんなに支えられてここまで来たのだ。そのために魔王を倒さなければならない。

 その答えを聞いた彼女は、あの時のような、出会った頃の強い瞳をしていた。彼女はそう、と答えると、寝る体勢に入った。しばらくすると、すーすーと寝息が聞こえてきた。



 翌朝、彼女はいなくなっていた。もうすぐ魔王城。彼女を探す時間はない。彼女が戻ってきたときに困らないよう書き置きをして、彼女を心配しながらも、俺は魔王へと向かった。



 仲間たちが道を開き、俺を魔王のもとへ導く。その扉の前に辿り着いたのは空が闇に飲まれた頃だった。扉を開くと、正面にある王座には誰かが座っていた。見つめ合っている気がした。


「こんばんは、勇者。いい夜ね」


 やはり。

 最初に思ったことだった。聞いたことのある声、口調。陰で顔はまだ見えないが、浮び出るシルエットはとても似ていた。


「こんばんは、魔王。本当にね」

 似たような言葉で返した。


 しばらく沈黙が続き、魔王は言った。


「始めましょう」


 戦いの合図だ。




 ◆◆◆




 魔王は強かった。とてつもなく。これまでの道のりの比じゃないくらいに。合間見る魔王の、赤みがかった紫の瞳はとても強い瞳をしていた。彼女を思い出す。が、魔王との戦いにそんなことを考えてる暇はない。次から次へと攻撃が襲ってくる。彼女の能力なのか、その生きているような黒い霧は触れたものを飲み込んでしまうようだ。それを避け、隙を見て攻撃をするが、当たった感触はまだない。


 ◆


 だんだん避けきれなくなってきた。体の至るところに傷がつく。彼女の体には傷はできてない。圧倒的にこちらが不利だった。彼女には勝てない。だけど、それで良かった。俺は笑っていた。彼女との戦闘が楽しいのかもしれない。彼女に傷がなくて傲慢に安心したのかもしれない。理由はなんだっていい。とにかく俺は彼女と同じ空間にいれて嬉しかったんだと思う。


 そんな俺への罰だろうか。展開は急変した。


 天から俺へ、光が降り注いだ。──祝福。天の神からの剣の形をした祝福だった。それは彼女を殺すには十分の力で、彼女を殺したくない俺にはいらない力だった。だが、祝福の力はそれを許さない。祝福の力は俺を使い彼女を切り刻んだ。何度も何度も何度も何度も。やめてくれ。俺はそんなことしたくはない。


 ◆


 時間切れなのか、祝福の力はその姿を消した。残ったのは血まみれの俺と、血まみれで倒れた彼女。すべて、彼女の血だ。

 ふらついた足取りで彼女のもとへ向い、彼女を抱き上げた。


「···ごめ、ん。ごめん。ごめん···ごめ···」

「泣かないで」


 泣かないで···?泣く···?泣いているのか俺は。

 

 彼女は俺の頬に手を当てた。俺はそれに自分の手を重ねた。


「あなたの胸の中で死ねるなら、私は幸せだわ···」

「···っ死ぬな!」


 おかしなことを言う。あなたをここまで追いやったのは他でもないこの俺なのに。


「あなたは···英雄と讃えられ、伝えられていくのでしょう···魔王は悪の根源とも···だけど忘れないで···っげほ」


 彼女が微笑んでいる。俺は言葉を聞き逃すまいと、彼女をいっそう抱きしめた。






「あなたを愛してる」







 ◆◆◆





 人間の国に戻った。俺は魔王討伐の褒美として多大な財産と爵位、姫との婚約が与えられた。魔王討伐に至る原因となった魔物の被害は減り、世界には平和が訪れたと思われた。


 ◆◆


 数ヶ月後


「アランよ、何故まだ魔物の被害が起こる?収まるどころか、拡がりつつある。民からの訴えも途絶えないのだ」


 謁見の間、王座に座るこの国の王は元勇者に問うた。


「···さぁ、どうしてでしょう。私にもわかりかねます」

「とぼけるな!貴様が魔王を殺し損ねたのだ!あいつはどこかで生きている!」


 何言っているのだろうか。魔王は死んだ。彼女は消えたんだ。俺のせいで。


「···魔王は死にました。霧になって消えるところをこの目で見たのですから」

「嘘をつけ!なら何故被害が増える!?···もしや、貴様、魔王に感化ではあるまいな?」

「···は?何を根拠に···」

「ええい!うるさい!衛兵!こやつを捕らえろ!!こやつは魔王に下った裏切り者だ!」


 なんなんだこの王は?国を救えと俺を魔王討伐に行かせたくせに、裏切り者だと···?


「お父様!何事ですの!」


 婚約をしている姫がやってきた。姫ならきっと止めてくれるだろう。


「ああ!姫!無事か!こやつは魔族だったのだ···!わしらを騙そうとしていた」

「まぁ!なんてことを···!」


 まさか。こんな戯言、誰が信じるのか。


「なんて卑劣なの···!!お父様!わたくし怖いですわ!」


 いたわ。


「ああ姫よ!婚約させたわしが愚かだった!すまない···!!」

「いいえ!お父様!お父様は悪くございませんわ!悪いのはこの騙した男よ!」


 なんなんだこの茶番は。付き合っていられない。この国を出よう。もうここでは暮らせなさそうだし。


「逃がすものか!反逆者を捕らえよ!」


 衛兵がわらわらと俺の周りを囲む。衛兵が俺を捕えられると思うなら、勇者いらないと思う。


「どうした!アラン!命乞いをしてもいいのだぞ?やり方は知っておろう!どうせ魔王もお主に命乞いをしていたのだろう?」

「···彼女を愚弄する気か」

「やはり!魔王に下ったか!裏切り者め!」


 王は、自分が正しかったというように笑みを浮かべた。


 こんな救いようのない馬鹿は初めてだ。

 彼女は賢かった。美しかった。強かった。こんなもの達のために俺は彼女に手をかけてしまったのか。なんて大きな間違いを。


 衛兵たちがジリジリと近づいてくる。


 守っていたものを守らなくていいと分かった今、なんて素晴らしい気持ちなんだろう。こいつらは敵、世界の害悪。消さねばならない。


 途端、アランの足下から黒い霧がでてきた。霧は衛兵たちを飲み込み、消した。


「!?」

「···そうだね、俺は彼女の下僕だ。彼女より価値のある命なんてない」



 その日、王国は黒い霧に飲み込まれ、消えた。







 ──そして俺は魔王になった。




 ◆◆◆




 魔王になって分かったけど、魔物はどうやら魔族が生み出してるものではなく、人間の黒い感情が溜まって発生する災害だそうだ。


 ···俺はなんのために戦ってきて、彼女を殺したんだろうな。

お読みいただきありがとうございました!

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